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第六十七話 傷物(6)
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玄関のドアを開けると、冷たい灰色の床に血が数滴滲んでいた。
「待って……」
私の声は、打ち付ける雨の音に掻き消された。黒い大きめの傘を奪うように掴み、痛む頭を引きずって走り出す。
傘に当たる痛そうな雨音の中、携帯電話を開いた。午前三時、すっかり静かになってしまった街の中で、声を殺して彼女が泣いている気がした。目的地も無く走りながら、携帯電話を持つ手に力が入る。
「お願い、出て……」
ブツリと切られる音に強く目蓋を閉じた。
「……どこにいるの。やだよ、あなたが居なくなるなんて」
気付けば美容院の前に来ていた。いつも通っているはずの大きな一面ガラスは、とても冷たい色のまま、うっすらと世界を反射していた。そこに映るのは、肩で息を吸うパンクロッカーのような私。
「はあ、はあ……。私が、しっかりしないと……。考えろ、私なら何処に行く……」
私がいじめられたり、辛かったとき。誰にも会いたくないとき。行く場所なんて大体決まっていた。
そして、なによりも、あの子との思い出の場所。間違いないと思った。
「待って……」
私の声は、打ち付ける雨の音に掻き消された。黒い大きめの傘を奪うように掴み、痛む頭を引きずって走り出す。
傘に当たる痛そうな雨音の中、携帯電話を開いた。午前三時、すっかり静かになってしまった街の中で、声を殺して彼女が泣いている気がした。目的地も無く走りながら、携帯電話を持つ手に力が入る。
「お願い、出て……」
ブツリと切られる音に強く目蓋を閉じた。
「……どこにいるの。やだよ、あなたが居なくなるなんて」
気付けば美容院の前に来ていた。いつも通っているはずの大きな一面ガラスは、とても冷たい色のまま、うっすらと世界を反射していた。そこに映るのは、肩で息を吸うパンクロッカーのような私。
「はあ、はあ……。私が、しっかりしないと……。考えろ、私なら何処に行く……」
私がいじめられたり、辛かったとき。誰にも会いたくないとき。行く場所なんて大体決まっていた。
そして、なによりも、あの子との思い出の場所。間違いないと思った。
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