転生転移転禍為福〜こんなクソゲー作るんじゃなかった⁈〜

やた

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♯132 残酷な線引き

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屋敷についてみれば、想像通り大した話ではなかった。

要するに、今回の件に関する世間の過激寄りの噂が公爵夫人の耳に入り、「今すぐにでも追い出すべきだ」と激昂していたのを、ルミナーレ公爵が宥めていただけのようだ。

僕が到着すると、夫人も自分の発言がここまでの騒動に発展したことに蒼ざめ、「…軽率でした。以後、発言はわたくしの職掌に恥じぬよう是正します」とだいぶ反省していた様子だったので、もしかしたらこれを機にリグへの風当たりが少しマシになるかもしれない。

まぁ、夫人もこの家の複雑な状況で色々と過敏にはなっているようだが、もともとは宮廷書記官を務める優秀な人物だ。

軽はずみでも自分の立場として言ってはいけなかったことは重々理解しているようだった。

ルディ卿にも「妹が早とちりして大変申し訳ありません」と深々と頭を下げられた。

「自分がもっとはっきりと誤解を解くように努めていればこんなことにならなかった」と、後悔と反省の色を浮かべた表情で語っていた。

ミーチェ嬢の性格をよく知るはずの、しかも賢いルディ卿が、こんな状況の中なぜそこを怠って部屋に彼女一人にさせてしまったのかと少し疑問は残るものの、まさかミーチェ嬢が僕の通信機に即凸するとは予想していなかったのだろう。


「リグを連れて参りました」

ドアがノックされ、ルミナーレ公爵の淡々とした低い声がドアの向こうから聞こえた。

相変わらず『鋼の冷静公爵』の異名は伊達じゃない。

彼だけは僕がここまでしても全く動じる素振りを見せない。

リグにも、僕が着くや否やすぐに通信を入れていた。

公爵のことだ。

僕がわざわざこんな『パフォーマンス』をするからには、『表向き』以外の要件があると悟ったのだろう。

現に僕が何も言わずともリグと話ができるようにとすぐに部屋もセッティングもしてくれた。

「どうぞ」

僕が声をかけると扉が開き、無表情の公爵と、同じく何を考えてるか読めない表情のリグがこちらに視線を向けて立っていた。

改めてこうしてみると、公爵はスチールグレーの髪色にダークブルーの瞳で、見た目の印象は黒髪赤眼のリグとは全く異なるにも関わらず、纏う雰囲気はそっくりだ。

「恐れ入りますが。私は家族で話し合わなければいけないことがあるのでこれで失礼致します。」

公爵は淡々と述べると、頭を下げてすぐに立ち去った。

残されたリグは、胸に手を当て頭を下げる。

「本日はご足労を賜り、誠に恐れ入ります、ソーマ・ルビウス殿下。お待たせいたしました。」

「堅苦しい挨拶はいいよ。入って」

僕が笑顔を向けると、リグが近くに控えていたメイドに視線を送って部屋の中に入る。

メイドはすぐさま扉を閉め、外側から鍵をかけたのかガチャリという金属音が静まり返った部屋に響いた。

「起動」

僕が机に置いてある防音用の魔道具を起動させると、リグも「防音壁」と詠唱して部屋全体に防音魔法をかける。

僕が持ってきた高精度の魔道具だけでも問題ないとは思うが、用心深さは相変わらずだ。

冷静な時はここまで気を配れるのになと、あの記録球の映像が頭によぎったが、ひとまず今はよそうと思考を打ち消す。


「せっかくの婚約者と過ごす貴重な時間を奪ってしまって申し訳ないね」

僕が笑顔を作ると、リグはしばらくじっと僕を見つめた後に、小さくため息をつき、表情を崩した。

「やりすぎじゃない?」

呆れたようなリグの表情に、思わず笑いを漏らす。

「あはは、君が招いた結果だろ?」

僕が皮肉を込めた口調で言うと、リグは渋い顔をして僕の向かい側のソファに腰を下ろした。

これに懲りたらもう少し身の振り方を考えて欲しいものだ。

今回のこの強硬手段は、もちろん世間に向けたパフォーマンス的意図が第一だが、それによって世論がどうなるかという、ミーチェ嬢への『僕にものを頼むと言うこと』の『お勉強』の意も込めている。

