トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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5章

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 チーム戦なら、それぞれに役割があるはずだ。トリを務める司令塔は、闘牛士。誰もが彼の妙技を楽しみに足を運ぶわけだから、エンターテイメントとしてチームに必要なのは、劇的な最後をお膳立てすることだ。つまり、牡牛を最良の状態に整える、その過程すらも、槍の場というショーとして成立させている。
 闘牛士のカポーテに誘導されて、牡牛が槍方の馬に突進していく。槍方は牡牛を「整える」ために首の上部、太いうなじのすぐ後ろを槍で突く。痛みに牡牛は首を垂れ、これがカポーテやムレタに反応しやすくするための工程であることがわかる。刺されてもなお勢いを殺さず体当たりする獰猛な牡牛に、馬ごと押し倒されそうになるのを、槍方は何とか踏みとどまっている。
 テオバルドが、「この牡牛トロは当たりだな」と呟いた。
 しかし円形の闘牛場に、凄まじいブーイングの波が広がる。槍方の技量に問題があるのではなく、牡牛の勢いを削いだことに文句を付けたいようだ。闘牛士と対峙する前に、その力を削らないでくれ、と。

 続く銛打ちの場テルシオ・デ・バンデリーリャも、牡牛の調整の場となった。銀の衣装の銛打ち士は三人、一人はカポーテで牛を誘導し、残る二人が六本の紙飾りの付いた銛を背に打ち込む。一人は突っ込んでくる牡牛の攻撃を身を躱して避けながら技を放ち、もう一人は自ら牡牛に走り込んで銛を打った。槍の場の後で動きが鈍った牛に、その最期の場のために刺激を入れているのだ。
 ここではもうブーイングは起こらない。闘牛場に足を運ぶ誰もが待ち望むクライマックスが、すぐそこで口を開けて待ち構えていることを知っているからだ。

 再びラッパが鳴り渡り、その時が来たことを満場に知らしめる。

ムレタの場テルシオ・デ・ムレタだ。ああして闘牛帽を砂場に投げるのは観客への挨拶だが、つばが下にならないと縁起が悪いんだ。気にせずそのまま演技を始める奴もいるが、今日の闘牛士は几帳面だな」

 確かに、闘牛士が投げた帽子がふわりと向きを変えて逆さまに砂に落ちた時、観衆は一瞬どよめいた。華麗な光の衣装トラへ・デ・ルセスに身を包んだ闘牛士が、華やかな羽根飾りのついた帽子を何事もなかったかのように拾い、ついた砂をはらって丁寧に砂場へ置き直すのは、緊張感に欠け滑稽ですらある。
 悲劇と笑劇は、ギリシャ以来の地中海文化の特徴と言っていいだろう。血、殺し、そして死。悲劇の象徴がふんだんに盛り込まれた闘牛という見世物に、笑劇の息抜きは、緩急を付ける意味で有効なのかもしれない。勿論、その後に訪れる悲劇をより強調する仕掛けとしても。

 ムレタと剣を手にした闘牛士と牡牛の、一対一の命のやりとりが始まった。制限時間は十五分。闘牛士がしくじらない限り、あの牡牛は十五分以内にその生を終えることになる。
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