103 / 292
103
しおりを挟む
急に始めた言い合いというより、難癖を付けた私を、只管ライが宥めたと、説明した方が正確だ。
陛下たちが、呆気に取られ観ている内に終息した。
ただ、漏れ聞こえた内容が物騒で、其方に意識が逸れている内に、何かを解除するという話で纏まった事だけ理解できた。
「セイ殿、いったい何を揉めていたんですか?解除とも聞こえましたが」
怪訝そうに、宰相殿が尋ねてきた上、陛下も不審気に此方を見ている。
「少々、問題が発覚したので、薬師長が対処する事になっただけです」
にっこりと告げるのを、面倒臭そうな態度でライが見ている。
「だが、解除とは一体何をする気なんだ?」
「陛下方に掛かっている、諸々の魔法を解くだけです」
「はい?魔法を掛けられた覚えはないですし、特に不調もありませんが」
呪いを掛けられたと解釈したようで、余計に怪しまれてしまう。
「セイ様、こういう事は、ハッキリと言わなければ納得しませんよ」
助言とも取れるが、何割かは当て付けが混じっている。
半ば察しの悪さ加減を強調しているのが、解るだけに微妙だ。
「有り体にいえば、幻惑や幻視など重ね掛けされてます。因みに掛けたのは件の大臣ですよ」
二人して目を丸くして、あり得ないという様な態度だ。
彼らの認識では、冴えない大臣に過ぎないだけに、その反応も仕方がない。
首を振って肩を竦める。やっぱり納得しないじゃないかとライに示したのだ。
「本当に人間とは、頑迷な生き物だな。我やセイ様の言葉は、信用に値しないとでもいうのかね」
それまでの擬態を放棄して、冷然とした雰囲気に変わっている。
「決してその様な事はありません。ご無礼をお許し下さい」
人間の生存本能が勝って、今や陛下と宰相殿は跪いてすらいる。
興醒めだというように首を振り、身も蓋もないことを宣う。
「一体何を詫びているのか、それすら解っていないだろうに、よく言うものだ」
「ライ。遊んでないで、その勢いで解除も済ませなさい」
口で説明するのを放棄し、この際なし崩しでやってしまった方が、早いと見切りをつけていた。
もう充分、説明の義務は果たした。
納得できないなら、解除後にした方がまだやる価値がある。
そう大義名分を付けて、解除を終わらせた。
シャリンと金属質な澄んだ音が響き渡るが、本来人の耳には感知不能なものだ。
実際、陛下たちは聞こえてないようで、解除された事にも気付いていない。
「ライ、ご苦労様。陛下、もう解除は済みましたよ。今一度訊きますが、件の大臣をどう評価されますか?」
ライを労いながら、陛下に声を掛ける。
済んだと告げれば、不思議そうに自分を見下ろしている。
それも、大臣の話になれば、眉を顰めながら考え込んでいる。
横で宰相殿も、妙な顔をしていたが、徐々に驚愕の表情に変わっていく。
やはり、四の五の言わずに解除すれば良かったか。
少し後悔するが、上手くいったのでいい事にする。
「こう言ってはなんだが、いつの間にか大臣として現れた気がするのだが…。定かではないな、埋没する様に立ち回っていた上に、家名も出鱈目だ」
陛下は、茫然としながらも一応回答してくる。
だが、言葉を重ねるごとに、声が小さくなっていく。
最後には、一体どうなっていると溢すのみで、黙り込んでしまった。
「先程は大変失礼しました。ご指摘のように、大臣に扮した何者かに、いい様に利用されていたようです。早急に対処させて頂きます」
宰相殿は、悄気てはいるが、前向きな対応を述べる。
「それには及ばない」と伝えれば、憤然と「そういう訳には参りません」と見当違いの苦情を言われる。
当の大臣擬きには、既に精霊が張り付いている。
上位で魔力が高い精霊だから、誤魔化しは効かない。
また、騎士団長をやっているランの眷属に頼んだから、いざとなれば騎士団が捕らえる用意は出来ているのだ。
陛下たちが、呆気に取られ観ている内に終息した。
ただ、漏れ聞こえた内容が物騒で、其方に意識が逸れている内に、何かを解除するという話で纏まった事だけ理解できた。
「セイ殿、いったい何を揉めていたんですか?解除とも聞こえましたが」
怪訝そうに、宰相殿が尋ねてきた上、陛下も不審気に此方を見ている。
「少々、問題が発覚したので、薬師長が対処する事になっただけです」
にっこりと告げるのを、面倒臭そうな態度でライが見ている。
「だが、解除とは一体何をする気なんだ?」
「陛下方に掛かっている、諸々の魔法を解くだけです」
「はい?魔法を掛けられた覚えはないですし、特に不調もありませんが」
呪いを掛けられたと解釈したようで、余計に怪しまれてしまう。
「セイ様、こういう事は、ハッキリと言わなければ納得しませんよ」
