私を見つけて!  転生令嬢は失った婚約者との運命を取り戻したい

耳おれ猫

文字の大きさ
21 / 24

潰された野望

しおりを挟む
 ランドア聖国の王太子ジルベールは、常に二番手だった。
上には自分の半年前に正妃が産んだ第一王子がおり、自分は側妃が産んだ第二王子。
一発逆転を狙って、12才で兄と同時に【神授の儀式】を受けたが、【神授の儀式】で得たスキルは、”大盗賊”という王族に一番ふさわしくない物だった。
 「ジルベール殿下のそばにいては、何を盗まれるかわかったものではないな」と神官や高位貴族達がひそひそと話す言葉が聞こえた。あまりにショックで下を向いて俯いていた時大歓声が起こった。
 私の後で第一王子が得たスキルは”火炎の使い手”だったのだ。誰もが欲しいと思う火属性の優れたスキル。
「そのスキルを俺にくれ!」心からの底から思った。切望と絶望がぐちゃぐちゃになって第一王子を睨みつけたら、兄は俺に冷たい視線で笑みを浮かべていた。見事に私は奴の引き立て役にしかならなかった。王太子の座の夢は完全に消え去った。

 そんなくさっていた年のある日、隣のズッシード王国のジルデア公爵家の嫡男クレナンドと交流会で会う機会があった。クレナンドは筆頭公爵家の嫡男で王位継承権を持つ優秀な男だったが、持つスキルは”空間属性”だと言う。
この男も役立たずスキルしか持たぬ自分に苦しんでいたのだ。
私達は意気投合し、仲の良い友人になりお互いの家を訪問するようになった。
 私は同じように役立たずスキルを持つ者を誘って、己の身体を鍛えて武器で戦う集団を内密に作ることにした。
「役立たず」「無能」「無駄」と言われ続けてきた男たちは、強くて使いやすい暗殺集団に育っていった。
そして暗殺集団が最強集団に育った時、満を持して兄を暗殺して王太子に成り上がったのだ。

 そんなある時、夜密やかにクレナンドがやって来て、「ドラゴンの魔石を手に入れました。これを武器に使って火炎放射装置を作りませんか?」と言ってきた。
”火炎の使い手”だった兄が誇らしげに火炎の魔法を父に披露する姿を思い出した。「これがあれば火炎の魔法が使えるんだな?」私はすぐに話に飛びついた。

「いえ、条件がございます。私の国の王太子クロウズを暗殺してください。私は第一王女であるシルビアーナとの婚姻によって国王になるはずでした。しかし後妻に来たミレディーナ王妃が王子のクロウズを産んだために、私に王位が回ってくる可能性は低くなりました。私は国王になってズッシードの鉱石を世界中に売りさばきしたい。だけどラジル王国の港であるゴルシラック港から輸出をすると、港湾使用料や税金で利益の半分が消えてしまう。これはランドア聖国も同じでしょう?」

「そうだな、わが国の輸出品も全てゴルシラック港から輸出されている。ラジル王国に払う金額は馬鹿にならん」

「ですから我々でラジル王国からゴルシラック港を奪うのです。このドラゴンの魔石を使えば我々の夢はすぐ叶うことでしょう」とクレナンドは言った。

 それから何度となくクレナンドと話し合い、ラジル王国に侵攻する船団も確保した。視察に来たクロウズ王太子を始末しようとしたが、二度の機会をフイにし残念ながら逃げられた。
まあ良い。河を封鎖して連絡が取れないラジル王国に3日後の侵攻を知らせるのは不可能だ。
明日の朝、ズルフ河を下って作戦決行だ。失敗する可能性はゼロに近い。


 早朝夜明け前のズルフ河をランドア聖国の河船がゆっくりと進む、辺りは霧に包まれて物音一つしない。

「ジルベール殿下、もうすぐ国境を越えます」配下の声に頷いた。

「作戦通り、ここから河の沿岸を焼き尽くす。その後分かれて王都に行く隊、東部に行く隊、そしてゴルシラック領に行く隊に分かれて行動する!全員配置に付け!」

「おおっ!」と大きな声が聞こえた時だった。

 ゴオォォーーーっ!といきなり突風が吹き、辺りの霧は跡形もなく消えた。
 そこでランドア聖国の者達がたちが見た物は、ズルフ河に横いっぱいに広がる船、船、船。
そして、その先頭の船の舳先に立つ三人の男がいた。

「そこにいるのは、ラジル王国に侵攻しようとしているランドア聖国の方々とお見受けする。ラジル王国を火の海に変えようと企むお前たちを、このイズアル・ゴルシラック、スニフル・ゴルシラック、ベリル・ゴルシラック。ゴルシラック三兄弟がこの先は一歩も通さぬ!」イズアルの声は風の魔法によって拡声され、ランドア聖国の兵士たちは耳元で叫ばれているような気がした。
そしてイズアルが「我らによる風と水の競演とくとご覧あれ!」と言った途端、横殴りの暴風と大雨がランドア聖国の船に叩きつけられた。河の水は渦を巻き、船同士が衝突し、全ての船が跡形も無く河底に沈んでいった。

