トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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10章 ※

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「ここに来れなかった間、頼んでもいないのに、ジェイムズ卿が毎週電話で報告してくれたんだ。今週の志貴がどんなに可愛かったか、クマを抱いて眠る志貴が抱き枕としてどれほど優秀なのか、気のせいではなく癒しの香りがするから自宅に持って帰りたかったとか」
「……何かもう全部本当にすみません……」

 弱っている一洋を受けとめるつもりが、脱力のあまり、逆にしがみついてしまった。

「前から職場に電話されてたのに、黙って庇ってくれてたんでしょう? 迷惑を掛けてごめんなさい……」
「志貴のせいじゃないだろう。電話くらい迷惑でも何でもないが、志貴に対する彼の態度は、何というか――少々変質者じみていてな。譲る気にはなれなかった」
「変質者に悪いよ。ジェイムズには、闇も深淵もない。純粋に奇矯な変人なんだから」
「おいおい、その言い草も大概だぞ」

 おかしそうに苦笑する一洋に、その腕の中で、志貴は密かにほっとしていた。
 この一月ですっかり消耗している一洋を、心身ともに少しでも回復させたい。夕食はガルシア夫人が作り置いてくれたから、一洋の手を煩わせる必要はない。仕事で何かあった時に自宅に一人でいると、引きずってしまい休むのが難しいことは、経験上よく知っている。志貴が一洋という存在に支えられているように、一洋にも少しは甘え、寛いでほしかった。

 今日こそはホストとして一洋をもてなそう、という志貴の決意は、しかしそのゲストによって脆くも崩れ去った。
 夕食のあたためや盛り付け、食器の片付けはすべて一洋が担当し、志貴が手を出そうとすると、「俺がやった方が早く休めるんだが」とぐうの音も出ない理由で断られた。片付けの後、居間で寛ぐにも、何故か志貴が膝枕を強要される。その上『アキラ』を抱くことを所望されては、一洋がジェイムズの報告をなぞっていることは明らかだった。

「イチ兄さん、何を張り合ってるの……」
「今日はクマを抱く志貴を抱き枕にして寝ていいか。寝酒として最高だと聞いたんでな」

 力なく窘める志貴に耳を貸さず、異星人のナイトキャップを一洋が所望する。その言い草にさらに力が抜けたが、今夜は『薬』の時間はないと察し、志貴はひっそり安堵した。自分のことなど構わずにゆっくり休んでくれるなら、抱き枕でも何でも務めてみせる。
 志貴の健気な心掛けは、ジェイムズの報告をすべて実践しようとする男には好都合でしかなかった。抱き締めてくる腕を払わなかった志貴は、調子に乗った大柄な男にぬいぐるみのように扱われて、幼馴染のジェイムズ化を嘆きながら数時間を過ごすことになる。
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