助言とも取れるが、何割かは当て付けが混じっている。
半ば察しの悪さ加減を強調しているのが、解るだけに微妙だ。
「有り体にいえば、幻惑や幻視など重ね掛けされてます。因みに掛けたのは件の大臣ですよ」
二人して目を丸くして、あり得ないという様な態度だ。
彼らの認識では、冴えない大臣に過ぎないだけに、その反応も仕方がない。
首を振って肩を竦める。やっぱり納得しないじゃないかとライに示したのだ。
「本当に人間とは、頑迷な生き物だな。我やセイ様の言葉は、信用に値しないとでもいうのかね」
それまでの擬態を放棄して、冷然とした雰囲気に変わっている。
「決してその様な事はありません。ご無礼をお許し下さい」
人間の生存本能が勝って、今や陛下と宰相殿は跪いてすらいる。
興醒めだというように首を振り、身も蓋もないことを宣う。
「一体何を詫びているのか、それすら解っていないだろうに、よく言うものだ」
「ライ。遊んでないで、その勢いで解除も済ませなさい」
口で説明するのを放棄し、この際なし崩しでやってしまった方が、早いと見切りをつけていた。
もう充分、説明の義務は果たした。
納得できないなら、解除後にした方がまだやる価値がある。
そう大義名分を付けて、解除を終わらせた。
シャリンと金属質な澄んだ音が響き渡るが、本来人の耳には感知不能なものだ。
実際、陛下たちは聞こえてないようで、解除された事にも気付いていない。
「ライ、ご苦労様。陛下、もう解除は済みましたよ。今一度訊きますが、件の大臣をどう評価されますか?」
ライを労いながら、陛下に声を掛ける。
済んだと告げれば、不思議そうに自分を見下ろしている。
それも、大臣の話になれば、眉を顰めながら考え込んでいる。
横で宰相殿も、妙な顔をしていたが、徐々に驚愕の表情に変わっていく。
やはり、四の五の言わずに解除すれば良かったか。
少し後悔するが、上手くいったのでいい事にする。
「こう言ってはなんだが、いつの間にか大臣として現れた気がするのだが…。定かではないな、埋没する様に立ち回っていた上に、家名も出鱈目だ」
陛下は、茫然としながらも一応回答してくる。
だが、言葉を重ねるごとに、声が小さくなっていく。
最後には、一体どうなっていると溢すのみで、黙り込んでしまった。
「先程は大変失礼しました。ご指摘のように、大臣に扮した何者かに、いい様に利用されていたようです。早急に対処させて頂きます」
宰相殿は、悄気てはいるが、前向きな対応を述べる。
「それには及ばない」と伝えれば、憤然と「そういう訳には参りません」と見当違いの苦情を言われる。
当の大臣擬きには、既に精霊が張り付いている。
上位で魔力が高い精霊だから、誤魔化しは効かない。
また、騎士団長をやっているランの眷属に頼んだから、いざとなれば騎士団が捕らえる用意は出来ているのだ。
0
あなたにおすすめの小説
十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。
あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。
宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。
対極のような二人は姉妹。母親の違う。
お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。
そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。
天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。
生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。
両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。
だが……。運命とは残酷である。
ルビアの元に死神から知らせが届く。
十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。
美しい愛しているルビア。
失いたくない。殺されてなるものか。
それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。
生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。
これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる