傍観者を希望

静流

文字の大きさ
252 / 292

252

しおりを挟む
溜まっていた書類に集中して、グレンが戻ってきたのすら気付かず、ひたすら処理していった。

箱に手を伸ばし、終わっていたと分かって、顔を上げると、先程よりも赤みが薄いお茶が鎮座している。

「グレン、気付かなくて済まなかった。お茶、ありがとう」

「いえ、入れ直しますか?」

「いや、このままで構わない。多少冷めたぐらいで、丁度いいよ」

口に含めば、爽やかさが増しているが、何か微妙に物足りない感じがする。
配合を変えさせたのが、間違いだったようだ。

「セイ様、どうかされましたか?」

「あ、いや。これはこれでいいが、さっきの方が好みだったようだ。手間をかけさせたのに、申し訳ない」

「そう…でしたか、因みに、どの辺に問題がありましたか?」

「問題というか…バランスが悪いかな?何となく、物足りない感じだ」

グレンは、困った顔をしながら、尋ねてきたが、こちらも具体的に言い難く、相互理解が上手くいかない。
アルフレッドが、音もなく近付き「失礼」と断りを入れ、先程同様の行為をしてきた。

「なるほど…、上手く茶葉を配合している。だが、味の強弱を考慮し忘れていますよ」

アルフレッドが、呆れたようにグレンを見遣っていたが、最近学び始めたばかりにしては、充分健闘している。

「申し訳ありません。作り直して参ります」

憔然と肩を落としているが、比較対象がなければ、これはこれで不味くはない。

「それには及ばないが、アルフならどうする?」

「そう…ですね。爽快感をお望みでしたが、薔薇の花弁を浮かべてみますか?」

「いい香りがしそうだな。では、それを頼もうか」

「グレン、採ってきて下さい」

頷き、小走気味に庭園に向かっている。

「これで、宜しかったでしょうか?」

「それを聞かなければ、満点かな。それとも、態としているのか?」

「それほど悪趣味ではありません。セイ様の中で、私の評価は随分と酷いようですね」

アルフレッドの嘆き節に、白けた視線を投げ、全て計算尽くで、よく言うというのが本音だ。

「グレンの純朴さを、見習ったらどうだ?言葉に裏があっては、そう素直に聞けないものだよ」

「それでは、一生叶いそうにないですな。実に残念です」

まあ確かに無理があるが、そうあっさりと認められるのも、なんとも言えない。

騎士なら許容されても、執事が騙され易くては、安心して生活できないのも事実だ。

ましてや、ここは王宮だ。魑魅魍魎が跋扈していては、裏の裏まで読めないと危ない。

「悪いな。やはり色々あるのか?一応、権力争いに関与してないが…」

「セイ様が、あえて気に留めるほどの、価値はありませんよ。たわいない、喧騒のようなものです」

アルフレッドの言いようには、苦笑するしかないが、水面下の牽制があるようだ。
もっとも、探りを入れられる側で、上手く煙にまいている姿が目に浮かぶ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

十六歳の妹の誕生日、私はこの世を去る。

あいみ
恋愛
碌に手入れもされていない赤毛の伯爵令嬢、スカーレット。 宝石のように澄んだ青い髪をした伯爵令嬢、ルビア。 対極のような二人は姉妹。母親の違う。 お世辞にも美しいと言えない前妻の子供であるスカーレットは誰からも愛されない。 そばかすだらけで、笑顔が苦手な醜い姉。 天使のように愛らしく、誰からも好かれる可愛い妹。 生まれつき体の弱いルビアは長くは生きられないと宣告されていた。 両親の必死に看病や、“婚約者の献身的なサポート”のおかげで、日常生活が送れるようになるまで回復した。 だが……。運命とは残酷である。 ルビアの元に死神から知らせが届く。 十六歳の誕生日、ルビアの魂は天に還る、と。 美しい愛しているルビア。 失いたくない。殺されてなるものか。 それぞれのルビアを大切に思う想いが、一つの選択をさせた。 生まれてくる価値のなかった、醜いスカーレットを代わりに殺そう、と。 これは彼女が死ぬ前と死んだ後の、少しの物語。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

愛されない妻は死を望む

ルー
恋愛
タイトルの通りの内容です。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...