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第四話 前編
犬神と雉本 4
しおりを挟む結局、時間を潰すことにした
あのネットカフェへは気まずくて戻れない
駅前通りまで戻り、マクドナルドで粘る
ファミレスやカフェよりも店員から干渉されることがない
長い時間を使って、亀田留衣と接触する方法を考えてみたが、良いアイディアは浮かばなかった
当初は昼休み時間を狙って、外にいる生徒に声を掛けようとした
しかし、あの門の施錠からして、敷地内の生徒に部外者が声を掛ければ、不審者として教師や警察へ通報されるかもしれない
ただ、下校する生徒に声を掛けても、結果は同じだろう
不審者として警戒される
どうすればいいか、犬神絵美は頭を回転させようとするが、うまくいかない
自分は直感で動くタイプ、計画を立てて動くことは苦手だった
その時に目で耳で鼻で感じたことを、イエスかノーかで決めて動いてきた
犬神絵美はアドバイスをしてくれる人がいないか、スマホで連絡先一覧を見る
ふと画面上部の時間が目に入った
そういえば、下校時間って何時だろう?
既に16時を過ぎている
高校時代の犬神絵美は部活をしていたせいで下校時間が遅かった
果たして、亀田留衣が部活をしているのか、何も情報がない
ろくに調べず誰にも詳しく尋ねず、計画性のない自分に嫌気がさす
結局、猿渡慎吾に頼るしかないのか
連絡先の名前を見つめ、スマホに触れる
同時に席を立ち、高校へ向かうために動き出す
「は~い、犬神ちゃん!」
今朝ナンパしてきた男とこんなに話をするとは思わなかった
「亀田留衣のことだけど、その子は部活してるの?」
「その情報必要になった?だって犬神ちゃん最後まで話聞かないからさ」
「で、部活は?」
「ん~、やっぱり教えない」
「は?」
「犬神ちゃんさ、何か勘違いしてるみたいだけど。俺、犬神ちゃんの奴隷でも部下でもないから。こき使われてばかりだと、さすがに機嫌損ねるよ~」
猿渡慎吾の豹変に、彼の素性をもっと気にしておくべきだった、と酷く後悔した
調子に乗っていたのは自分ではないか
犬神絵美の直感が、この電話は好転しないと知らせてくる
自分で解決するしかない、と
「わかった、ごめん」
「そうそう、それでいいんだよ犬神ちゃん。誰にでも失敗はあるからさ。素直に謝ってくれたから、今日は許してあげる」
猿渡慎吾は立場を逆転させようとしている
経験上、犬神絵美には分かっていた
だが、猿渡慎吾を手放すことは惜しい
「ありがとう。じゃあ、さよなら」
犬神絵美は一方的に通話を終えた
これ以上の電話は、猿渡慎吾のペースに呑み込まれてしまう
すぐに折り返しがきても無視するつもりだ
これで猿渡慎吾は、どちらの立場が上か下か、分からなくなる
むしろ狙っていた女が離れてしまったと思い、動揺するはずだ
猿渡慎吾に弱味を握られていない、そして自分を求めていることが最大の武器になる
犬神絵美はフラットな関係を保ったのだ
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