【完結】后狩り

音羽夏生

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戴冠 ※

22

「我が愛猫の話だ。猫は気まぐれなもの、何をされても許すしかない。だが流石に、これを置いていったのは勝手が過ぎる──そう思われぬか?」

 頭を浅く傾け、皇帝がペンダントを外す。
 主の想いが込められた、黒猫の首輪。
 ぬくもりが移ったそれは、迷うことなくシェルの首に掛けられる。慣れた手つきで襟元を整え、束ねた髪を──黒猫の尻尾と呼んで愛でた艶やかな髪をすくい上げて、口づける。
 間近に迫った逞しい体躯とその体温に、煌びやかな礼装の下で、ざわりと肌が粟立った。

「……やはり、似合うな」

 吐息が触れるほど近くで、皇帝がシェルに目を合わせる。
 侍従時代も後宮で過ごした五ヵ月も、氷青の瞳の美しさに洩れたため息を隠したことは数えきれなかった。見慣れるということのない端正な容貌からさりげなく後退り、シェルは努めて冷静に答える。

「美しいものを、お手ずからありがとうございます。儀礼官に特別な管理を申し付けましょう。後日、改めてお礼を」
「これは国家間の贈答品などではない」

 大国の君主に相応しい、落ち着いた余裕を見せていた皇帝が、初めて外交儀礼をかなぐり捨て鋭く言葉を切った。

「目録に載せるというのか、このメダルを。返礼に何を寄越すつもりだ」

 返せるものなど、ない。
 皇帝が自ら手に入れた栄光に御名を刻んだ、皇后のためのメダルに比肩するものなど、この世には存在しない。
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