いらない魂、回収します

あかいかかぽ

文字の大きさ
41 / 53
第五章 誇り高い漢

しおりを挟む
 確認するべく、女の視界に入らないよう注意しながら回り込む。
 だが女は振り返っておれを見た。まるでおれの視線を察知したかのように。

『ひ……っ!!』

 この世でもっともおぞましいものを目にしたといった顔。いたって普通の反応だ。たいていはこういったリアクションを見せる。
 だが女はふうっと消えた。煙のように。珍しい現象だ。
 人間は気体に変化することができるのか。

「あ、やだ、こんなところに」

 なにものかに触角をつままれて持ち上げられた。簡単につかまるとはおれもヤキがまわったもんだ。
 振り仰いで見ると、幼体だった。
 幼体ごときに殺されるのは口惜しい。足をばたばたさせて足掻いてみたが体格差はいわずもがな。

「戻ってきたのね。覚えてるのかしら」

 馬鹿にするな人間。知能指数はおまえらを凌駕しているのだぞ。

「うわあ、ばっちいですよ、双葉師匠!」

 女の肩越しに年寄りが見えた。両手にコンビニ袋を提げている。買い出しか。この部屋には冷蔵庫はないぞ。

「やっとつかまえたのよ。でもねえ、これじゃしょうがない」
「不衛生ですよ、師匠!」
「わからないの、仙師。これがなにか」
「人類にもっとも毛嫌いされている虫でしょ。喉が渇いたでしょ、師匠。そんなのほっといて飲み物でも飲みましょうよ。……ちょ……そんなの持って、近づかないでください……!」

 女は、いままさに緑茶を注ごうとしていた年寄りの手からプラスチックのカップを奪っておれを放り込むと逆さにして床に伏せた。

「さあて、どうしよっか」

 閉じ込められた!
 出せ、出せ! 
 おれの腕力ではコップを倒すことはできない。隙間がないか丹念に見て回る。無駄と知りつつコップの底まで這い上がってみる。
 透明な壁の向こうでは人間共がなにやら膝をつき合わせて相談をしている。声をひそめ、ときどきこちらを盗み見る。年寄りが首を横に振った。どちらがおれにとどめを刺すか、決めかねているのか。

 ……チャンスはひとつしかない。次に人間がコップに触れたときだ。わずかな隙間さえあれば脱出してみせる。顔面アタックで反撃だ。来い!
 ……来た来た。女と年寄りが左右からおれを挟んで座った。
 ん? なにやら気配を感じて見上げると、さっきの中年女が天井からこちらを見ている。天井から頭の半分だけを突きだして、こちらを憎々しげに見ている。
 あれは……人間じゃないな。

「じゃあ、このまま逃がしちゃうんですか」

 年寄りは非難がましい口調だ。

「わたしたちが殺すわけにはいかないもの、しょうがないわ。今回は成果なしね」
「成果ならありましたよ。あの方と」と年寄りは天井を見る。「出会えましたから」
「どなた?」
「秘密主義のかたです。妹さんが隣室にいて気もそぞろのようです」

 女は天井に向けて話しかけた。

「除霊師をやっている双和双葉といいます。つかぬことをうかがいますが、この部屋で起こった事件のあとでなにか怪奇現象はありましたか。教えていただけたら、さっさとあの世にお連れしてあげますけど」

 天井の頭はゆるゆると首を振った。

「仙師、彼女はなにか心残りでもあるの?」
「妹さんに伝言があるようで……」
「ふうん。ちゃんと説得しなさい。それも力量よ。魂の汚れを落としてあげないと」双葉とかいう除霊師はこちらを横目で睨んだ。「こういうことになるから」
「はい、まかせてください」

 衝撃だ。おれは未練を残して死んだ虫の幽霊なのか?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...