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閑話.ちゃんと話を聞いていれば、こんなことには……
しおりを挟む獣人国ノブルローアに辿り着いた私は、これから始まるモフモフライフに心躍る……はずだったのに。
私をあの場所から連れだしてくれた獅子獣人はなんとノブルローア国の第二王子で、今から城に帰るとこだったというから便乗してあわよくばゴージャスライフルートか!? とか考えてたら、「お前あっちな」って指示されたのは付き添いで来た人たちが乗る馬車だった。
一緒に乗れないのかよ、ちぇ……でも行先は同じだもんね、安心安心って思ったのに、「ここなら暮らしていけるだろ、達者でな」と放り出されたのは活気あふれる商店街……雰囲気からして庶民街だ。
え、お城は? 貴族は? ゴージャスライフは!? ちょっと待って!?
言いたいことありすぎて口が縺れてる間に王子たちは帰ってしまった。
この先どうすればいいのか、とにかく誰かに話を聞こうと辺りをうろうろしてみて気づいたけど、この辺思ったよりも獣人少なくね? ほとんど人間なんだけど。
またしても思い描いてた展開とは違う流れにうなだれていると、心配して声を掛けてくれる人がチラホラ出てきた。
何人かに情報を貰ったり、ご飯奢ってもらったりしながら観察を続けた結果、その中にいた犬獣人の彼なら私のことチヤホヤしてくれそうだと読んで、か弱い乙女アピールで寝床ゲット。ふふん、私が本気出せばチョロいもんよ。
なんか周りにいた女たちが止めとけとか考え直せとかあれこれ言ってきたけど、僻みとかみっともなーい。
――なんて、これがまた大きな間違いだった。
人懐っこくて、主人思いで、愛らしい癒し系。
犬ってそんなんじゃなかったっけ……?
遠い目をしながらそんな事を考える。
大型犬を彷彿とさせる(実際犬なんだけど)世話好きそうな癒し系爽やかイケメンだと思ったから取り入ったのに……まさかの束縛地雷系だったとは。
お世話はそこそこしてくれるけどチヤホヤってほど何でも甘やかしてくれる感じではなかったし、外出しようにも服装やら行先やら門限やら細かく指示されて自由がなかった。
他のモフモフたちにちょっと視線を移しただけですぐ家に連れ帰られてお説教されるし……ストレス溜まりまくりでやってられない。
「よし、逃げよう」
そう決めたものの、どう隙をついて外へ出ればいいのかと考え抜いた策は、「お世話になってる貴方にサプライズプレゼントがしたい」というもの。
買い出しの日時は告知して、何をどこで買うかは驚かせたいから内緒にしたいと、これでもかってくらい媚びながらお願いして、貴重な自由時間を勝ち取った。
逃亡決行日は少しドキドキしたけど、まぁ、私の演技にかかれば疑われずに家を出るのなんて楽勝だったわ。
急に走り出すなんて怪しい動きは御法度、大事なのはいつもどおりを装うこと。
街の中をふらりと周って、あまり持ち出せなかったお金でもこの国を脱出する手を探して歩き続ける私の目に留まったのは、旅商人の荷馬車だった。
色んな荷馬車が集まる停留所にこそっと近づき人々の会話に耳を欹てていると、聞き覚えのある国、マグナレピスにこれから行くという話をしている男がいた。
これだ! と思った私はその男を捕まえて事実をちょっーとだけ大袈裟に盛りながら、「足取りがバレちゃうと連れ戻されちゃうから荷物で隠して」ってウルウルお目目で迫る。
周りのおじさんたちが魔獣が出るから止めとけとか、命の保証できないとか色々言ってたけど、「皆生きてんじゃん、へーき、へーき」って押し切った。
というわけで、荷台に乗り込み無料で国外への脱出手段ゲット。
天はまだ私を見捨てたわけじゃないのよと、開放感溢れる旅路に気分も良くなる。
乗り心地は全然良くないけど、荷物の中にあった何枚もの布を重ねてクッション代わりにすれば多少はマシかな。
無料だし、一刻も早くおさらばしたかったし、我慢してあげるわ。
しばらく走り続けていると、こんなにガタガタ揺れる車内でも暇すぎて眠気が襲ってくる。
「着いたらさすがに起こしてくれるでしょ……ふわぁ」
クッションの次は布団代わりだと体を横たえ、うとうと、うとうと……。
目が覚めた頃にはゴールしてるといいな……。
――――
――――――――
キキーッ! ガッタンッ!
