十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結

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噛み合わない歯車

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 殿下の祝福を捧げる魔法を披露する晴れ舞台は見事に成功し、聖クラチア祭は終わりを迎えた。

 一風変わった始まりの日に対して考察する為に早く家へ帰りたかったけど、王都を包み込む夜空に輝く星々の光が差し込む王宮の庭園のガゼボの屋根の下で……私は逃げられないように殿下に手を握られていた。

 昼間に逃げる事を選択したのは間違いだったのだろうかと考えながら、なるべく握られた手に意識がいかないように奮闘しているのをバレないように。



「殿下、その、怪我は大丈夫なのですか?もう今日は早く体を休ませた方がいいかと……」

 

 サラの力は使われていない今回の殿下の傷の深さは計り知れない。このまま悪化してもう二度とこの手を掴んでもらえなくなったらと思うと、心配せずにはいられない。

 それに慣れない状況下で、どうしていいのか分からず早く帰りたい気持ちも少なからずある。

 お互いのために言った提案だったが、殿下は優しく微笑んだ。

 

「俺の事を心配してくれるなんて、本当にエリーザは優しいな」

 
「え、えっと……」

 
「今日はどうだ?楽しめたか?」


「は、はい……!」



 急に顔を覗かれるようにして話しかけられた私は、肩を震わせながら大きく頷いた。

 今まではサラと良い感じになっている所に押しかけたり、しつこく殿下に付き纏ったりしていた私は蔑ろにされていたのもあり、こんなに長く殿下と一緒に居られること自体が幸せいっぱいなのだから。

 思ってもいない刺のある嫌味や嘘がスラスラと出てきて殿下やサラを傷つけてきたのだから、蔑ろにされるのは当然と言えば当然何だけど……。

 今までの罪悪感に襲われて俯くと、握られていた手が自由になったと思えばくいっと顎を持ち上げられた。



「……っ!殿、下……その……!!」



 殿下の凛々しくも整った顔が目の前に……!!

 息が止まりそうな程美し過ぎる顔に惚けて、顔が赤く染まっていくのが分かる。

 あまりの顔の近さにどうすることも出来ずに口をパクパクさせていると、殿下は唇を綻ばせた。



「まだ今日という日が足りないというなら、思う存分今夜は楽しませてやるぞ?」



 ダメだ……。

 意識してはいけないとは思っていても、ずっと想いを寄せていた殿下とこんな時間を過ごせるなんて夢みたい。

 でも夢ではないとはっきりと告げるように、殿下の唇が額に触れた。

 

「で、殿下っ?!」


「はははっ。表情がコロコロ変わって、本当見ていて飽きないな」


「か、からかわないでください!」


「エリーザには笑顔が似合うんだから、俯くな」



 全てを見透かされそうな真っ直ぐな瞳に見つめられて、動けなくなる。

 高鳴る鼓動が今にも殿下の耳にも届いてしまうんじゃないかって程、うるさく鳴り響く。

 もう片方の手で優しく髪を撫でられて、妙に擽ったい。

 ああ……私が殿下の瞳に映っている。サラじゃなくて、私が――。

 って!!そんなのダメに決まってるじゃない!!

 始まりの日が今までとは違う今回の人生で、流れに身を任せていてはきっと最悪な終わりがやって来る。

 絶対に殿下にはサラと結ばれて、私は死なずに生きる未来を選ばなきゃいけないんだから。
 
 気持ちを奮い立たせて逃げるように私は立ち上がって、そっぽを向いたまま冷たい声を意識してこう言い放った。



「婚約者と言えど、そうやって勝手に気安く私に触れないでいただきたいですわ」



 私は悪役令嬢、そう悪役令嬢。

 わざとらしくうんざりとした溜め息もついて、可愛くない女を演じるのよ。

 今までだって可愛くない嫌気の差す女として扱われて来たんだから、きっと上手くいく。

 殿下の恋は絶対に邪魔致しませんから、どうか向けるべき相手に……サラに目を向けて下さい。

 それが殿下にとっても、私にとっても良い未来に進める方法なのだから。

 その為なら、私は嫌われる努力をここぞとばかりに発揮するしかない。

 今までが悪役令嬢だったのよ?そんなの造作もないわ。



「エリーザ……」



 ふふっ、こんな女、ガッカリしたでしょう?呆れたでしょう?

 悪役令嬢としての私に対して、嫌な感情を芽吹かせることができたなら大成功よ。
 
 私は呼ばれても反応せずにここでお暇しようと別れの挨拶を伝えようとしたけれど、いつの間に殿下が隣に居た。

 可愛くない奴だ、とでも罵倒しにきたのかしらと期待を込めて流し目で殿下を見た。



「不快な想いをさせてすまない。もう勝手に君に触れたりしない」



 予想外な殿下の反応に、悪役令嬢としての立ち振る舞いを忘れそうになるのを必死に堪える。

 

「わ、分かってくださるなら結構ですわ」


「勝手には触れない。だから……今君に触れたいんだが、いいか?」


「はい?」


「エリーザの了承が必要なんだろ?だから、触れる前の確認だ」



 私の前に立った殿下は、まるで了承してくれないと帰すつもりはないとでも言うように道を塞いできた。

 こんなに冷たくあしらったっというのに、呆れた表情すらも浮かべずにただ真剣に私を見つめてくる。

 思っていた反応とは違う反応が返ってくるし、真直ぐに見つめられるしで、混乱した私はただ黙って頷いてしまった。




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