【R18】復讐者は公園で眠る

黄泉坂羅刹

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幕間 復讐者とは

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王立記念公園が物々しい雰囲気になる。
行方不明だった少女が3人、下着姿で公園に戻って来たのだから当然だ。
特にスフィア伯爵令嬢の怯え方も尋常では無かった。
3人の性奴隷紋は、地下から出た後に解呪されていた。あくまで地下に居た間だけの効力だったのかもしれない。
それでこの話は過去の事件として過ぎ去れば良かったのだが、エレンはあれから1年経った今でも追い続けていた。
「エレン様、まだやってんのか?」
「エレン様、お願いします、もう、どうかお止めください……」
より凛々しく、しかしより女子生徒に人気が出るようになったローズ伯爵令嬢。
より大人しく、しかしより女子生徒から庇護欲が出るようになったスフィア伯爵令嬢。
そして、そんな二人を愛すようになった、エレン公爵令嬢。
彼女達は王立記念公園での事件から、更に美しさに磨きがかかった。
そんな3人が並んで歩いているだけで、自然と視線が行く。
しかし、エレンはその視線を一切無視して前を向き、スフィアもそれに倣う。
ただローズだけがその視線を気にしていた。
「まだ、私達を守れなかったことを悔やんでいるの、ローズ?」
「……あの日、たった一日だけの地獄で済んだから良かったけど、二人を失うかも知れなかったんだ。守ると言って、守れなかったのは私の驕りだよ」
「それでも、私達はある一面に於いて感謝すべきかもしれないわね。何せ、こうして貴方達を愛おしく思えるようになった。スフィアは以前から気になっていた平民への態度を改めるようになった。ローズは自尊心を抑え、女性らしさも出るようになった。荒療治ではあるけれども、人としての自尊心を砕かれたことによって、私達は大幅に成長したんじゃないかしら」
「エレン様、私は貴女を誇りに思うよ。貴族である私が平民の女に組み伏せられたなど、プライドが許さないもの」
「ローズは強くなったわね。私に歯向かうなんて、昔の貴女なら考えられなかったのに」
「あの1日は私にとっても地獄だったからね。だから強くなれた。そう考えられるようになったのは、全て貴女のおかげだ」
「でも、私はローズが居なければ今の様に振る舞うことは出来なかったと思うわ。だから感謝してるのよ、ありがとう、ローズ」
エレンはそう言って微笑む。
エレンは『変わった』。
その美しさに磨きがかかったのもあるが、何より自身のありように誇りを持てた。
そのお陰で、彼女はより高みへと至ることが出来たのだ。
エレンはそうして2人を見る。
2人もそんなエレンを誇らしげに見る。

『影』と呼ばれるエレンの公爵家に潜む暗部が居る。
彼等はエレンをこのような目に遭わせた人間を許さないとして、今も証拠を隈なく探しているが、それでも見付からない。
報告を受けるたび当主は毎晩怒りに肩を震わせる。
一日でも早く、誘拐犯を目の前に連れて来いと言うのが、最早決まった言葉になっていた。
「……今晩も何も得られなかったか。魔法を使ったのであれば、間違いなく魔力痕跡があるはずなのに」
「お嬢様にメモを渡した女子生徒の足取りも全く終えて居りません。申し訳ありません」
「お亡くなりになった女子生徒については、何か分かった?」
「いえ、それが実は、裸で図書室で倒れていた女子生徒の遺体も現在行方が分かりません。認識阻害魔法が掛けられていた訳でも無いのに、死体を発見した女子生徒はその死体の少女の顔を思い出せなかったそうです」
エレンは頭を抱える。
全く関係のない少女、そんな子が何故こんな事件に巻き込まれたのか。
しかし、とエレンは考える。誰にも見付からずに学校に侵入し女子生徒を殺害、その後その制服を奪ってエレンのポケットにメモを忍ばせる。
その後人払いをした上でスフィア、エレン、ローズ3人を誘拐出来る人間がどれ程年齢の近いところで居るだろうか。
また、それが1年前までただの平民で、スフィアがスラムに落としたとするのだから、特徴は掴めずとも本来であればある程度特定も出来るはずなのに……。
「遺体も公園も何も魔力的証拠が出て来ないなんて……。一体どうやって痕跡を残さずにこんな大それた事件を起こしたの?」
「エレン様、そもそもとしてこの事件、本当にあったのでしょうか? 勿論実際にエレン様含め皆様が経験されていることから間違いないのでしょうけれども、世間的にも状況証拠的にも、事件が遭ったと言うことを裏付けるものが何も出て来ないのです」
『影』の言葉に、しかしエレンも否定はしない。
反論は幾らでもあるけれども、それはあくまで反対の真実を論じるだけで有って『影』の言葉を否定できるものではない。
否定するための根拠が何も無いのだから。
「私達が見た光景、そしてあの拷問じみた魔法、あれは現実の出来事なの? 証拠も出ず、何度も否定されると、私はそうは思えない。もし、本当にあんなことをした人間が居るのなら、それは人間じゃない」
「とは言え、行方不明になってから皆様が変わられたのは事実です。しかし――」
「ともすれば、事件は何も起きていないのかもしれないわね」
「え、と、言いますと?」
「一つ、心当たりがあるの。スフィアを呼んでもらえるかしら?」

