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第二話 前編
犬神と猿渡 3
しおりを挟む犬神絵美が最寄りのバス停までならと、猿渡慎吾と歩くことを了承した
普段何をしているのか、どこに住んでいるのか、趣味は何か、ところで今まで何をしていたのか、今からどこへ行くのか
猿渡慎吾の質問は全て無視された
あっと言う間に、バス停に着いた
「はい、ここまで」犬神絵美が冷たく言う
「進展なしじゃん!」猿渡慎吾は嘆く
「進展してたじゃない。あなたの質問に答えることができない人間ってことが、初めて分かったでしょ?それに、ここまで一緒に歩いた。しかも歓楽街で」
イヤらしい、と言わんばかりの顔で犬神絵美は軽蔑の目を向ける
そしてバスの時刻表へ視線を変えた
「絵美ちゃんさあ、俺なにも悪いことしてないんだし、もうちょっと心開いてくれたら、嬉しいんだけど」
「私はあんたを喜ばせる為の女じゃないから。連絡先は交換してるんだし、用事があれば、こっちから連絡するから」
バスはもうすぐ着くようだ
8時31分発、予定通りに走ってくれているだろうか
隣にいる猿がウザくてたまらない
犬神絵美は、出勤ラッシュ時で混み合うバス停で、人目を気にせずに質問をしてくる猿渡慎吾のデリカシーの無さに、恥ずかしさと怒りで落ち着いていられなかった
こういう空気を読まずに己の欲望を満たそうとする男は、要注意だ
昔、姉から教えてもらったことの一つだ
喧嘩自慢、友人自慢、忙しさ自慢、自慢話をしてくる男は小心者、ネガティブな思考を振り払おうと必死なタイプだ、と聞いたことがある
猿渡慎吾も最初、自分が猿渡グループの後継者だと、自慢ネタで攻めてきた
教本通りなら、要注意人物
ナンパ慣れした感じはしなかったが、狙った獲物を逃がさないしつこさは、もはや変質者レベル
悪いことはしてない?既に周りから冷ややかな視線を向けられ、私は被害者だと声を大にして叫びたい
「絵美ちゃんさあ、前にどこかで会わなかった?」
視線を向けると、猿渡慎吾が真顔で尋ねてきていたので思わず目を見開いてしまう
「は?ナンパの仕切り直し?」
「いや、本当に。なんか会ったことがある気がして。似た人かな?」
嫌な予感がした
それを必死に振り払おうと、首を振る
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