Change the world 〜全員の縁を切った理由〜

香椎 猫福

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第三話 前編

臼井と犬神 4

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犬神という苗字がただでさえ珍しいのに、今日出会ったばかりの神の使者も犬神だった
偶然にしては…


「あの、早くしてくれない?」


「あ、すみません。ご希望のパックやご希望の部屋はありますか?」


やり取りをしながら、犬神絵美の顔を確かめ直す
鼻は違うものの、どこか犬神里美に似ている気がしてきた
もしかして、この女性も…神の使者?


「では、こちらがお客様のお部屋になります」


細長いバインダーに挟んだ発効伝票と、預かっていた会員証を渡す
そして、ここで能力を使おう、としたが辞めた
犬神絵美から伝わる雰囲気が、臼井誠を臆させる
人に触れさせたくない強い警戒心、不信感、次の瞬間に手を出してきそうな攻撃的な雰囲気、初対面でも感じてしまう
もともと人とうまく付き合えない臼井誠
危険を回避する直感だけは養われてきた
犬神里美の挑発的な言動、犬神絵美の攻撃的な雰囲気
どちらも、まるでハンターのようだ
犬神なだけに犬の素質があるのか?


「そんなバカな」


首を振る臼井誠がいるカウンターに、犬神絵美の姿はもう無い
ただ、部屋の位置は分かる
勘違いかもしれないが、もし繋がっていれば犬神里美のことを知ることができる
立花桃に関する情報を、犬神絵美なら教えてくれるかもしれない


「はい、交代」


パーマヘアーのスタッフ、柿原一騎(かきはら いっき)がカウンターへ現れる
お決まりの交代だ
この時間に必ず来る常連の女性客に、柿原一騎が一目惚れしている
仲良くなる為、彼女の受付だけは柿原一騎に任せることをスタッフ間で取り決めている
だが、彼女にはその気は全く無いようで、半年経っても連絡先すら交換できていない


「臼井くん、トイレ掃除してきて」


「え、まだ清掃時間じゃないよ?」


「いやさっきさあ、男子トイレ内巡回したら、大便器のとこに漫画とティッシュが散らばってたんだよね~。まじ、こんな時間に勘弁してほしいよ。片付けようとしたけど、ほら、時間じゃん?だからちょ~ど、カウンターから離れる臼井くんにお願いしたくて」


「…わかった」


はじめから、これをさせる為に受付業務を交代させたのだ
変なタイミングだった
自分が相手したのは犬神絵美だけ
かなり短い時間だった
常連の女性客が来る時間だとは分かっていたが、まさかこんな仕掛けだったとは
柿原一騎は年下の後輩だが、臼井誠に対しては皆、同じように気をつかわない
そして時間通りに女性客がやってきた


「いらっしゃいませ、いつもありがとうございます」


まるで水商売のボーイのような姿勢だ
まあ、女性客も水商売をしているような雰囲気がある
そんな女性に下から入っていったところで、同じ位置になるまでに、あと何年かけるつもりだろう
臼井誠は踵を返し、カウンターから離れようとした
そこで、ふと立ち止まる
再び体を後ろへ反転させ、カウンターにいる女性客を視界に入れた
受付をしながら世間話を挟んでいる柿原一騎
話に合わせながら頷くが、軽くあしらっているようにも見える女性客
そこへ歩み出した、臼井誠
柿原一騎が臼井誠に気付いて視線を向ける
女性客も何事かと視線をこちらへ向けてくる
臼井誠がすぐに肩へ触れた


「おかえり」



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