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第十九話
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隣国騎士団からの返書は、思っていたよりも早かった。
封蝋を切った瞬間、レオンが息を詰めるのが分かった。
「……どうだ?」
「会談の正式要請、そして――」
私は紙面を追い、そこで言葉を止めた。
「調査記録の共有、ですって」
「調査?」
指定された場所は、国境沿いの小さな駐屯地だった。
公的な場ではなく、あくまで“個人的な照会”という形。
応接室で待っていたのは、あの副団長――カイエルだった。
「時間を取ってくれて感謝する」
形式的な挨拶のあと、彼は迷いなく本題に入った。
「君の剣筋を見て、気になって調べた」
そう言って、机の上に一冊の古い帳簿を置く。
「これは、十五年前の隣国への亡命未遂者の取り調べ記録だ」
レオンの肩が、わずかに強張る。
「侯爵家領から逃げてきた使用人と下級騎士たち。
彼らは、ある事件について証言している」
ページがめくられる。
「――“侯爵家長男による、養子候補者排除計画”」
部屋の空気が、重く沈んだ。
「証言は複数。
内容も一致している」
カイエルは淡々と続ける。
「事故に見せかけた魔物討伐任務。
救援の意図的な遅延。
そして――」
視線が、レオンに向く。
「討伐失敗の責任を一身に押し付け、
重傷を負った状態で罪人として処理した、という流れだ」
レオンは、言葉を失っていた。
私は、代わりに尋ねる。
「それが、なぜ今まで公にならなかったの?」
「侯爵家の圧力だ」
即答だった。
「隣国としても、当時は問題を大きくしたくなかった。
証言は記録として封印されただけだ」
カイエルは、静かに息を吐く。
「だが、君の剣を見て確信した。
罪を犯した人間の剣ではない」
一瞬の沈黙。
レオンが、かすれた声で言った。
「……俺は、証明できるんですか」
「できる」
カイエルは、はっきり言う。
「隣国の公文書として、証言を正式に提出できる。
中央に対しても、効力はある」
ただし、と前置きする。
「その場合、侯爵家は確実に動く。
圧力も、妨害も来る」
私は、レオンを見る。
彼は俯いたまま、拳を握りしめていた。
長い沈黙のあと、彼が言った。
「……怖いです」
正直な言葉だった。
「でも」
顔を上げる。
「このまま、何もなかったことにされるほうが……嫌だ」
私は、そっと彼の手に触れる。
「一人で背負わなくていい」
カイエルも、静かに頷いた。
「隣国騎士団として、非公式だが協力する」
そう言って、帳簿を差し出す。
「これは写しだ。
原本は、こちらで保管する」
紙の重みを受け取った瞬間、
レオンの目が、わずかに潤んだ。
「……残ってたんですね」
「真実は、消えない」
カイエルはそう言って、立ち上がる。
「時間はかかるが、君の名は取り戻せる」
駐屯地を出たあと。
外の風が、やけに冷たく感じた。
レオンは、立ち止まり、空を見上げる。
「俺……
無実だったんですね」
「最初から」
私は即答する。
彼は、少しだけ笑った。
泣きそうな、でも確かな笑みだった。
「……生きてて、よかった」
私は何も言わず、そっと肩に触れた。
この記録は、救いであると同時に――
新しい戦いの始まりでもある。
でも今は。
ただ一つだけ、確かだった。
レオンは、
奪われた人生を、取り戻す場所に立っている。
封蝋を切った瞬間、レオンが息を詰めるのが分かった。
「……どうだ?」
「会談の正式要請、そして――」
私は紙面を追い、そこで言葉を止めた。
「調査記録の共有、ですって」
「調査?」
指定された場所は、国境沿いの小さな駐屯地だった。
公的な場ではなく、あくまで“個人的な照会”という形。
応接室で待っていたのは、あの副団長――カイエルだった。
「時間を取ってくれて感謝する」
形式的な挨拶のあと、彼は迷いなく本題に入った。
「君の剣筋を見て、気になって調べた」
そう言って、机の上に一冊の古い帳簿を置く。
「これは、十五年前の隣国への亡命未遂者の取り調べ記録だ」
レオンの肩が、わずかに強張る。
「侯爵家領から逃げてきた使用人と下級騎士たち。
彼らは、ある事件について証言している」
ページがめくられる。
「――“侯爵家長男による、養子候補者排除計画”」
部屋の空気が、重く沈んだ。
「証言は複数。
内容も一致している」
カイエルは淡々と続ける。
「事故に見せかけた魔物討伐任務。
救援の意図的な遅延。
そして――」
視線が、レオンに向く。
「討伐失敗の責任を一身に押し付け、
重傷を負った状態で罪人として処理した、という流れだ」
レオンは、言葉を失っていた。
私は、代わりに尋ねる。
「それが、なぜ今まで公にならなかったの?」
「侯爵家の圧力だ」
即答だった。
「隣国としても、当時は問題を大きくしたくなかった。
証言は記録として封印されただけだ」
カイエルは、静かに息を吐く。
「だが、君の剣を見て確信した。
罪を犯した人間の剣ではない」
一瞬の沈黙。
レオンが、かすれた声で言った。
「……俺は、証明できるんですか」
「できる」
カイエルは、はっきり言う。
「隣国の公文書として、証言を正式に提出できる。
中央に対しても、効力はある」
ただし、と前置きする。
「その場合、侯爵家は確実に動く。
圧力も、妨害も来る」
私は、レオンを見る。
彼は俯いたまま、拳を握りしめていた。
長い沈黙のあと、彼が言った。
「……怖いです」
正直な言葉だった。
「でも」
顔を上げる。
「このまま、何もなかったことにされるほうが……嫌だ」
私は、そっと彼の手に触れる。
「一人で背負わなくていい」
カイエルも、静かに頷いた。
「隣国騎士団として、非公式だが協力する」
そう言って、帳簿を差し出す。
「これは写しだ。
原本は、こちらで保管する」
紙の重みを受け取った瞬間、
レオンの目が、わずかに潤んだ。
「……残ってたんですね」
「真実は、消えない」
カイエルはそう言って、立ち上がる。
「時間はかかるが、君の名は取り戻せる」
駐屯地を出たあと。
外の風が、やけに冷たく感じた。
レオンは、立ち止まり、空を見上げる。
「俺……
無実だったんですね」
「最初から」
私は即答する。
彼は、少しだけ笑った。
泣きそうな、でも確かな笑みだった。
「……生きてて、よかった」
私は何も言わず、そっと肩に触れた。
この記録は、救いであると同時に――
新しい戦いの始まりでもある。
でも今は。
ただ一つだけ、確かだった。
レオンは、
奪われた人生を、取り戻す場所に立っている。
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