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さぁ、仕事を探そう!
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「身分証が無い? ダメダメ、そんな怪しい人間を働かせるワケにはいかないよ」
「そう……ですか」
目の前の男性にお辞儀をすると、店から出ていく。
「これで五件目か……」
分かってはいたものの、身分証が無いと中々雇ってくれないらしい。今日だけで五件、雇用を頼んだがどの店も身分証が無いと言うと雇用を断ってしまう。
「もう候補は次の店で最後だぞ……」
仕方なく、最後の店へと向かう。それにしても、この世界は少々難易度が高すぎないだろうか。
突然連れてこられたかと思うと、まずは言葉を学ばなければならない。言葉を学んでも、身分証が無ければ雇って貰えず、お金が手に入らない。
これは鬼畜すぎる。
最後の店は武器屋だ。前に覗いた時、店主がおっかないおっちゃんだったから、出来ることなら来たくなかったんだが……。
空を見上げると、既に太陽は沈みかけている。いや、あれが太陽なのかは分からないが。
「時間的にも次で最後だな……」
次がダメだったら、明日は一から雇用先を探さなければ。正直、もうどの店もダメだと思い始めているけど……。
せめて身分証おまけでくれても良いやん。せめてどこかで作れれば良いんだけど……。
「えーっと、あぁ、ここか」
大体の場所しか覚えてないので、おおよその地点まで来たら一軒一軒確認していく。
武器屋は周りの建物に比べ一回り大きいのですぐに見付かる。扉の前で一度深呼吸をしてからドアノブを捻る。
「失礼しまーす……」
どうやら他に客はいないようだ。もう大分日が傾いているからだろうか。
「すみません、どなたかいませんか?」
少しの間待っていると、奥から大柄な男性が出てくる。外見からして30代後半だろうか。
恐らく、ここの店主だろう。
「……なんだ、兄ちゃん」
「ここで働かせて下さい!」
膝を地につき、頭を下げる。
頭を地に擦り付けているため、男性の顔は見えない。だが、ため息を吐く音だけが静かな部屋に響く。
「……兄ちゃん、もしかして身分証も無しに雇ってほしいとか言い回ってる奴か?」
「な、なんでそれを……」
「噂になってるんだよ。身分証も無しに雇用して欲しいとかほざく阿呆がいるってな」
阿呆って……。こっちだって好きでこんなことしてるワケじゃねぇよ……。日本にいたら今頃部活でもやってるわ。
「話を聞く限り、大バカ野郎だと思っていたが……ワケありみたいだな」
「……はい」
まぁ、たしかに身分証も持たずに雇って欲しいとか……普通はありえないよな。
「……悪いが、身分証も持たない奴をこの店に置いとくわけにもいかねぇ」
「……そうですか」
ゆっくり立ち上がると、今日何度目かも分からないお辞儀をして店を出ようとする。
「待ちな、兄ちゃん」
「……?」
扉を開ける直前、背後から店主が呼び止める。
「兄ちゃん、身分証を発行して貰わないのか?」
「発行出来るんですか……?」
もし発行出来るとすればようやく念願の職を手に入れることが出来る。
「冒険者ギルドへ行けば発行してもらえるぞ、知らないのか?」
「し、知りませんでした……」
冒険者ギルドというのはアレか?よく創作物である、冒険者が街の人からの依頼を受ける時に使う施設のことか?
「なら、そこで発行してもらえばどこかで雇ってもらえる……」
「いや、それはやめた方が良い」
やめた方が良いって……どうしてだ?身分証があれば職につける。これのどこが問題なんだ?
「そもそもギルドの身分証ってのは、犯罪者等が作ることが多い。そんな身分証で雇ってもらえるわけないだろ?」
「な、ならギルドの身分証なんて無意味に等しいってことですか……?」
「いや、ギルドの身分証と一般の身分証は見た目も機能も全く同じだ。無意味ってことはない」
「なら……」
「兄ちゃん、今日一日で多くの店回っただろ? それも俺の耳に届くほど広まっている。黒髪黒目に奇妙な格好、容姿の情報が出回るのも時間の問題だろうな」
「それがどうかしたのか……?」
「あのな、身分証を持っていなかった奴が数日後に身分証持ちで雇用をお願いしたら、その身分証がギルドで作ったことだって一目瞭然だろ?」
「……ギルドの身分証ってのは、ギルドで作ったということを隠すからこそ効果があるのに対して、ギルドで作ったことを知られたら意味がないってことですね……」
結局、名目上は身分証持っているが、実質意味が無いってことか……。
「そこで、だ。冒険者ギルドってのは身分証を発行して貰えるだけでなく、冒険者って職業に就職出来るんだ」
「冒険者……?」
冒険者って……あの化け物を討伐したり、採取したりとかするやつか?