さらにはルミナーレ公爵家に『リグの扱い方』に関して再認識をしてもらう意も込めているが、僕個人としては…『リグに接触する大義名分が欲しかった』というのが本命だ。

コラードの件でリグと一対一で話す機会を探っていたが、今の状況で僕が安易に彼女と二人きりになれば世間や…例の『預言者』たちに余計な詮索をさせることになりかねない。

そんな矢先にミーチェ嬢が予想の斜め上の動きをしてくれたおかげで、ありがたく乗っからせてもらった。

想定よりも早くリグと二人きりになれたことに関してだけは、彼女に感謝しなくてはいけないな。


「招いた結果って…まさか学園の噂を一蹴するためにこんなことをした…とか言わないよね?」

リグが訝しげな表情で僕を見つめた。

なるほど、公爵からまだ何も聞いてないのか。

まあ無理もないか。

こんなに早くリグがここに来たことから察するに、その説明すら公爵は省いたのだろう。

いや、省いたというよりかは公爵なりの僕への当てつけなのかもしれない。

面倒ごとを増やした僕に、勝手にそっちでやってくれというような皮肉もあり得る。

「まさか?あの程度で僕が動けるわけがないだろう?でも、君の妹さんはそうは思っていなかったみたいでね?昼休み、学園に広まってる噂に関して何とかしてくれと血相を変えて生徒会室に飛び込んできたんだよ」

敢えて煽るような言い方をしてリグの表情を注意深く観察するが、動揺する素振りもなく、じっと僕を見つめている。

なるほど、ミーチェ嬢が僕のところに来たことに関しては驚かないか。

ならばと、さらに続ける。

「もちろん断ったけどね。でもいい機会だと思ってね。僕の通信機の番号を渡しておいたんだ。そしたら放課後。生徒会で雑務をしてたら早速ミーチェ嬢から通信が来てね。なんでもルミナーレ公爵と夫人が君をルミナーレ家から追放する算段を立てているとか?」

僕がそこまで説明すると、リグは口をぽかんと開けて固まった。

普段は体裁を気にして完璧に振る舞う彼女が、たまに僕の前で気を抜いてる時に見せるこういう表情。

その間抜けな顔に、少しホッとすると同時に、リグとしてもここまでは予想外だったのだなと思う。

「周りにその会話を聞いてた学生もそこそこいたから、僕としてはこんな一大事、早急に動かなきゃいけないだろう?」

僕が嫌味っぽい笑顔を作ると、リグは大きなため息をついて項垂れ、額に手を当てた。

そしてしばらく何かぶつぶつと呟いてからきりりとした表情に戻って頭を下げた。

「妹が大変ご迷惑をおかけしました」

「まぁ、確かに彼女にはすこし『お勉強』してもらわないとね」

含みがある言い方をしてみると、リグはまた渋い顔をした。

「ソーマのところに行くところは…まぁ予想はしてたけど…まさかソーマがミーチェに通信機の番号を教えてるとは思わなかった…いや、これは言い訳だね。姉としての私の落ち度だよ。ミーチェにはしっかりと言って聞かせるよ…」

やはり僕のところにミーチェ嬢が頼りに来るところまでは予想していたのか。

あの時ミーチェ嬢が口にした、『困った時は僕らを頼れとリグが言っていた』というのは、やはり事実なのだろう。

自分は全く人に頼らないのに?

本当に君は一体何を考えてるのだろうか。

僕がリグの心意を探るべく様子を伺っていると、リグがじとっとした目を僕に向けた。

「しっかり言っては聞かせるけど…それにしたってあれはやりすぎでしょ」

「それ、本気で言ってる?『君という存在』が何処の監視下にも置かれずに、野放しになるということは、どういうことかわかるだろ?下手すれば国際問題にだって発展しかねないんだよ?」

