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第一章 愛犬
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「あのう、すみません」
アホな想像をしているあいだに仙師はスマホを取り出して、どこかに電話をかけていた。
「やっぱ、無理ですわ。お願いします」
なにが無理だって。
仙師と目が合った。ぺこりと頭を下げてくる。まさか除霊ができないというのか。
部屋中を酒と塩だらけにされて、タバコ臭くされて、あげくが無理でしただって。
「いやあ、すんません。アルバイトなんで」
「はあ?」
「許してくれますよね、タダですからね」
「いや、おかしいでしょ。無責任でしょ。誰に電話してんの。さっきの女の子?」
ケージをベランダに置いて、掃き出し窓をあけて部屋に戻った。仙師の手からスマホを奪い取る。
「もしもし! ちょっとなんとかしてくださいよ。雇用者責任あるでしょ」
『此花隆志さんでしたっけ』
「あ、名前……覚えていてくれたんですね」
いやいや、うれしそうな声だしてる場合じゃない。
『不肖の弟子がごめんね。なんとかしますよ』
「どうやって」
『部屋のなるべく中心に立って、そのスマホを掲げてみてください』
「はい……?」
なんだかよく意味がわからなかったが、言われたとおりにリビングの中心でスマホを掲げる。端から見たらちょっとバカみたいじゃないか。
「あの……」
『だいたいわかりました。最低二体いますね』
「え、えええ、え。な、なにが……」
『霊波をキャッチしたんです』
うそくさい。どうにもうそくさい。スマホで霊波をキャッチしただなんて。
これはあれか。新手の押売か。無料ですよとまずはお試しを勧めて、あとから高額な方法でないと除霊できないと言ってふっかける気か。
「やっぱり、キャンセルします!」
『あ、ちょっと……』
通話を切り、スマホを仙師に返した。
「悪いけどもう帰ってくれ」
「でも、このまま帰ったら叱られます。またあとで師匠と伺っても?」
「駄目だ。ぼくは今日からペット可のホテルに移る。こんなとこ気持ち悪くていられないよ」
「じゃあ、せめて掃除くらいさせてください」
どうやら部屋が汚れたことに立腹していると思っているらしい。それも理由のひとつだが、なにより部屋の中に幽霊がいるなんてことに耐えられない。地縛霊かなにかだろうか。そのせいでザビエルが体調を崩したのだとしたら引っ越し先を見つけなければ。
「掃除してくれるのはありがたいけど、ぼくはもう行くよ」
ザビエルをペットキャリーに移し、数日分の餌をリュックに詰め込んだ。
「言っとくけどこの部屋の中に金目のもんはないからね。掃除終わったらさっさと帰って。オートロックだから鍵閉める必要ないから。あ、さっき酒飲んでたけど、完全に抜けるまで、絶対に車を運転するなよ。二週間くらい前に近くで酔っ払い運転による人身事故があったんだから。自分ひとりが死ぬだけならいいけど、巻き込まれた人がいたら悲しすぎる」
捨て台詞を吐いて、マンションを飛び出した。
できたら二度とこの部屋には戻りたくない。転居先が決まったら引っ越し業者に連絡してすぐにおさらばしよう。
スマホでペット可のホテルを検索しながら駅に向かう。その途中に花やペットボトルがたくさん手向けられた電信柱の横を通りすぎた。二週間前に死亡事故があった現場だ。
近所の老人が酔っ払い運転の車にはねられたらしい。朝早い時刻だったので小学生の登校時間とかぶっていたらもっと多くの犠牲者が出ていたことだろう。加害者がすぐに逮捕されたのはよかったが、口さがない者は、犠牲者が未来ある子供たちじゃなくてよかったなどと言っていた。老人だからましだったなんて、聞いててあまり気分がいいもんじゃない。
被害者の老人は知り合いでも何でもないが、それ以来、ここを通りすぎるときにそっと心の中で手を合わせる習慣がついた。
そういえば、この道はザビエルのお気に入りの散歩コースだったのだ。ザビエルのようすがおかしくなってからは散歩に出なかったけれど。