「兄ちゃん……冒険者も知らないのか……?」
「す、すみません……」
「冒険者っていうのは、ギルドを通して街や国からの依頼を受ける職業だ」
「依頼というのは?」
「色々あるぞ。モンスターの討伐、採取、護衛とかな」
うーん……まぁ冒険者になるとすれば採取とかが妥当か?とてもモンスター戦う勇気は無い。
というか、モンスターを倒す前に俺が倒されるわ。
「分かりました。明日には冒険者ギルドに行ってみようと思います」
「そうか」
「色々と、ありがとうございました」
異世界に来て、初めて人の優しさというものを感じられた気がする。
「兄ちゃん、冒険者らしくなったらウチに来い。良い武器を選んでやる」
「……じゃあな」
今度こそ俺は店を出る。
ロクでもないこの世界だけど……
「結構良いとこあんじゃねぇか」
すっかり暗くなった道を、俺は欠伸まじりに歩く。
「そう……ですか」
目の前の男性にお辞儀をすると、店から出ていく。
「これで五件目か……」
分かってはいたものの、身分証が無いと中々雇ってくれないらしい。今日だけで五件、雇用を頼んだがどの店も身分証が無いと言うと雇用を断ってしまう。
「もう候補は次の店で最後だぞ……」
仕方なく、最後の店へと向かう。それにしても、この世界は少々難易度が高すぎないだろうか。
突然連れてこられたかと思うと、まずは言葉を学ばなければならない。言葉を学んでも、身分証が無ければ雇って貰えず、お金が手に入らない。
これは鬼畜すぎる。
最後の店は武器屋だ。前に覗いた時、店主がおっかないおっちゃんだったから、出来ることなら来たくなかったんだが……。
空を見上げると、既に太陽は沈みかけている。いや、あれが太陽なのかは分からないが。
「時間的にも次で最後だな……」
次がダメだったら、明日は一から雇用先を探さなければ。正直、もうどの店もダメだと思い始めているけど……。
せめて身分証おまけでくれても良いやん。せめてどこかで作れれば良いんだけど……。
「えーっと、あぁ、ここか」
大体の場所しか覚えてないので、おおよその地点まで来たら一軒一軒確認していく。
武器屋は周りの建物に比べ一回り大きいのですぐに見付かる。扉の前で一度深呼吸をしてからドアノブを捻る。
「失礼しまーす……」
どうやら他に客はいないようだ。もう大分日が傾いているからだろうか。
「すみません、どなたかいませんか?」
少しの間待っていると、奥から大柄な男性が出てくる。外見からして30代後半だろうか。
恐らく、ここの店主だろう。
「……なんだ、兄ちゃん」
「ここで働かせて下さい!」
膝を地につき、頭を下げる。
頭を地に擦り付けているため、男性の顔は見えない。だが、ため息を吐く音だけが静かな部屋に響く。
「……兄ちゃん、もしかして身分証も無しに雇ってほしいとか言い回ってる奴か?」
「な、なんでそれを……」
「噂になってるんだよ。身分証も無しに雇用して欲しいとかほざく阿呆がいるってな」
阿呆って……。こっちだって好きでこんなことしてるワケじゃねぇよ……。日本にいたら今頃部活でもやってるわ。
「話を聞く限り、大バカ野郎だと思っていたが……ワケありみたいだな」
「……はい」
まぁ、たしかに身分証も持たずに雇って欲しいとか……普通はありえないよな。
「……悪いが、身分証も持たない奴をこの店に置いとくわけにもいかねぇ」
「……そうですか」
ゆっくり立ち上がると、今日何度目かも分からないお辞儀をして店を出ようとする。
「待ちな、兄ちゃん」
「……?」
扉を開ける直前、背後から店主が呼び止める。
「兄ちゃん、身分証を発行して貰わないのか?」
「発行出来るんですか……?」
もし発行出来るとすればようやく念願の職を手に入れることが出来る。
「冒険者ギルドへ行けば発行してもらえるぞ、知らないのか?」
「し、知りませんでした……」
冒険者ギルドというのはアレか?よく創作物である、冒険者が街の人からの依頼を受ける時に使う施設のことか?
「なら、そこで発行してもらえばどこかで雇ってもらえる……」
「いや、それはやめた方が良い」
やめた方が良いって……どうしてだ?身分証があれば職につける。これのどこが問題なんだ?
「そもそもギルドの身分証ってのは、犯罪者等が作ることが多い。そんな身分証で雇ってもらえるわけないだろ?」
「な、ならギルドの身分証なんて無意味に等しいってことですか……?」
「いや、ギルドの身分証と一般の身分証は見た目も機能も全く同じだ。無意味ってことはない」
「なら……」
「兄ちゃん、今日一日で多くの店回っただろ? それも俺の耳に届くほど広まっている。黒髪黒目に奇妙な格好、容姿の情報が出回るのも時間の問題だろうな」
「それがどうかしたのか……?」
「あのな、身分証を持っていなかった奴が数日後に身分証持ちで雇用をお願いしたら、その身分証がギルドで作ったことだって一目瞭然だろ?」
「……ギルドの身分証ってのは、ギルドで作ったということを隠すからこそ効果があるのに対して、ギルドで作ったことを知られたら意味がないってことですね……」
結局、名目上は身分証持っているが、実質意味が無いってことか……。
「そこで、だ。冒険者ギルドってのは身分証を発行して貰えるだけでなく、冒険者って職業に就職出来るんだ」
「冒険者……?」
冒険者って……あの化け物を討伐したり、採取したりとかするやつか?
「兄ちゃん……冒険者も知らないのか……?」
「す、すみません……」
「冒険者っていうのは、ギルドを通して街や国からの依頼を受ける職業だ」
「依頼というのは?」
「色々あるぞ。モンスターの討伐、採取、護衛とかな」
うーん……まぁ冒険者になるとすれば採取とかが妥当か?とてもモンスター戦う勇気は無い。
というか、モンスターを倒す前に俺が倒されるわ。
「分かりました。明日には冒険者ギルドに行ってみようと思います」
「そうか」
「色々と、ありがとうございました」
異世界に来て、初めて人の優しさというものを感じられた気がする。
「兄ちゃん、冒険者らしくなったらウチに来い。良い武器を選んでやる」
「……じゃあな」
今度こそ俺は店を出る。
ロクでもないこの世界だけど……
「結構良いとこあんじゃねぇか」
すっかり暗くなった道を、俺は欠伸まじりに歩く。
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