【中華ファンタジー】天帝の代言人~わけあって屁理屈を申し上げます~

あかいかかぽ

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第3-6話 李高とさよなら

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「粥か……」

 李高はため息をついた。
 残り少ない干し飯をごまかすために、多めの水でふやかした冷たい汁物はとても粥といえる代物ではないが、選り好みできる状況ではない。

「粥は嫌いですか」

 宿場の朝食も粥だったが、そういえば李高は食欲がないと言って口にしていなかった。

「いい思い出がないからなあ」

「いまはこれしかありません。消化にいいのですから、我慢して摂ってください」

「ん……」

 ささやかな腹ごしらえを終えたら、荷老翁の村に向かう。食べ物がなくなったのだ。滋養のあるものを李高に食べさせてあげたいが、冬の山にはみのりが少ない。
 さらに困ったことに、三娘は熊猫を連れていくと言ってきかない。

 吊り橋は無事に見つかった。しなやかな蔦でできていて、揺れはするが、思いのほか頑丈だ。熊猫を抱っこした三娘は、揺れに体をあわせて軽やかに歩んでいく。
 照勇はおっかなびっくり慎重に進む。三階建ての妓楼をふたつ縦につないでも川面に届かないくらいの高さがある。
 李高はというと──

「無理だ~!」

 橋の手前で腰を抜かしていた。

「手をつなぎましょうか」

 橋の半ばまで進んでいた照勇は李高のもとに引き返し、手を差し伸べた。
 だが李高はかたくなに首を振る。顔色は灰色に近い。高熱で寝ていた時分よりもひどい汗をかいている。

「だめだ。膝が言うことをきかない」

「おーい」

 とうに渡り切った三娘が遠くから手を振っている。

「意気地なしは置いていけばいいぞー」

「李高さん、急ぎましょう。三娘は冗談を言いません」

「だ、だけど、おれ、高いところは……。もし落ちたらと想像すると足がすくんで……」

 李高は涙目になっていた。照勇が背を押しても動かない。大人の男と十歳の子供では体格差がありすぎる。背負っていくわけにもいかない。

「五娘。ここでお別れだ」

「え?」

「おれには無理だ。心臓が破裂する」

「詐欺師なんだから、そんなやわな心臓してないでしょ」

「おれはほんとは役者なんだよ。詐欺師じゃない」

 駄々をこねる子供のように李高は地面に寝っ転がった。

「そうでしたか。役者なら演技は得意でしょう。自分のことを空を飛んでいる鳥だと想像してみてはどうですか」

 李高ははっと目を見開いたが、渓谷を見下ろしてすぐに頭を振った。

「世話になったな、五娘」

「李高さん!?」

「おれは来た道を戻る。宿で聞いた左の道を行く。あっちは行商の荷車が通れるくらいしっかり整備されてるって言ってたろ。吊り橋じゃないはずだ」

「だいぶ遠回りになりますよ」

 三、四日は遅れるのではないだろうか。

「追いかけて円の村を目指すよ。先に行ってくれ」

 振り返ったが三娘の姿はもう見えない。李高を説得するのは困難だ。無理やり橋を渡らせるのは拷問のようで気が引ける、というのもあった。

「……では、お気をつけて。まだ本調子ではないんですから無理をしないでくださいね」

「むこうでおれを待つ必要はない。旅を続けるなら先に行ってくれ。また会えたら会おう」

「わかりました」

 なんとなくそれが永遠の別れのような気がして、急に胸が締めつけられた。出会いと別れは世の常だ。弓月や朱老太婆、丁知事と離別しても胸は痛まなかった。それはいつかまた、どちらかが会おうと心を決めれば、かならず会えるような気がしたからだろうか。蘭音だって同じだ。
 だが李高はどこか異なっている。とても危なっかしい感じがする。目を離したらいきなりばたんと倒れてはかなくなってもおかしくないと思えてしまう。

 吊り橋を渡りながら何度も振り返る。石碑のように動かない李高。見られていることに気づいたのか、李高は急に大きく手を振った。空元気からげんきに見えた。
 軽く辞儀をして足を急ぐ。
 そもそも李高が一緒に行かねばならない理由はなかった。
 吊り橋を渡るように強制したら心臓がとまるかもしれない。他人の心配をしている場合ではない。言い訳がとめどなく浮かぶ。けして見捨てたわけではないのに、罪の意識が心をふさぐ。

「? 李高はどうした?」

 渡りきった先の樹下で休んでいた三娘が不思議そうに尋ねる。説明をすると、

「ふうん」

 と鼻で返事をして先を歩き出した。やるせない。なにか言ってくれてもいいのに。
 熊猫は三娘に抱かれてすやすやと眠っていた。
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