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18話

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結局心がモヤモヤしたまま、妖精を振り払う事もせず。彼らに引っ張られてしまった。
いきなり妖精に影から追い出される。

じゃあね可哀想なアルク
じゃあね可哀想なキュアノス

クスクス
クスクス

「う……」

どうやらここは森の入り口のようだ。
妖精の様な奴らには恋人の元へ行けと言われたが、今更どんな顔で、どんな気持ちでスカーレットに会えばいいんだ。
重たい足取りでスカーレットの家に向かうと、青年と仲良さそうに歩いているスカーレットを見かけ、慌てて隠れる。

確か彼は家具を取り扱っているお店の人だ。スカーレットは何も無いあの家で家具を揃えると言っていたからなんら不思議ではない。
けれど、あんな風に店員と手を繋いで歩くだろうか。
そのまま二人は家の中に入っていく。
彼が出て行くのを待っていたが、一向に出てくる気配はない。

魂が抜けた様にぼーーっとしていると、気づけば陽は沈み、夜の鳥の声が聞こえてくる。
ようやく出てきた彼は、スカーレットと別れ際にキスをしていた。
その光景を見ても、心がちっとも痛まない自分がいた。

長く一緒にいた幼馴染だからこそわかる。スカーレットの心が最近ずっと遠くにあった事を。
それが理由で俺はグレンを求めたわけではないが、こうなるような予感はずっとしていた。
俺の居場所は、ここにもないのだ。
さようなら、スカーレット。

ふらふらとアパートに帰り、植木鉢から鍵を取り、開ける。

「ただいま」

当然誰もいるわけがない。
嫌なものを洗い流そうとシャワーを浴びる。鏡を見るとお腹には魔力回路が刻まれている。
あぁ、グレンに会いたい。
でも彼は俺の事を見ているわけではなかった。
俺を通して、彼の弟を愛でていたのだ。
俺のことなんか、最初から見えていなかったのだ。
心が壊れてしまいそうだ。
でも、もしも妖精の言うことが嘘ならばグレンは俺を迎えにきてくれるはずだ。
そんな儚い希望に縋りついて、ソファで丸くなる。

その夜グレンが俺の前に現れる事はなかった。
朝日が眩しい。
少し前の自分であれば仕事に行く時間だ。

「………お腹減ったな」

何も考える気力が湧いてこない。
でもお腹は減る。
万が一のための貯金を崩して俺はいつもの喫茶店に入る。

「いらっしゃい!ご注文…あれ?あんたは…」

「人違いです」

「あっはっは、そうか、今日はもう一人の人違いさんとは別で?」

「………おじさん、彼と昔、何かあったの?」

「……」

店長は周りをキョロキョロ見ると、小さな声で教えてくれる。

「本当は硬く口止めされてるけどな、あんたは彼と親しいんだろ?まぁ聞いてくれよ」

ニコニコしながら、店主は話し始める。
誰かに話したくてしょうがなかったようだ。
グレンは昔、店主の奥さんが深夜に陣痛が始まってしまい、診療所の前で困り果てていた時に颯爽と現れ、母子共々助けてくれた事を。
街では黒の魔術師という噂しか流れていないが、彼に助けられた人は多くいるようだ。それも、みんな何故か深夜に。
オイル灯しかなく、夜は薄暗いこの街の治安が良いという事を昔から不思議に思っていたが、店主曰く黒の魔術師のお陰らしい。

「おっと、つい話し込んじまった、お嬢さん、エッグサンドだっけ?待ってな」

店主は慌てて他のお客さんのところに向かう。

グレンがそんな事をしていたなんて、全く気がつかなかった。
単なる噂じゃないのか。
そこでふと彼の朝がいつもいつも弱いのを思い出す。
まさか、本当にずっとグレンは━━━━━

エッグサンドを無理矢理口に詰め込み、代金を置いて走り出す。

もう一度グレンに会いたい。
何が俺の事を見てないだ。
そんな事どうでもいいじゃないか。
俺はグレンという人物そのものに惹かれているんだ、これが片想いだからって何が悪い。

「うっ……」

急に走ったせいでお腹が痛い。
森の入り口までくると不安が襲ってくる。
森の奥の方はとても薄暗い。
グレンの屋敷までは道など舗装されていないのだ。
目を瞑りお腹に手を当てて、微かなグレンの魔力を追う。
草をかき分け、奥に足を踏み入れていく。
1時間ほど歩いただろうか。
もう後には戻れない。
道を見失わないように川沿いを歩き、上へ上へと登って行く。
魔術が無いと、こうも大変なのか。

「はぁっ…はぁっ…」

ちっとも前に進まない。
足は既に鉛の様に重たい
グレンの弟の物らしきローブもかなり汚れてしまっている。

「ごめんね、グレン」

どんなに汚れても、傷ついても俺はグレンに会いたい。
会ってごめんなさいと言いたい。
またグレンに抱きしめてほしい。
大好きと伝えたい。

陽はもう沈み始めている。
このまま遭難して死ぬなんて嫌だ。
よろよろとその辺りで拾った杖を頼りに進んでいると、急に森が開ける。
グレンの屋敷だ。

「や、やった…」

ヘナヘナと腰が抜ける。
グレンに会える。
それにしても少し様子がおかしい。
屋敷の灯りが点いていない。

重い扉を開けると中も薄暗い。
そして何より、人形達が力なく横たわっており、全く動いていないのだ。
グレンに何かあった事は間違いない。
疲れ切っている足を奮い立たせ、グレンの部屋へと向かうのだった。








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