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4.番候補とご対面

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「! ヒッ……あっ…………」

「……やはり……駄目だったか」


 あまりの衝撃に漏れ出た悲鳴を手で押さえる。
 そんな私の様子に周りが落胆の色を見せるが、そんなの気にしてられない。
 はくはく、ぱくぱく。
 散り散りになってしまった私の声たちをなんとか掻き集め――


「あ……いっ……いいぃい、イケメンすぎるううぅうっ!!」

「どらごん……どらごんだよ、めぐちゃん! かっこいいねぇ」

「「「「「……はぁ?」」」」」


 私たちのそれぞれの反応に、皆の呆けた声が漏れる。

 いやいや、だって、すっごい美丈夫がそこにいるじゃない!
 濃紺と空色の交じった髪に、艶やかに輝き琥珀そのものが埋まっているのかと思うような瞳の端正なお顔立ち。
 たしかに、瞳は瞳孔が線のように細くて爬虫類そのものだけど、より凛々しい顔つきに見えるし、頬や手の甲には髪と同じ色が差した乳白色の鱗が見えるけど、キラキラした装飾みたいで美しさが増してるし、爪も木登りしやすそうな鉤爪だけど、男らしい大きな手にかっこよさがプラスされててよし。
 それに一番気になってるのは、どういう仕組みなのか服からスラッと出ているしっぽ。
 穴が開いてるようには見えないし……不思議だわ。

 っていうか、容姿に関して言うなら、これまで推してきたどのキャラよりも、ダントツ一位で私好みなんですが!?


「あ……あの?」

「声まで最高か!?」


 おいおい、マジかよ……この容姿にそんな心地いい低音効かせちゃうなんて、そんなに私の腰を砕きたいのか。


「めぐちゃんがよんでた、まんがのひとみたいだねぇ」

「うんうん、そうだね愛ちゃん」

「かっこいい、だいすき! ちゅっちゅっ、っていってたひとに、そっくりだねぇ」

「うんうん、そうだね愛ちゃん。でもそれは恥ずかしいから言わないでほしかったなぁ」


 私が持ってる漫画とかイラスト集とか、よく愛ちゃんも一緒になって見ていたおかげか、人間とは明らかに違う彼を見ても、あのキャラクターに似てるねって言いながら笑ってる。
 そしてその時の様子をサラリと暴露されて、恥ずかしさで逃げ出したい私である。

 気を取り直して。
 恐怖心を抱くほど、愛ちゃんが爬虫類とばったり出くわすこと自体、街中じゃ経験しなかったことも要因だと思った。
 え、私? トカゲは摘まめるくらいには平気。蛇はわかんないけど……。


「……おふたりは、私が恐ろしくはないのでしょうか」


 イケメンが躊躇いがちに声をかける。


「いえ全く、むしろ格好いいっていうか、すごく好みです」

「まなはね、つよそうっておもう!」

「「「「「!」」」」」


 本人だけでなく、部屋中から驚きに息を呑む音が聞こえた。

 いやまぁ、最後がなんか告白みたいになってたせいかもしれないけど。

 そんなに驚くほどのことかしら…………あぁでも、私みたいな獣人もの大好物! 爬虫類もそこまで苦手意識なし! しかも、アニメじゃなくて実写でも平気! な女性がどれくらいいて、さらにその中から神様がどれくらいチョイスできたかって考えると……そんな多くはない……というか、珍しいか。


「私はリアム・アンブロワーズと申します。貴女の……あ、いや……おふたりの名前を伺ってもよろしいですか」

「あ……そういえば、私たちちゃんとした自己紹介してなかったですね、皆さんにもまだ。えぇと、あらためまして。日本という国から来ました、羽柴恵、恵といいます。よろしくお願いします」

「わたしはね、はしばまな、まなだよ。よろしく、おねがい、します!」


 ソファーに座ったままだけど、頭を少し下げて挨拶する。
 私ったら名乗ってなかったなんて……すっかり忘れてた。
 王様たちはとっくに名乗ってくれてたのに……すごく失礼なやつじゃないのよ、もう。
 愛し子がこんなに大事にされてなかったら……今頃、文字通り切り捨てられてたりして……。


「メグミ様とマナ様」

「あー、『様』はできればなしで。なんか仰々しいのは慣れないので。呼び捨てで大丈夫ですよ」

「そんな恐れ多い!」

「えー? あ、お歳はいくつですか?」

「歳、ですか? えぇと、二十三になりますが……」

「なんだ年下じゃない……私、二十八なの。じゃあ、強気にいっちゃうから。私もリアムって呼ぶから、はい、呼び捨てでね!」

「まなはさんさいなの。まなも、まなってよんでね!」

「う……あの……それは………………わかりました」


 勢いに押されてタジタジになるイケメンことリアムは、勇ましい武人といった見た目なのに、なんだか少し可愛い気がした。


「いやはや、こんなことが……」

「なんだかいい感じじゃない? ねぇ、あなた」

「うむ、そうだな」


 そんな私たちの様子を見ていた方々は、何やら驚いた表情をしていたり、ホッとしていたり、優しく微笑んでいたりと様々だった。
 そんな中、大司教様が何かを話したそうな、でも少し言いにくそうなというふうに、口を開いたり閉じたりしているのが見えた。


「大司教様、どうかしたんですか?」

「あ、いや、その……愛し子様、メグミ様がこちらに召喚された理由がもうひとつありまして……お話ししようか、どうしようかと迷っているのですが……」

「そんなに言いにくいことなんですか?」

「いえ、まぁ……内容もあれなんですが……ここはひとつ、アンブロワーズ様との交流を深めるためにも、彼にお任せしようかと」

「リアムにって……彼も理由を知ってるんですか?」

「知っていると申しますか……当事者と申しますか……」


 どういうこと? 当事者って……番候補だからってことかしら。
 リアムのほうを見てみると、なぜだか少し悲しそうな顔をして俯いていた。
 ふむ、何か事情がありそうね……?


「リアムがそんな悲しそうな顔をしてまで話さないといけないのなら、私は聞かなくてもいいと思うんだけど」

「!」


 バッと顔を上げたリアムはすごく驚いていて、そして、ちょっとだけ泣きそうな表情で私を見つめてくる。


「あ……そんな、私の心配だなんて……」

「ここで生活していく上で困るような内容じゃないなら、別に、聞かないって選択肢もありでしょ?」


 気に病むことじゃないと明るく、軽く告げる私に、深く息を吐き出したかと思ったら、何かを決意したような凛々しい顔つきに戻ったリアムが口を開いた。


「……こんなに私のためを思ってくださるメグミに、隠し事はしたくありません。情けない話かとは思いますが、どうか聞いていただけないでしょうか」


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