くうん、とザビエルが鼻を鳴らした。ごめんな、もうこの道を散歩することはないと思うんだ。
ポケットが震えた。着信だ。
アホな想像をしているあいだに仙師はスマホを取り出して、どこかに電話をかけていた。
「やっぱ、無理ですわ。お願いします」
なにが無理だって。
仙師と目が合った。ぺこりと頭を下げてくる。まさか除霊ができないというのか。
部屋中を酒と塩だらけにされて、タバコ臭くされて、あげくが無理でしただって。
「いやあ、すんません。アルバイトなんで」
「はあ?」
「許してくれますよね、タダですからね」
「いや、おかしいでしょ。無責任でしょ。誰に電話してんの。さっきの女の子?」
ケージをベランダに置いて、掃き出し窓をあけて部屋に戻った。仙師の手からスマホを奪い取る。
「もしもし! ちょっとなんとかしてくださいよ。雇用者責任あるでしょ」
『此花隆志さんでしたっけ』
「あ、名前……覚えていてくれたんですね」
いやいや、うれしそうな声だしてる場合じゃない。
『不肖の弟子がごめんね。なんとかしますよ』
「どうやって」
『部屋のなるべく中心に立って、そのスマホを掲げてみてください』
「はい……?」
なんだかよく意味がわからなかったが、言われたとおりにリビングの中心でスマホを掲げる。端から見たらちょっとバカみたいじゃないか。
「あの……」
『だいたいわかりました。最低二体いますね』
「え、えええ、え。な、なにが……」
『霊波をキャッチしたんです』
うそくさい。どうにもうそくさい。スマホで霊波をキャッチしただなんて。
これはあれか。新手の押売か。無料ですよとまずはお試しを勧めて、あとから高額な方法でないと除霊できないと言ってふっかける気か。
「やっぱり、キャンセルします!」
『あ、ちょっと……』
通話を切り、スマホを仙師に返した。
「悪いけどもう帰ってくれ」
「でも、このまま帰ったら叱られます。またあとで師匠と伺っても?」
「駄目だ。ぼくは今日からペット可のホテルに移る。こんなとこ気持ち悪くていられないよ」
「じゃあ、せめて掃除くらいさせてください」
どうやら部屋が汚れたことに立腹していると思っているらしい。それも理由のひとつだが、なにより部屋の中に幽霊がいるなんてことに耐えられない。地縛霊かなにかだろうか。そのせいでザビエルが体調を崩したのだとしたら引っ越し先を見つけなければ。
「掃除してくれるのはありがたいけど、ぼくはもう行くよ」
ザビエルをペットキャリーに移し、数日分の餌をリュックに詰め込んだ。
「言っとくけどこの部屋の中に金目のもんはないからね。掃除終わったらさっさと帰って。オートロックだから鍵閉める必要ないから。あ、さっき酒飲んでたけど、完全に抜けるまで、絶対に車を運転するなよ。二週間くらい前に近くで酔っ払い運転による人身事故があったんだから。自分ひとりが死ぬだけならいいけど、巻き込まれた人がいたら悲しすぎる」
捨て台詞を吐いて、マンションを飛び出した。
できたら二度とこの部屋には戻りたくない。転居先が決まったら引っ越し業者に連絡してすぐにおさらばしよう。
スマホでペット可のホテルを検索しながら駅に向かう。その途中に花やペットボトルがたくさん手向けられた電信柱の横を通りすぎた。二週間前に死亡事故があった現場だ。
近所の老人が酔っ払い運転の車にはねられたらしい。朝早い時刻だったので小学生の登校時間とかぶっていたらもっと多くの犠牲者が出ていたことだろう。加害者がすぐに逮捕されたのはよかったが、口さがない者は、犠牲者が未来ある子供たちじゃなくてよかったなどと言っていた。老人だからましだったなんて、聞いててあまり気分がいいもんじゃない。
被害者の老人は知り合いでも何でもないが、それ以来、ここを通りすぎるときにそっと心の中で手を合わせる習慣がついた。
そういえば、この道はザビエルのお気に入りの散歩コースだったのだ。ザビエルのようすがおかしくなってからは散歩に出なかったけれど。
くうん、とザビエルが鼻を鳴らした。ごめんな、もうこの道を散歩することはないと思うんだ。
ポケットが震えた。着信だ。
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