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入宮
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黒猫とは、かつて皇太子がふざけてシェルを呼んだ名である。
背に届く黒髪を首の後ろできっちり結んでいたのを、何故か皇太子は妙に気に入り、尻尾のようだとその手触りを楽しむこともあった。二人きりになると必ずそうされるので、猫をお飼いになれば、と何度進言したか知れない。そのたびに、「この懐かない黒猫がいいんだ」と何とも返答に困る言葉でシェルを黙らせると、皇太子は――。
しかし、一度も「美しい」などと言われたことはない。あの戯れは、激務の合間に気疲れや鬱屈を解消する手慰みのようなものだった。
目の前の皇帝が、シェルの知るかつての皇太子ではないような気がして後退りかけた時、皇帝の大きな手のひらが背に回った。
「陛、っ……!」
呼び掛けを封じるように、唇が重なる。
『顎の力を抜いて、俺の動きに合わせろ』
シェルの唇が、侵すものを迎え入れるように自ら開いた。
ミレニオに留学していた六年前、ほぼ毎夜、皇太子から接吻の作法を仕込まれた。高貴な血をばら撒かぬよう禁欲を強いられた皇太子の、鬱屈を和らげる役目と思い、望まれるままにシェルは従い――慣らされた。
それは、帰国してからも続いた。妃たちと過ごす夜を待てぬほどに、募るものがおありなのだ――皇太子の激務と重責を思い、粛々と受けとめたが、ずっと違和感は消えなかった。
忍耐強く克己心に富んだ御方なのに何故、と。
背に届く黒髪を首の後ろできっちり結んでいたのを、何故か皇太子は妙に気に入り、尻尾のようだとその手触りを楽しむこともあった。二人きりになると必ずそうされるので、猫をお飼いになれば、と何度進言したか知れない。そのたびに、「この懐かない黒猫がいいんだ」と何とも返答に困る言葉でシェルを黙らせると、皇太子は――。
しかし、一度も「美しい」などと言われたことはない。あの戯れは、激務の合間に気疲れや鬱屈を解消する手慰みのようなものだった。
目の前の皇帝が、シェルの知るかつての皇太子ではないような気がして後退りかけた時、皇帝の大きな手のひらが背に回った。
「陛、っ……!」
呼び掛けを封じるように、唇が重なる。
『顎の力を抜いて、俺の動きに合わせろ』
シェルの唇が、侵すものを迎え入れるように自ら開いた。
ミレニオに留学していた六年前、ほぼ毎夜、皇太子から接吻の作法を仕込まれた。高貴な血をばら撒かぬよう禁欲を強いられた皇太子の、鬱屈を和らげる役目と思い、望まれるままにシェルは従い――慣らされた。
それは、帰国してからも続いた。妃たちと過ごす夜を待てぬほどに、募るものがおありなのだ――皇太子の激務と重責を思い、粛々と受けとめたが、ずっと違和感は消えなかった。
忍耐強く克己心に富んだ御方なのに何故、と。
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