Change the world 〜全員の縁を切った理由〜

香椎 猫福

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第三話 前編

臼井と犬神 2

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平坦な道ばかりではない
走り始めて15分ほど経ったあたりで、線路を越える陸橋に差し掛かる
ギア無しの自転車二人乗りに上り坂は酷であり、降りて自転車を押した方が早い
先に雉本穂希が降り、次いで臼井誠が降りる
昔、叔父から聞かされた話を思い出す


「人生には3つの坂がある。1つ目は、上り坂。2つ目は、下り坂。そして3つ目は、まさか、だ」


昔から結婚式で語られている3つの袋のような、冗談を加えた人生の教訓らしい
そして、その「まさか」が訪れる
さあ押すか、と自転車をした時に雉本穂希から声がかかる


「さすがにさ、ここからは私、先に行っていいよね?」


少し押した自転車を止める
振り返ると、雉本穂希がリュックを下ろしているところだった
まさか、あと少しで目的地へ着くというのに、まさか、陸橋の坂がゴールだったとは
バスが二人の横を通り過ぎる
乗る予定のバスだった
バスに乗った方が早かったが、バスに乗らなかったから生まれた思い出だ


「はい、リュック。ここまでありがとうね、臼井さん」


短い夢だったなあ…
臼井誠はリュックと自転車を交換しながら、この15分間の幸せを噛み締める


「じゃ!またね!」


そう言うと、雉本穂希は立ち漕ぎで懸命に走っていく
またね、か…


「そうか!」


すっかり忘れていた自分の能力の条件
まだ友人関係は継続している!
能力の効果を消す時は、再び雉本穂希に触れてから「いってらっしゃい」と唱えたときだ
つまり来年まで、雉本穂希とは友人関係は続いていく
姿が見えなくなった雉本穂希に対して、名残惜しさは無くなっていた
また会える
そう確信すると、意気揚々と陸橋を歩き始めた
歩きながら、頭の中は欲望で埋め尽くされていた
既に立花桃を探し出すことを忘れてしまい、この能力をどう楽しむか、それだけを考えながら歩く臼井誠


「………」


着信が鳴る
友人のいない臼井誠は、仕事先から電話が着たと予想した
遅刻する連絡を入れ忘れていることに、ようやく気づき焦る
画面を見ると、なんと犬神里美だった


「はい、臼井です」


「臼井さん、大丈夫ですか?」


変な感覚だ
彼女はこの世にいる人間ではない
一体、どのようにして電話をしてきているのか
人間の姿で電話しているのか
とてもホラーだ


「はい、大丈夫ですよ」


「なんだか急に、臼井さんの思考が良からぬ方向へ染まり出したので心配になって…まだ始まったばかりですから、能力の使い方にも慣れてないでしょうし、初日は気を配るようにしてるんです」


「そうですか…」


そうだ、自分の思考を大まかな感じで、犬神里美や太宰祐徳へ伝わる1年だったな
臼井誠は、自転車を漕いだ時にはかかないようにした汗を、今さらかき始めた


「大丈夫ならいいんです。まあその能力を持つと、欲望に負けてしまいそうになることは仕方ないんですけどね」


「はい。反省しました」


「まあ、孤独だったから仕方ないんですけどね。大丈夫ならいいんです。では」


電話が終わった
やはり犬神里美の言葉は、どこか挑発的で心に刺さってくる
もし前世が人間だったのなら、どんな人生を歩んだのだろう

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