翌日の放課後、エレンはローズを連れて生徒指導室へ向かう。
「エレンとローズ、こんなところに何の用だ?」
「一年前、殺人事件があったと騒いでいたことがありましたでしょう?」
「あぁ、そう言えばあった」
「その時の調書を見せて貰えないかと思いまして」
「そんなものは無ぇよ。アレは悪戯として処理されたんだ。もう誰も騒がないし、証拠も出て来ない」
「あの事件の被害者は私ですよ?」
「エレン!?」
そしてエレンは机に手を付き、生徒指導の先生に顔を近づける。
「これ以上の隠し立てをするのなら、こちらも強硬手段に出るしか無いわ。私は今日中にでも調査を進めたいのですの」
「何を言われても無い物は無い!」
「では、直接聞くとしましょうか。その当時の生徒さんは、どちらに?」
「あぁ、それなら――」
エレンはそれだけを聞くと生徒指導室を後にする。
残されたローズは呆然とする。
エレンの変わりように、驚きを隠せなかったのだ。
結論として、その女子生徒であるルミア・フェーズは突如現れた公爵令嬢に平伏しながらも、当時のことは何も覚えていないと話した。
気が動転していたのかも知れないが、実際死体どころか血の一滴すらみつからないのだから、それ以上の情報も何も無かった。
「そう。では、連絡先を教えて貰えるかしら?」
「連絡先ですか?」
「何か思い出した時、私にこっそりと教えて欲しいの」
「わ、分かりました……。あの、でも、私はどうなるんですか? 事件が本当なら、私は第一発見者のはずですよね?」
「あぁ、それは気にしなくて良いのよ。貴女は何もしていないのだから」
ルミアは混乱しながらもエレンの言葉に頷き連絡先を教える。
そして、その日の夜、エレンは『影』にルミアから渡されたメモを渡す。

ルミア・フェーズ。彼女は一般市民で、1年前当時一人で図書室に本を返却しに行こうとしていた時のこと。
室内に入って鉄の匂いを感じて周囲を見渡すと、それが鉄ではなく血の匂いで、その場に人が裸で倒れて死んでいたのを見たと言う。
脈を計ったわけではなく多量出血による出血死であると思ったルミアはそのまま先生を呼ぶ。
しかしそこには死体はおろか、血の一滴すら無く当時呼ばれた教師にこっぴどく叱られたとのことだった。
その後、死体が見付かったという話も聞かない。
(けれども、もし私の予想が正しければ、1年以上前にスフィアが復讐されるようなことをした相手は……)
勿論そこも『影』を使って調べている。しかし、スフィアは当時平民に対しての素行が悪かったため、ヒット数が多いのである。
そのことについては本人も十分に反省しているので、敢えてそれ以上言う積もりはエレンには無かった。
(ともかく、結果を待つだけね)
結果を楽しみにエレンはベッドの中に入り眠るのだった。
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