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第十一話 後編
臼井と犬神のパレード 9
しおりを挟む観覧車へ向かって走った
既に時間は動き出し、犬神絵美はパレードのフィナーレ、金色の紙吹雪の噴射と共に乗降口へ向かう
この紙吹雪が犬神絵美の姿をうまく隠してくれていた
あれだけ塞がれていた人の壁は隙間だらけ、パレード隊の間も難なくすり抜けられた
犬神里美が言っていたとおり、立花桃の能力に影響されていない
乗降口の階段を登ると
ゴンドラから二人組みが降りてきたところだった
「あ!犬神さん!」
雉本穂希から声を掛けられて立ち止まる
横にいるのはもちろん亀田留衣だ
「こんにちは…」
気まずそうに挨拶する亀田留衣に、犬神絵美は建前のように応える
「あら、二人付き合ってるの?」
「違いますよ!」という返答を待っていた
だが、亀田留衣から予想外の返答を受ける
「…誠さんには内緒にしてください」
「………マジか」
犬神絵美は衝撃を受けながら、二人を見比べる
これまでの間、二人にどんな接点があって、どんな流れで付き合うことになったのか、とても興味が湧く
亀田留衣はどんな言葉で伝え、雉本穂希はどんな言葉で答えたのか
いや、逆かもしれない…
犬神絵美がいろいろな想像を楽しんでいる間に、スタッフに声をかけられながらゴンドラを降りる人がいた
立花桃だった
「………マジか」
ついに、立花桃と視線を合わせ、本当の接触に成功した犬神絵美
臼井誠が居ないことが非常に悔やまれる
「…絵美、ちゃん」
「やっと会えたね、立花さん」
立花桃が犬神絵美の元へ歩いてきた
この光景に亀田留衣が反応する
「え!!立花って、あの、誠さんが探していた人?」
「そうよ」
「なんで、なんでここに居るの!?それに犬神さんも…まさか、誠さんも?え、みんな何で遊園地にいるの?」
ここにきてパニックになる亀田留衣に、犬神絵美が一言で片付ける
「ちょっと今あんたうるさい!!」
犬神絵美の迫力に、一番驚いたのは雉本穂希だった
こんな「通常モード」の犬神絵美を見たのは初めてだったのだ
思わず亀田留衣の手を握り、その様子に気付いた亀田留衣は「じゃあ、俺らはここで」と雉本穂希を逃すように一緒に乗降口を降りて行った
再び向き合う犬神絵美と立花桃
「絵美ちゃん、話したいことが山ほどあるんだけど」
「私も…少し前は立花さんを殴ろうとしてたぐらい聞きたいことがあるよ」
「相変わらず、里美と違って威勢が良いね、絵美ちゃんは」
「まあ、無事に遊園地を出られるか分からないけど。命狙われてるみたいだし」
「大丈夫、危険は避けてあるから」
「先に聞きたいんだけど、立花さんは猿渡を能力で退けてるの?」
「やっぱり、そんなことまで知ってるんだ…そうね、猿渡に能力を使ってる」
「あとは誰と誰を退けてるの?」
「私が今退けている人は二人だけよ」
「たった二人?」
「そう…猿渡慎吾と、栗原宗介」
「栗原、宗介?」
「絵美ちゃんにとっては知らない人だろうけど」
「知ってるよ。栗原宗介の息子、栗原優と私は繋がってるから。親父も見たことある」
「…え、栗原宗介の息子と?絵美ちゃんが?」
「栗原優は大学が一緒だからね。よく私の送迎で車を出してくれるよ」
「まさか…車は、白いジープ?」
「そうだけど、なんで知ってるの?」
立花桃の返答は無かった
代わりに、複雑な表情を向けてくる
怒っているような悲しんでいるような、頭の中で整理がついてないようだ
「…立花さん、とりあえず遊園地を出よ。私たち、一度落ち着いて、静かな場所で話をするべきね」
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