そこにある愛を抱きしめて

雨間一晴

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第七十二話 傷物(11)

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「ああ!」

 後輩が手に伝わる感触に驚いたのか声をあげて、涙が流れる目を見開いて振り返った。細いカッターナイフの刃先が音を立てて折れていき、微かに太腿が痛んだ気がした。

「大丈夫だよ」

「店長……、うう……」

 前髪も引き千切られたように無くなっていた。涙と鼻水と血、そこに貼り付く茶色い髪と悲痛の顔。一生懸命に泣いている彼女を、何も言わずに抱きしめた。

「……何で、どうして!」

「うん、辛かったね」

「店長も私のこと嫌いなんでしょ!誰も私なんか必要としてないんだ!離して!もう死なせてよ!」

 反射的に後輩の肩を掴んで引き離し、思いっきり頬をビンタした。考える間も無く、私は怒っていた。

「いい加減にしなさい!死んで言い訳無いでしょ!私はあなたが好き!それが信じられないの!」

「……ごめんなさい、でも、私なんか居ない方が良いんです。迷惑ばっかりかけて」

「お姉ちゃん!居なくなっちゃ嫌だよ!」

 気付けばすぐ隣に、少女が泣きながら立っていた。
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