せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我

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冒険者の街クアント③

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 キバノシの串焼きを食べて俺とクレハは武器屋についた。
 はずなのだが、さっきの武器屋のような洋服屋と打って変わって、今度は武器屋のはずなのにどこかオシャレでかわいらしい雰囲気のあるお店だった。
 店の前には色とりどりの花が鉢に植えられており、店の看板も水色と緑の2色で彩られたどこか喫茶店のような見た目に店名も〈シトラス〉というみたいだ。ここは本当に武器屋なのか?
「あれ?リョウト。入ろうよ!ここがさっきから言ってる武器屋だよ!」
 俺の手を引いてお店に入るクレハ。
「ミゲルさん!何か面白い武器入荷したりした?」
 お店に入ってクレハがまず話しかけたのは、〈ミゲル〉さんという中性的な顔立ちで長い髪を紐でまとめて肩に垂らしている女性で、店内はキレイに武器が整頓されて並べられていた。
「あら、クレハちゃん!どうここで買った大剣は?使えそう?……。あら、後ろにお友達も連れてきたのね」
 俺は軽くミゲルさんに頭を下げる。
「うん!ありがとう!ばっちりだったよ。やっぱり、ミゲルさんの言うとおりに前の大剣からミゲルさんのおすすめの大剣に変えてよかったよ!……。彼はリョウト!さっきこの街に来てさっき知り合った新人冒険者なの!明日からしばらく一緒に依頼をこなそうかなって思ってるんだ。で、この人が武器屋の店長さんで元〈Aランク冒険者〉で〈武器コレクター〉だった〈ミゲル〉さん!私が冒険者になる少し前に冒険者を引退して、お店を開いてコレクションしていた武器やいろんな道具を売り始めたんだよ。凄い人なんだ!私も武器の相談をしたら使いやすいものを紹介してくれたりすごく頼りになる人なんだよ!で、こんなに美人さんなのに男の人なんだよ!」
 えっ……。
「お……男の人……?」
 俺がおもわず、固まると。ミゲルさんがウフッとウインクをした。
 ……危うく、ようもないのにこのお店に通うようになるところだった。
 そういえば、この世界に来るまではいろんな感情を無くして生きていた気がするけれど、この世界に来ていろんなものに触れるたびに感情の起伏が豊かになってきた気がする。
 まだ来て半日もたっていないのに……。
「じゃあ、ミゲルさん!今日はリョウトの紹介に来ただけなの!リョウトは長剣を使ってるんだけど、もしかしたらこれから武器の相談とかに来るかもしれないから…。その時はよろしくね!」
「ええ。いつでもいらっしゃい!冒険者といっても無理はしないのよ」
 そう言って店を出る俺達に、手を振ってくれた。
「私が冒険者としてよく行くのは、さっきの〈ストレンジャー〉とこの〈シトラス〉くらいかな」
 それから、しばらく街のいろんなところを歩きながらどこどこに何があるとか、もしこれがしたいならここよとか、いろいろ教えてくれた。
 歩き疲れたので噴水のある広場で腰を落ち着けて休んでいる間、クレハ自身のことを話してくれた。
「そういえば、私のことまだあまり話してなかったと思うんだけど。私ね。実は生まれはこの街じゃないもっと遠くの別の街なの。私が今19歳だから。5年前くらいかな。この街にやってきて、冒険者になって、いろんな人にお世話になって。今はDランクの冒険者にまで慣れたんだ。私、Cランクになったら別の街に行ってみようかなって思ってるんだ。この街の雰囲気もすごく好きだし。一人で知らないところに行くのは怖いけど……もっといろんな世界も観て回ってみたいなって、最近はそういう風に思うようにもなってきたの。なんて…今日初めて会ったのにこんな話されても困るよね……えへへ」
 今日初めてあったから、きっと、俺にこの話をしてくれたんだろうなと思った。
 だから、俺も、今日初めて会って親切にしてくれたからこそ、俺からも、話をしてみることにした。
「俺も、ここに来るまではずっとずっと遠くの別の場所にいて、生きてるのかおぼろげな状態で生きてきたんだ。この世界のことは何も知らないし、わからないことばかりだけど、クレハにいろいろ教えてもらったからこそ、今日の初めては全部楽しいことばかりだったんだ。前も今も大きな目標も夢もなくて、何をしたらいいかもわからないけど、だからこそ、もし明日から一緒に依頼を受けていく中で、本当に俺のことを信用できそうだったら、その旅に一緒に行ってもいいかな……?」
 クレハは少し驚いた表情をした後、笑いながらこう答えた。
「えへへ……。こんなにお互いに真剣に話しをすると照れるね。……。明日から一緒に頑張ろうね。…それでお互いにもっと信頼出来たら、一緒に旅をするのも楽しいかもしれないね。うん。……よろしくね。リョウト!」
 まだ、クレハとは知り合ったばかりだ。
 今日から少しずつお互いをもっと信頼できるようになって、旅を共にする仲間になるのもいいことかもしれない。
 明日から頑張ろう。
 そう決めて、俺達はギルドへと戻った。
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