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第三話 前編
臼井と犬神 8
しおりを挟むすぐにインカムを使い、スタッフへ無線を入れる
「51番は臼井が清掃するので、そのままにしていて下さい」
便利なアイテムだ、改めて思う
これでスタッフ全員に伝わったはずだ
すぐにカウンター前を急ぎ足で通り過ぎる
「え、臼井さん!?清掃は?」
現れるはずのない者が目の前を通り、柿原一騎は目を丸くする
それを構わずに、臼井誠は出入口の扉を勢いよく開け、表へ出た
一階へ続く外階段へ視線を落とすが誰も居ない
しまった、遅かったのか
一階付近には多くの通行人が、足がかりを消していた
諦めるしかない
ため息を吐き、出入口の扉へ歩き出すと、そこに犬神絵美がいた
電話をしているところだった
「居た!」と思わず口にした臼井誠を、チラッと見る犬神絵美
扉の向こうでは、カウンターから体をゆらして、反射するガラスの向こうを見ようとしている柿原一騎の姿
「かけ直すから、そっちから電話してこないで」
通話を終わらせ、視線を向けてくる犬神絵美
臼井誠は緊張した
やはり攻撃的な雰囲気がある
しかしチャンスだ
神が与えてくれたチャンスだと感じる
「あの、私なにかトラブル起こした?」
言葉とは近い、少し睨んでいる犬神絵美
これは、戦闘態勢に入っているのか?
雉本穂希の時とは比べ物にならない
「いいえ、トラブルはありません!ただお話がありまして。僕、臼井と言います」
作り笑顔で警戒心を解こうと試みる臼井誠
「臼井?知らないけど、話なら手短にして」
よし、会話ができる!
これで犬神里美の存在を知っているか、忘れかけていたが立花桃について知っているか問いただせる!
臼井誠にとって犬神絵美は重要参考人と言っても過言ではない
その瞬間、インカムに無線が入る
「臼井さん、何してるんですか?」
柿原一騎だ
続いて他のスタッフから無線が入ってくる
「え、臼井くんが清掃してるんじゃないの?」
「臼井、サボんな」
「臼井、減給」
スタッフからの相次ぐ無線に苛立った臼井誠は、勢いよくインカムを外した
これを見て犬神絵美が動いた
「あんた、危ないやつなの?」
そう言い、足早に臼井誠の横を通り過ぎて階段を降りようとする
咄嗟だった
臼井誠は犬神絵美の右腕を掴んでいた
チャンスを逃すまいと本能で動いていたが、すぐに能力を使う時だ、と頭が答える
「おか…」
一瞬だった
体が引っ張られたと思った時には、視界は天井を向き、体が床に叩きつけられていた
頭をコンクリートに少し打ちつけた
「この変態!次やったら殺す!」
そのまま、犬神絵美は階段を降りて行ってしまった
犬が噛み付いてきたような勢いだった
臼井誠は、しばらく倒れたまま天井を見上げていた
犬神絵美に能力はかけられない
それどころか、敵にまわしてしまった
どうしよう…
臼井誠は今日一番の悩みに陥る
それをよそに、インカムでは無線が入っていた
イヤホンを外している臼井誠には届かない
「やばい、臼井さんが女に叩きつけられた!」
「柿原君、なんでさん付けしてるの?」
「臼井、死んだのか?」
「臼井、減給」
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