ため息混じりに言うと、リグは何を考えているかわからない無表情に戻りじっとこちらを見つめてくる。

「たとえば…そうだな。君が『この家を出て国外に渡る』なんて言い出した日には…世界を巻き込む戦争の火種になりかねないだろ?」

『あの動画』で見た彼女の言葉になぞらえて含みがあるように言ってみるが、リグは赤く澄んだ大きな瞳でじっと僕を見つめるだけで、表情を変えることはない。

「それはその通りだね。この度は誠にご迷惑をおかけしました。で、話はそれだけ?なら私もやる事があるからもういいかな?」

それどころか、僕がここまでしてわざわざ会いにきたというのに、強引に話を終わらせて席を立とうとするので、早急ではあるが、仕方なく本題をぶつけることにする。

「あの日。討伐実習の日にあったことを正直に全て僕に話してくれる?」

一瞬リグの瞳が揺らいだように見えた。

もしかしたらもう少し問い詰めれば彼女の口から正直に僕を頼ってくれるかも――なんてふと頭によぎってしまい、彼女に対してのそんな希望的観測が自分の中にまだ残っていたことに呆れる。

「なにが?あの日ソーマたちの前で話したことが全てだよ」

「そう…僕が何も知らないと?」

「なんのことを言ってるかわからない」

淡々と躱そうとしてくるリグに食い下がってはみるが、やはり一筋縄ではいかないようだ。

だがここで諦めるつもりもない。

リグの自主性を重んじたい気持ちを切り捨て、もう一歩切り込むことにする。

「あぁそう。じゃあ聞き方を変えようか。これ以上『彼』を庇って下手な言動をすれば君を犯人隠避に問うこともできるんだよ?なんなら虚偽申告罪や偽証罪のオプションもつけてあげようか?」

僕がにっこりと笑って言うと、リグは一瞬目を見開いて固まったが、すぐに何かを思いついたかのようにハッとした。

「あぁ!なるほど?!そういうこと?!『心の依存先』にソーマを選んだってこと?!」

急なリグの態度の変化に面食らったが、悟られないように笑顔を顔に貼り付けながら、リグの発言の意図を解読する。

『心の依存先』…?

どこかで聞いた気がするな…

「あー…そう…ミーチェにしてもコラード先輩にしても…まさかこんな大舵切ってくるとはおもわなかった…特にコラード先輩はもう少し慎重に行動すると思ってたけど…まさかソーマに言うかぁ…そっかぁ…」

リグが項垂れてまた額に手を当てたのをみて、ハッとする。

思い出した。

『心の依存先』

動画でリグがコラードに言っていた言葉だ。

一人で抱え込みすぎないように『心の依存先』を作れと。

僕の小出しの揺さぶりに対してどう解釈するかで話の展開を作ろうとは思っていたが、なるほどそういう解釈か。

予想の斜め上だったが、まぁ、それならそれで都合がいい。

どのみちあの動画を僕らが見たことはリグに言うつもりはないのだし。

『そういうこと』にして話を合わせるのが得策だ。


「まるで『心の依存先』が僕じゃダメなような言い方だね?」

また含みがあるような言い方で様子を伺うと、リグは片眉をあげてまた訝しげな顔で僕を見つめた。

「え?それこそ本気で言ってる?だってソーマの立場上、『知ってしまう』と困ることの方が多いでしょ?『知らなかった』なら、まだ弁解できる可能性はあるけど『知って隠す』ことはソーマの立場上リスクが大きすぎるでしょ?それに…コラード先輩とソーマがそんなに仲良かったのは意外だったけど…仲のいい、頼ってきた親友をいざとなったら見捨てなきゃいけないし裁かなきゃいけないなんてそんな酷なことはないでしょ」