「やりましたね、兄上!」ベリルの明るい声に「おまえが知らせてくれたおかげだよ」とベリルの肩をたたきながら
長兄は言った。

 一方でラジル王国の王城では、クロウズが戦いの結果の知らせをハラハラしながら待っていた。

「クロウズ、そんなに心配しなくてもゴルシラック三兄弟の事だ。全部の船を沈めて帰ってくるわい」

「でもおじい様、ドラゴンブレスが1回でも放たれたら甚大な被害が・・・」

「陛下!、早馬より知らせがありました!ズルフ河にてランドア聖国の軍船は全て撃沈!味方の損傷はゼロという事です!」

「やったーーーーー!!」クロウズは飛び上がって喜んだ。

 無傷で帰ってきたベリルにクロウズは喜んだが、ベリルの顔は冴えない。そして両親に呼ばれているからとゴルシラック領の実家に帰って行った。

 ランドア聖国による侵攻は失敗に終わり、莫大な賠償金をラジル王国はランドア聖国に請求した。ズッシード王国もジルデア公爵家のクレナンドが加担してドラゴンの魔石を提供したのがわかっている。サイラスから預かった親書には、その賠償責任を負うと記されていた。
 しかしラジル国王は、ベリルとクロウズが侵攻を事前に知らせてくれた結果、被害が無かった事。かわいい孫の顔が見られて嬉しかった事から、ズッシード王国の責任は不問とする決定をした。



 「ベリルはなぜ帰って来ないの?」私は開放的なラジル建築の王宮で廊下から庭園を見下ろしながら呟いた。

 侵攻を阻止した日からもう1週間。さすがに連日続いた祝勝会も終わり、お祝いムードも落ち着いてきた。
そろそろベリルとチャルに乗ってズッシード王国に帰りたいと思っていたのだ。

「クロウズ兄さま、こちらにいらっしゃったのね」と声をかけてきたのは、ラジル王国の王太子殿下の第二王女メルディーナだった。そう、母であるミレディーナの兄の娘。私の従妹に当たる。

「せっかくラジル王国にいらっしゃったのですから、こちらの親族とも交流をはかって下さいませ、クロウズ兄様。

 私はこの1つ下の従妹が苦手だった。昨日も一昨日も親族との交流の名のもとに女性だらけのお茶会に強制参加させられたのだ。
カラフルなドレスに身を包んだ女性たちは香水の強い香りをふりまき、私の趣味や好みの女性のタイプを聞き出そうと身体を密着させてくるのだ。10才に満たない年の頃から15才くらいの女性まで、上位貴族の令嬢ばかり10人以上の女性に囲まれて開かれるお茶会は苦痛でしかなかった。しかしこっちは客人の身。邪見にするのも憚られるというわけで、今日も参加させられるのかとウンザリしていた時、「メルディーナ、いい加減になさい。クロウズ殿下はお疲れのご様子よ」と声がかかった。

「ジュリアーナお姉様、そう言われても、クロウズ兄さまがズッシード王国に帰られたら今度はいつお会いできるかわからないんですもの。交流してお互いをよく知った方が良いと思いませんの?」

 かわいあざとく首をかしげて姉である第一王女ジュリアーナに言ったメルディーナだったが、姉の「クロウズ殿下はズッシード王国から我が国の危機を知らせるためにここまで必死で駆けつけてくださったのよ。お疲れに決まっているではないの。もう少し自重なさい」との言葉にしぶしぶ頷いた。

「アルフレッド、もうすぐ礼儀作法のガーネット先生がお見えになると思うのよ。部屋までメルディーナを連れて行ってやってちょうだい」

「承知いたしました。さあメルディーナ様、ガーネット先生がお待ちですよ。参りましょう」と護衛のアルフレッドがメルディーナを連れて行ってくれた。

「クロウズ殿下、妹が申し訳ない事を致しました。お許しくださいませ」と言って去ろうとするので、クロウズはジュリアーナを引き止めた。

「ジュリアーナ様、ありがとうございました。私はどうも女性に囲まれて話すのが苦手なのです」とクロウズが言ううと、「ではお気をつけなさいませ。今周辺の国の王家では王子の数が大変少ないのです。ですから10才のクロウズ殿下は格好の獲物。王女や上位貴族令嬢が殿下を狙っておりますわよ」とジュリアーナはそう言って去って行った。
背筋がゾクッとした。ただでさえ女性に興味が持てない身なのに自分は女性達に狙われてるという。

 かなり居心地が悪くなっていた頃、ようやくベリルが現れた。
ベリルはいつもと違い固い表情でクロウズの前に跪いた。

「クロウズ様お話がございます。私はあなた様をズッシード王国に送り、あちらの仕事の引継ぎが済みましたら
王太子付き護衛官としての任務を辞職して、ラジル王国に帰る事になりました」

 青天の霹靂とはこの事だろう。私はあまりに驚いて言葉が出なかった。

「本当は前々から帰って来るように言われていたのです。私は婚約者だったルルレットが転生して生まれ変わったのを探すために旅に出ました。思わぬところからズッシード国で縁を持ち、10年という期間クロウズ様のお側でお仕えする事になりました。しかしルルレットは見つからず、この先見つけられる自信も無くなりました。この辺りで諦めて帰って来いという実家の声も大きく、帰還する事をお許しいただけませんでしょうか?」

 ベリルが探しているというルルレットというのは私だ。転生したルルレットは、転生してズッシード王国の王子に転生した。女ではなく男に…・
「私がルルレットよ」と言えたらどんなに楽だろう。でも男のクロウズ王太子に生まれ変わってしまった私にベリルを引き止める資格はない。それにルルレットを探す事を諦めたらベリルは違う人生を歩むことができる。ベリルの幸せを邪魔する権利は私には無いのだ。
  
   言えない…私のそばにいて欲しいなんて言えない…。

 私は涙を堪えて頷くしかなかった。
ズッシードへの帰途の道中はズルフ河を船で帰った。ベリルに何か言わなければと思うが言葉が出て来ない。
私達はほぼ無言で船を降り、馬車で王都に戻った。
 城に帰って、ベリルは父上に報告して職を辞する許可も得たようだ。クロウズとして今までの感謝の気持ちを伝えてベリルを気持ちよく送り出さなければならないとわかっているのに心がついていかない。

 ベリルの傍にいたい。転生なんてしなければ良かったと初めて思った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...