恋する変温動物

音羽夏生

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番外編 おそろい

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 御堂類、二十歳。
 自立心旺盛な『麒麟』として生まれ、恋なんてしないと硬派な人生を歩んできた──はずだが、現在、恋に恋するお年頃の真っ只中である。
 初恋の人と相思相愛の恋人になれて、しかも箱入り温室育ちということも重なり、大好きな恋人兼飼い主のことが気になって仕方がない。
 夫婦は似てくるとか、ペットと飼い主は似てくるとか言われるが、そのどちらも兼ね備えた高梨との関係で、

(どこか似てるところとか、同じところなんて、あるかな……?)

つい、そんなことを考えてしまうのだ。

(夫婦……には遠いけど、でも僕には一生の人だし。『御堂の麒麟』の飼い主は、そもそも一人だけだし)

 高梨が男女恒温変温を問わずモテるだなんて、聞かなくてもわかる。具体的にやきもちを焼きたくないから聞いていないが、あんなに素敵な人なのだ。絶対に、ものすごくモテるに違いない。
 無駄にやきもちを焼く前に、素敵な恋人になるべく自分を磨くと決めているので、類はそこには敢えて触れないようにしていた。だからこそ、お守りが欲しい。
 有り体に言えば、高梨との『おそろい』が欲しい。夫婦なら、飼い主なら、似てくるはずの何か。物ではなく、目に見えないところでも繋がっているという、確かな証が欲しいのだ。

「高梨さんと僕、似てるところ、あると思います?」
「ないですね」

 切ない気持ちを抱えながら訊いたのに、脊髄反射で返された高梨の答えはにべもない。

「私は類君ほどのんびりしてませんし、ぼんやりもしてないつもりです」

 つまり動作も思考もトロいということだ。
 容赦なく事実を指摘され、類はつい口を尖らせた。のんびりぼんやり──残念ながら否めないが、今は、そういうことを聞きたいのではない。
 むくれ顔の変温動物に、高梨は反対に頬をゆるめる。

「それに君ほど可愛い生き物は、そうそういないと思っています。誰にも似ていない、色々な意味で唯一無二ですよ、類君は」
「……高梨さんの、ですから。ずっと可愛いがってください、ね」

(高梨さんも、僕の、唯一無二ですから)

 この世にたった一人、類の愛しい飼い主。
 どうかずっとこの手を離さないで、と密かに願いながら高梨の手に触れると、すぐに両の手のひらで、温めるように包まれた。

「私は優秀な飼い主ですからね。最後まで責任を持って可愛がるつもりです」
「はいっ、ぜひ! そうしてもらえたら……」
「もらえたら?」
「幸せに、なれます。二人で」
「……正しい未来予測ですね」

 正解を褒めるように類の柔らかな髪を撫で、高梨が考える口ぶりで提案する。

「その予測の精度を上げるために、次の週末、虫除けの指輪でも買いに行きますか」
「虫除けの……?」

 腕時計みたいな形の虫除けのCMを見たことがあるが、指輪型のものがあるのだろうか。
 今は高層階に住んでいて、蚊とは無縁の生活だが、平日は毎日外出する高梨には必要なのかもしれない。
 それに恋人と出掛けられるなら、どんな目的でも特別で、うれしい。虫除けの意味もわからず、にこにこと頷いた類に、高梨はため息をつく。

「何しろ君は、こんなにのんびりぼんやりですからね。──二人で同じデザインの指輪を買うんです。こう言えば、わかりますか」

 外野、もとい、君のご家族がうるさそうですが、と付け足された高梨の呟きは、類の耳をさらさらさらりと素通りしていった。

(二人で同じデザインの、指輪……!)

 目に見えない絆を証立てる、目に見える二人の約束。──おそろいの、指輪。
 欲しいと思っていたものが、思いがけない確かさで、類の手を大切な人のそれに繋ごうとしている。
 もちろん類のToDoリストの一番上には、『週末、指輪を買い行く』がすぐさま書き加えられ、週末までの数日間、類は御堂家が懇意にしている老舗宝飾店から取り寄せたカタログを眺めて過ごした。
 二人の『虫除け』リング購入は、電話で宝飾店について訊ねられた執事の、親心という名の勘と調査でほどなく御堂家の耳に入ることになり、末っ子を溺愛する一族に、ある種の阿鼻叫喚をもたらしたことは言うまでもない。
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