正論だ。

何一つ間違っていない。

けれどそんな事はこっちだって百も承知だ。

その上で、僕だって選択している。

今回の件は特に、使えるものは使って早急に正しく対応しなければ、とんでもないことになるのは目に見えている。

それに、僕が『知っていた』という事実は、最悪の事態であってもリグを守る根拠になる。

僕だってもう成人を迎えた。

越えてはならない線を見極め、そこまでで手を貸す術くらいはもう持っている。

それこそもう昔みたいに――

『自分の痛みにばかり敏感で誰も信頼する事なくむやみに威嚇していた未熟な僕』とは違う。

今は信じ合える仲間もいる――

それを教えたのは、他でもない君だ。

だからもうリグに、そこまでまるで真綿に包む様な気を遣ってもらわなくとも、今の僕は君を支えるくらいの頑丈さはある。


……なのに。

彼女に頼られないことが地味に痛い。

図星を刺されたみたいで苦々しい気持ちになる。

一方で、「心配だからこそ頼れない」というニュアンスが君の口から出たことに、思った以上に嬉しくなってしまう自分もいる。

滑稽だ。

そういう部分を全て彼女に見透かされてる様で、余計にやるせなさが込み上げる。


「君が僕に何も頼ってくれないのはそうやって僕をみくびっているからかい?」

言ってしまって、はっとする。

こんな言い方をするつもりはなかったのに。

やはり僕はどうしても君を前にすると冷静さを欠いてしまうのは昔から治せていない様だ。

やってしまったと思いながらリグを確認すると、リグは、目を丸くして固まっていた。

「え…?私…?」

何だその反応は…?

なぜそんなまるで自分は無関係であるかのような顔をするのだろうか。

僕はずっと端から君に問うているというのに。

「今回の件、とてもじゃ無いけど君だけの問題じゃ無いだろう?君一人で全てを抱えられるとでも思っているのかい?ミーチェ嬢やコラードにはすぐに人に頼るように促すのに君自身はなぜしない?」

まさかここまで言わないと理解できないとは思わないが、念のため言葉にしてみる。

すると彼女はしばらく何とも言えない顔で固まっていたが、ため息をついて表情を引き締めた。

「ミーチェやコラード先輩がソーマを頼るのはわかるけど、私がソーマを頼るのは違うでしょ」

だめだ、リグの言っている意味がわからない。

「何が違うっていうんだ?」

「ミーチェは…聖女だし次期ルミナーレ公爵だから。コラード先輩はソーマと親友…なわけでしょ?」

その言葉に嫌な予感がしてドクンと心臓が跳ねる。

まさかそんなはずはない。

そう思うのだけれど。

彼女の言葉から導き出された解は僕の中で一つしかなかった。

「なるほど…君のことを…気の置けない友人…『親友』だと思っていたのは僕だけだったのかな…?」

言葉にした途端、虚しさが全身を覆う。

笑顔は顔に貼り付けてみたものの、うまく笑えている自信がない。

「親友…」

リグは呟くと、苦々しい顔をして黙りこくってしまった。

あぁ、そうか。

なるほどね。

まあ、薄々そんな気はしていた。

だけど――

「ねぇ…流石の僕も傷つくよ…?」

口にせずにはいられなかった。

嘘でもお為ごかしでも、君になら例え利用されてでも構わないと思うのに。

彼女の表情を見ただけで、それすらも叶わないことが良くわかった。

「えっと…あ…ごめん…馴れ馴れしすぎたよね私…もう少し距離を置くように気をつけます…」

思わずため息が漏れた。

もちろんずっと壁は感じてはいたけど、二人きりの時や稽古の時は特に僕に素で接してくれてるように見えたから、『親友』は無理でも少なくとも『友人』にはなれたと思っていた。

この感じだと、彼女の中では僕は近しい他人でしかないのだな。

そしてそれは多分ジオに対してもそうなのだろう。

「なんで君はそんなに壁を作ろうとするんだい?」

「それは…私とソーマじゃ立場と背負ってる物が違いすぎるから…『親友』にはなれない」

彼女の口から吐き出されたその残酷な線引きに、まるで鈍器で殴られたかのような衝撃が走った。

なんだよそれ。

一周回って笑えてくるよ。

「あはは、そう…その言葉…他でもない君が言うんだね?僕に信頼できる友人を増やすべきだと説いた君が。今までいろんな人に何度か似たようなことを言われてきたけど…君の口から聞くのは1番辛いよ」

そんな僕を見てなぜかリグは一瞬傷ついたような顔をした。

なんで君がそんな顔をするんだよ。

しかしすぐにリグは真顔に戻ると、目を閉じ深いため息をついた。

そして目を開いて僕をじっと見つめる。

「用事はそれだけ?あなたも暇じゃないだろうし私もやることあるし、お開きでいい?」

まぁ、いいさ。

例え君が僕を友人だと思っていなくとも、僕がどう考えどう動こうが、僕の勝手だろ?

君がそのつもりなら、僕も勝手にやらせてもらうよ。

「本題がまだだろう?コラードのことから君は手を引いてくれ。」

僕はリグに鋭い視線を向けると、強めの口調で言い放った。


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