傍観者を希望

静流

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「セイ様、大丈夫ですか?」

目が翳っているのに反応してライが、足元に跪いて窺いながら頬を撫でてくる。

いくら椅子に座っているとはいえ、跪いて手が届く相手の身長が妙に羨ましい。


思考が逸れた分だけ、気持ちが浮上している。

相変わらず、私の感情の機微に敏感だ。昔からライには嘘が通じない。

理由は、感情の起伏を把握されているから、些細な変化にも気付かれてしまうのだ。

何となく甘えてみたくなり、手に顔を押し付けてみれば、笑いながらもっと撫でてくれる。

陛下は、始めは驚いて傍観していたが、ハッとしたように険しい顔になってライを睨んでいた。

おや?と内心首を傾げる。アルフレッドから報告が上がってないのだろうか。

精霊王を敵視するほど、愚かではない筈だが、まさか気付いていないのかと、二度見してしまう。

「薬師長、少々不敬ではないか。いくらセイ様が許しているとしても、限度があるだろう」

強請っているのは私なのだが、叱責できないからライに責任転嫁して忠告してきた。


ライも悪のりして、煽るように嘲笑を浮かべて抱き寄せ、今度は頭を撫でてくる。

落ち着くし気持ちいいが、背後から怒りを帯びた威圧感が増している。

何を張り合っているんだかと、顔を上げてライを見遣れば、悪戯を楽しむように口元が笑っている。


「薬師長!いい加減にしないか。無礼が過ぎるぞ」

遂に、低い抑圧した声音で怒ってきた。

ああ、全く精霊だとすら気付いてない…。
オイオイ大丈夫なのか、コレどうするんだ?と上を見上げる。

ライカが精霊だと判断できる位なら、上司も怪しいと何故思わないのか。

一人精霊なら他もとそうだという発想がないのかと、無茶な文句をつけたくなる。


振り返り、ジトーと見据えてしまえば、陛下の方が我に返ったようで、決まり悪そうな態度で憮然となった。


「ライ?もう気は済んだか?陛下を揶揄うのは辞めなさい。薬師長の姿ですれば、外聞が悪いだろう」

「うーん?未だに、気付いてもいない方に問題がないかな。以前に、一度会っているのに判らない方が酷いと思わないか」

「本来の姿で会ったのなら、見分けがつかないのは当然だよ。無茶をいう方が悪い」

酷いって何言ってるんだと、半眼になりながら応じれば、冷たくないかと文句をつけてくる。


頭が冷えた陛下を放置して、もう片方のライに構っていれば、後ろで息を呑む音が聞こえてきた。

顔面蒼白になって、硬直していそうだが、暫くそっとしておくかと、ライにつられて塩対応気味になっている。
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