雑貨屋リコリスの日常記録

白瀬 いお

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71.出張店舗の商品作り

 火曜日、雑貨屋リコリスの店休日であるその日、伊織の姿はバックヤードから続く錬金部屋にあった。

 ホリデー期間中の出張店舗に置く商品を作るために、一日使ってゆっくり過ごすつもりである。既にどんなものを置くかの構想はあるので、後はそれに従って商品を作って行くだけ。

 商品は全て色を統一するつもりであり、それは白、青、緑の三色だ。素材による色味の違いは当然考慮しつつ、この色の枠に収まるのならそれで良い。収まらずとも、色変えの魔術を使っても構わないだろう。但し、金属はこの枠に収まらずとも良いとする。

 魔術都市にやって来る観光客のうち、あのネモフィラの花畑へやって来るのは一部だ。そして、その傾向は四十代以上が多いという。そして、家族連れ。とは言っても、幼い子供はやって来ないそうだ。

 年若い者で二十代。それはそれでインターネット上にこの場所を投稿しないか心配になりはするのだが、そういったことをする者は未だ来たことがないようだとグウィンは述べていた。

 そんな観光客や地元住民に対して売るのならば、やはり嵩張らないものが良いだろう。持ち帰り用のカード封入は希望があればすることとし、基本は紙袋へ入れて手渡すことにする。

 旅行客にとっては折角の旅行先での買いものであるし、普段は使うことのない雑貨屋リコリスの紙袋も使ってやらねば可哀想というもの。ならば、この機会に使ってしまえば良いだろう。

「それじゃあ、最初はアクセサリーから行こうかな」

 出張店舗に置く商品は、その全てにネモフィラのモチーフを入れることを決めた伊織はカードケースを作業台の上に置いて、中からアクセサリー用の素材を取り出して行く。

 メインは伊織が最も得意とする白金晶、そしてアクアマリンとムーンストーン。これらで幾つかのアクセサリーを作ることが一つ目となる。

 その前に、この先使う様々な種類のアクセサリー用チェーンを用意しておく。アズキチェーンからスクリューチェーンなどなど、伊織が使わずともアレクセイが使用するものもあるだろういう判断だ。

「うん、下準備はこれで良いか。先に作るのはネックレスで行こう」

 作ったばかりのアクセサリー用チェーンを幾つか手に取り、所謂プリンセスと呼ばれる四十センチメートルから四十五センチメートルで裁断し、その両端に魔導マグネットを埋め込んでおく。

 この魔導マグネットは劣化遅延の魔術式を埋め込んだマグネットを指す。こうすることで付け外しが容易になる上に身体への悪影響さえも魔術で遮断することが可能となり、また何かに引っかけてしまっても首が締まることなく外れてくれるという安全性も持つのだ。

 そのチェーンにつけるのはネモフィラの花を模したチャーム。先に白金晶で土台を作ってから、次にアクアマリンとムーンストーンを手にする。これらをカットしてそのままはめ込むのではない。

 まず、掌の上から浮かんだ宝石二つがそれぞれ伊織が望む大きさへと切り取られる。アクアマリンの比率が大きく、ムーンストーンは少しだけ。そして、まずはアクアマリンが、次にムーンストーンがとろりと固体から液体へと変化した。

 それらはまるで意思があるように動き、ネモフィラの花を形作る。花弁の中央が白く、それ以外は青。それがやがて凝固していき、また伊織が結合の魔術式を分子単位で付与することにより、混ざることのない二つの宝石が、その美しさを決して損なうことなく一つの宝石へと生まれ変わった。

 こうした技術を持つ職人は年々減っており、伊織に迫る腕を持つ存在はここ二百年ほど見かけていない。それでも何とか残さんと、受け継がんとしている者たちがいることは喜ばしいものだろう。

「こんなものだな。他も全く同じに作っても良いけど……少し遊ぶか」

 同じものを量産するなど容易いこと。しかし、手作りには同じ商品でも一つ一つの顔が異なるという特徴がある。そんな中で自分の好みに合うものを見つけるのも、ハンドメイド商品を見る上での楽しみだろう。

 そうと決まれば、土台から全て微妙に形が異なるものを用意して、そこにはめ込む細工宝石もそれに合わせ、花弁の形さえも変えておく。この作業は中々に楽しいもので、伊織の口角も自然と上がった。

 そうして出来上がったネモフィラのネックレスを台紙に挟み、袋へと入れる。搬送用のカードへ次々と封入すれば、次の商品へと取りかかった。

 そうしているうちにどんどんと時間は過ぎて行き、十四時過ぎ。作業台の上は空だが、搬送用のカードには沢山の商品が収められている。ネックレス、イヤリング、ピアス、シールピアス、ブレスレット、アンクレット、シンプルなものから豪華なものまで様々な髪飾り、ブローチ。

 化粧品の製作と販売についての資格を持っているためについでと作ったアイシャドウや口紅などのメイクアップ道具、手鏡。ポーチや櫛も作ってある。

 バッグや財布などの革製品もあり、ワンポイントでネモフィラを模した刻印がされている。数は少ないもののネモフィラの間接照明やオルゴール、写真立てもあるのだ。

 どれもこれも小さなものなので、多く作っても場所を取りはしたいが、ホリデー期間中に全て売れるかと言われれば首を傾げる。最も商品数は多いが同一商品はそう多くないので、見栄えが悪いということもないだろう。

 そう一人で納得した伊織は、早速出張店舗へと転移をする。一瞬で変わる視界には、永遠に変わらないネモフィラの花畑と海、そして真冬の空がいっぱいに広がった。

 鍵を使って扉を開き、中へと入る。家具は置いているが、がらんとしたそこは陽の光がはいってはいるのものの少々寂しさを感じさせる。

 日光や劣化による変色や退色などから一切の保護がされるように術式は仕込んであるので、太陽の光が強く当たる場所に陳列してもなんら問題はない。

 伊織は搬送用カードが入ったケースを浮かせて追従させつつ、商品とそれをディスプレイするための入れ物を取り出して、一つずつ丁寧に置いて行く。

 時折棚から離れて全体の印象を確認しては位置を変え、商品同士の空間を広めたり縮めたりしながら、楽しそうに店内を商品で埋めて行った。

 やがてある一角以外は綺麗に商品を陳列し終わると、最後にぐるりと店内を歩き回って動線の確認や視線の流れ、全体の雰囲気などを見て満足すればそれを示すように頷いたのだった。

「うん、こんなものだろう。空いているところはアリョーシャが作ったものを置くところだし、レジは敢えて外観アンティーク、中身は最先端。中々雰囲気にも合っているんじゃないか?」

 達成感に一人でそう呟いたものの、桜黒はここにいないので誰からの返答もない。今まではそれでも問題はなかったのに、何だか寂しく感じてしまうことに伊織はふと苦笑をこぼした。

 例え今が楽しくとも、いつか全てを置き去りにされてしまう。残るのは思い出だけで、彼らの生きた証もいつかは風化していくのだ。

 だが、憂とアレクセイならば。彼らは、この永劫を共にしてくれるのではないかと、そんな甘い期待をしてしまう。

 永劫とは、生半可なものではない。死を望んでも与えられることはなく、ただ全ての生を見送るだけのものなのだ。触れ合いも一瞬、そしてその一瞬に心を置いて行くことも出来ない。

 出会い、別れ、それは生物の非ではないほど訪れるのだ。もし、誰かを愛した時。その時、死ぬことの出来ない己に二人は絶望するだろう。

 伊織はそんな自分の考えに嘲笑して、そっとその場から姿を消した。
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