突如襲った衝撃に何が起きたのか分からないまま、打ち付けた体の痛みで目が覚める。
「いったー……何だっていうのよ、もー」
最悪な目覚めだ。
さすがに文句言ってやる、と荷台を降りようと動き出したところで、幌布の隙間から声を掛けられた。
「すまんね、馬が急に暴れて……何かに怯えてるみたいだ。もしかすると、魔獣の気配でも感じ取ったかもしれん。無暗に動くのは危険だ。様子を見るしかないが……お嬢ちゃんは絶対、荷台から出ないでくれ」
「まっ……魔獣って、そんなヤバいの? わ、わかったわ。絶対出ない」
魔獣とか言われてもさっぱり分からない私にはどうすることもできないので、大人しく従っておく。こんなとこで死にたくないし。
それにしても、はぁ……ついてない。
――どのくらい時間が経っただろう。
息を潜めできるだけ静かに隠れているけど、何もやることがないと時間を潰すのは結構苦痛だ。
さっきまでとは違って緊張から眠気も全く来ないし……。
詰まらない。
不謹慎だとかそんなこと言われても、詰まらないものは詰まらない。
早く、誰か、何とかしてよ!
――そんな心の叫びが届いたのか、ザワザワと、外から何人もの話し声が聞こえ始めた。
そして、ゆっくりと馬車が動きすぐにまた停止する。
何かしら事態が進展したのかもと幌の隙間からこっそり覗き見れば、どうやら辺りは森のようで、騎士のような装いをした人たちが周りにいた。
聞こえてきた話の内容は、とりあえず今から魔獣をやっつけるって事だった。
十分、二十分……? 三十分も経ってはないと思うけど、そのくらいでたぶん魔獣狩りが終わったみたい。
というのも、周りの声とか喋り方に漂ってた緊張感が解けて、ただの雑談みたいな笑顔付きの柔らかい空気に変わったから。
はぁ、やっと外の空気が吸える。
体もガチガチに固まって痛いし、とにかくグーッと伸びがしたくて荷台から降りた。
「はあぁぁぁ……ったく、もー……ほんっと、ついてないわ。私の人生どうなってんのよ。荷物に紛れ込めばタダで脱出できると思ったけど……こんな目に合うなんて聞いてないっつーの。ってか、ここどこよ」
森の新鮮な空気が、大きく伸びたストレッチが、心も体も……口も解して軽くなる。
「はぁ、早く安全で過ごしやすいとこにでも連れてってよね…………って……! あぁぁぁっ!!」
脅威が去っていつもの調子を取り戻した私は、近くにいた騎士っぽい人たちに、こんな森からさっさと連れ出してくれと要望を口にしたところで、ふと目についた存在に驚いた。
それは、忘れもしない――
「アンタあの時の爬虫類! …………なんかちょっと鱗が薄くなってる? 気もするけど……そんなことはどうでもいいのよ。とにかく、あの国に戻って来たんだわ。はぁぁぁ、やっと脱出できた。よかったぁ……ちょっと、私を早くお城まで連れて行きなさいよ。私は愛し子様なのよ。ねぇっ、聞いてんの!?」
あの恐ろしくてキモチワルイ爬虫類をまた目にすることになったのは最悪だけど、アレがいるってことはつまりここがマグナレピスだということ。大事なのはそこ。
この国じゃ私には逆らえる者はいない、一刻も早く快適にお城まで連れて帰ってもらって、部屋を用意してもらって、ゆっくり休んだ後は美味しいご飯も食べさせてもらおう。
ふふん、やっぱり私ってばついてる!
応援ありがとうございます!
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