トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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10章 ※

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 嫌味なまでに見事に韻を踏んだ短詩を即興で作り、心地好い節回しで囁いてくるが、言葉遊びのようでいて、その内容は不穏だ。才能の無駄遣いめ、とは思うが、撥ねつけるにはジェイムズは役者が格上すぎる。
 提督の悲報に少なからず衝撃を受けているであろう一洋に巻き込まれるな、と洒落た韻文で警告しているのだ。それまで一度も譲られなかった志貴の週末の世話を任されたことで、ライバル視している自称保護者として、ジェイムズは何かを嗅ぎ取っているのかもしれない。

「志貴はやはりコスモポリタンなのだな。国家元首や軍人の神格化などに汚染されず、高みを見ているとわかって安心した」
「……邦人の前で口にしたら、非国民と指弾されることになりますが」
「そんなものは、愛国とは何か、本当には理解できない者たちの繰言だ。もしそいつらが志貴を要らないと言うのなら、喜んでアスター家うちがもらい受けるぞ」

 君子も英もまとめて、と付け加えるジェイムズに、思わず口元が緩んでしまう。
 異星人の言うことは理解し難いが、彼とその家族が、矢嶋家の人間を今も大切な友と思ってくれていることは、思いの外心に染み入った。母国では非難されるであろう冷徹な愛国心を、咎めることなく、当然のことと受け容れられたことも。 
 異国人の友人で、合理主義のコスモポリタンであるジェイムズだからこそ、吐露できる想いがある。今このタイミングで彼がここにいる事実に、やはり自分は自称保護者たちの甘やかしから逃れることはできないのかもしれない、と志貴は半ば諦め気味に目を閉じた。

「明日、また明日、そしてまた明日――」

 ジェイムズが、再び口ずさむ。
 韻を踏んで調子の整った子守唄は、胸の上に『アキラ』を抱えていた志貴の手がぱたりと脇に落ちるまで、低くやさしく続いた。



 一洋が志貴の部屋を訪れたのは、山本元帥の国葬の翌週の日曜日、一ヵ月ぶりのことだった。
 その日も柔道の練習はなく、夕方になって現れた久しぶりの幼馴染の顔に、志貴は一瞬言葉を失った。目の下が隈で窪み、頬の線が鋭くなっている。一月前と比べ、明らかに窶れている。体調がすぐれない証拠だ。

「元気にしてたか、志貴」
「それはこっちの台詞だよ。具合が悪いなら、僕なんか構わないで休まないと!」
「お前を構っている方が休めるんだよ」
「もう! 馬鹿なこと言ってないで、今すぐ横になって」

 志貴は一洋を客間のベッドに押し込もうとしたが、窶れていても力強い男の腕には逆らえず、居間のソファに引っ張られ、抱え込むように抱き締められる。
 思い掛けない行動に戸惑う志貴の首筋に顔を埋めた一洋は、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。その吐息がくすぐったくて、志貴は小さく身動ぎした。

「な、何?」
「――あぁ、こうしていると落ち着く。志貴の匂いだ、確かに癒されるな……」
「……何を言ってるの」
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