傍観者を希望

静流

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「えっ、あの、何のことでしょうか?」

怯えたように語音すら震えている。

「最初にお尋ねしたでしょう?「如何様あっての来訪か」と、つい先程の話です」

「義弟に会うのに、理由が必要でしょうか?」

目が微妙に泳いでいるし、内容も伏せている。
後ろ暗い様子から、いちゃもんだと解っているのが、透けて見える。

「この緑雲宮に限り、肉親や親族は特に立ち入り禁止なのも、ご存知ないと?その点も前公爵には、通達されていたのですがね」

肩がピクっと上がり、全て承知の上で押し掛けたのだと察せられた。

「…じゃないか。私は悪くない」

「は?今なんて言いました。よく聞こえないのですが」

俯きながら、何やら呟いているので聞き返せば、ギッとこちらを睨みつけてくる。

「全てお前の所為だ。たかが私生児の癖に狡いんだよ。何でお前だけ優遇されてんだ。同じ義兄弟じゃないか。1人だけ何の苦労もしない生活しやがって、何様だよ」

肩で息をするほどの怒声を浴びせてくるが、ほぼ見当違いな内容では、無駄な叫びにみえ、内心ご苦労な事でと呆れただけだった。

だが、グレンは青筋を立てて怒り、義兄の腕を捻り上げて跪かせていた。
いつもは止めるアルフレッドも、静観して冷たく見下ろしている。

「セイ様が咎めないので、聞き流していましたが、名誉毀損に暴言、侵入罪と罪状にも事欠きませんし、余罪も含め牢獄送りで構いませんね?」

淡々とした物言いだけに、妙な迫力があり、気圧された様に頷いていた。

「なっ、私は公爵だぞ。そんな横暴が通る筈がないだろうが!」

怒鳴りながら、もがいて抵抗したところで、鍛えられた騎士には到底敵わない。

「ふむ、妙な事態だな」

突如、後方から声がして、陛下と宰相殿が近付いて来た。

「怒りは冷めた様ですね」

「どの口が、その様なことを言うのだ?アルフにだけは言われたくないわ」

フンと鼻息荒く応じているが、後ろに付き従っている宰相殿は、半笑いで苦々しい雰囲気を醸し出している。

服装や髪の乱れから、乱闘具合が想像できて、宰相殿が尻拭いさせられた経緯は知りたくないと、目を逸らした。

「そこに居るのは、公爵の新当主ですね。何故ここに?」

まさか、これも報告漏れですか、と白い眼を向けてくる。

「宰相殿は、もう老眼ですか?いい眼科を紹介しますよ」

「無許可で侵入したので、捕獲したまでです。セイ様の許可も下りてますので、どうぞお持ち帰り下さい。罪状に関しては、後ほど報告書を提出します」

グレンが陛下付きの騎士に手渡し、陛下と宰相殿に現状を述べている。
アルフレッドの嫌味よりは、実務的に見えて、此方も面倒事を押し付けただけだ。

半ば投げ渡された義兄を、ギョッとしつつ受け取った騎士の方が災難だといえた。
公爵位だけに、縄で縛っていいものか逡巡している様子に、憐憫を覚える。

「何を躊躇っているのだ。そ奴は罪人で間違いない。さっさと捕縛し、牢獄に落としてこい」

何とも無情な言いようは、為政者の陛下だ。
だが、命令され安堵している騎士には、必要な言葉だった。
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