片翼の騎士と魔法の工匠

まめきち

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第九話

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森を抜け、人気のない小道に出たところで、私は足を止めた。
肩の傷が、歩くたびに主張してくる。

「……少し、待ってください」

レオンがそう言って、私の前に回り込む。

「平気よ。もう街は――」

「だめです」

被せるような声。
いつもより、はっきりしていた。

彼は荷袋から布と消毒用の薬草を取り出し、近くの倒木を指さす。

「座ってください。
……俺がやります」

その言い方に、拒む余地はなかった。
私は黙って腰を下ろす。

レオンが膝をつき、私の肩口に手を伸ばす。
指先が、ほんの一瞬だけ躊躇ったあと、そっと布を外した。

「……思ったより、深い」

低く呟く声。
顔が近い。

息がかかるほどの距離で、彼は真剣に傷を見ている。
その表情に、冗談を挟む気にもなれなかった。

「染みます」

そう言って薬草を当てる。
私は小さく息を吸った。

「……っ」

「ごめんなさい」

即座に言うあたり、余裕がないのが分かる。

「謝らなくていいわ。
さっきの戦闘、冷静だったもの」

そう言うと、彼の手が、少しだけ止まった。

「……あなたが、前に出たからです」

布を押さえる力が、ほんのわずか強くなる。

「俺、何もできないかと思った」

その声は、怒りでも自己嫌悪でもなく、
ただの正直だった。

「でも、できたでしょ」

私はそう言って、彼を見る。

「剣も、判断も。
あなたは、ちゃんとそこにいた」

レオンは目を伏せ、黙ったまま包帯を巻く。
距離が近いまま、指先が触れる。

不意に、彼の義手が、私の膝に軽く当たった。
慌てて引こうとするのが分かる。

「……すみません」

「いいってば」

そう言って、私は動かなかった。

しばらくして、手当てが終わる。

「……これで、歩けます」

立ち上がろうとすると、彼が支えるように手を出した。
触れない距離。けれど、すぐそこ。

「大丈夫?」

「ええ」

そう答えたが、歩き出すと、彼は自然と半歩前に出た。
私を、庇う位置。

「……さっき言ったこと」

前を見たまま、レオンが言う。

「もう一人で前に出ないでください」

私は一瞬考えてから、答えた。

「じゃあ、合図はあなたが出して」

その言葉に、彼は少し驚いたようだった。

「……分かりました」

短い返事。
でも、その声は、確かだった。

並んで歩く距離が、いつの間にか近くなっている。
肩が、触れそうで触れない。

傷の痛みよりも、そっちの方が、気になっていた。
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