私を見つけて!  転生令嬢は失った婚約者との運命を取り戻したい

耳おれ猫

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最後の賭け

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 それから私たちは王都を目指して駆け続けた。

「ねえ、ベリル、どうして王都を目指すの?ランドア聖国はラジル王国に3日後に攻め入るつもりなんでしょう?王都に行ったらラジル王国からどんどん離れていっちゃうよ」私は心配になってベリルに尋ねた。

「もうズルフ河の通行は止められているでしょう。あちらに行っても連絡する手段はありません。3日でラジル王国に危険を知らせるにはもうこの方法しかなんです。もしあの方法が成功すれば…」

「成功すれば?」

「まだわかりません。私たちに残された唯一の手段に賭けるしかないという事です。寝てても良いですよ。私が支えていますから」

 アクゥがスピードを少し上げた。アクゥは走るのが大好きな鳥型の魔物だ。スピードもあるし、持久力もある。だけど城まで休まず駆けても2日かかる。このまま走ってアクゥは大丈夫なのかな?それにあと残り1日でどうするつもりなのだろうか?私は焦る気持ちを抑えながらいつの間にか眠っていた。

「クロウズ様、起きて下さい。もうすぐ城に着きます」

 私は何回も寝たり起きたりしていて、目を開けてここはどこだと辺りを見回した。城に渡る吊り橋が見えた。今は夕方で城の手前まで帰ってきている事がわかった。

「僕ばかり寝てしまってごめんなさい。ベリルは一睡もしていないのに」

「私は成人した男ですし冒険者でもありますから2日や3日寝なくても大丈夫です。それより昨日の昼出発して1日半が経っていますから残り1日余りです。城に着いたら国王陛下にジルデア領での事をご報告お願いします。私はアクゥを厩舎に連れて行きます」

「わかりました。後で父上の所でまた会いましょう!」

 私はアクゥから降りると城の中へ一目散に駆け出した。後ろを振り返りもせずに…。

 私は父上の執務室に駆けこむと、息をするのも忘れて叫んだ。

「父上、ジルデア公爵家のクレナンドとランドア聖国の王太子が手を結び。ラジル王国に侵攻しようとしています!クレナンドは、ジルデア公爵領のドラゴンの墓場でドラゴンの魔石を得て、それを利用した火炎放射器で…ラジル王国を火の海にしようと…明後日の…朝には……攻め入ろう…と」私はそこで息が続かなくて激しく咳き込んでしまった。息ができない私の背中を父上はさすって「ゆっくり息をしろゆっくりだ」と落ち着かせてくれた。
 少し呼吸が落ち着いて「父上、ラジル王国を…ゴルシラック港を…」と言ったが、次は涙と嗚咽が止まらなくてまた話せない。どうしようかと思っていたらベリルが入ってきた。

「ベリル、クロウズの話は本当か?」

「はい、私とクロウズ殿下が彼らの話を聞きました。証拠のドラゴンの魔石はこれに。クロウズ殿下を暗殺する為に眠り薬で眠らせようとしたお茶はこの水筒に入っています。中身を調べていただければはっきりするとと思います」

「これがドラゴンの魔石か…禍々しい赤色をしているな」

「これ1つでこの王都を焼き尽くせるでしょう。それだけの魔力を持っています。これを10個ランドア聖国は手に入れて武器を製造している模様です」

「それで明後日の朝と言ったな、ジルデア公爵領からわざわざ1日半かけてここに戻って来たんだ。何か策があるんだろうな?」国王はベリルの顔を見て言った。

「私が飼っているターミルクイナのチャルに【神授の儀式】を受けさせてください。チャルは生まれた瞬間眩い光に包まれました。チャルは”神のいとし子”だと思われます。チャルが一生に一回使えるというスキルがラジル王国を救えるスキルである事に私は賭けたいと思います」

「ほう、魔物にも”神のいとし子”が生まれるのか」国王のサイラスは唸った。そして「良かろう」というと、近侍のエドウィンに判定石を持って来るように言った。

【神授の儀式】に使う判定石を教会に行って借りなければならないと思っていたが、王家も持っていたのだ。

「王族の持つスキルを教会に知られたくないからな。でも魔物に使うのは内緒だぞ」サイラスはコホンと咳払いをした。

「ありがとうございます。陛下」ベリルは深く頭を下げた。

 人の目がある厩舎で魔物の【神授の儀式】をやるわけにはいかず、近衛騎士団の訓練場を立ち入り禁止にしてチャルの【神授の儀式】は行われた。
判定機の前に連れて来られたチャルはこれから何があるんだろうと興味津々である。
チャルの足を上げさせて、敷物の上に置かれた判定石に足を翳す。

 そこに現れた判定は     【 千 里 走 】

 「これは【神授の儀式】の始まりの伝説に出て来るスキルだ。ある王家の姫が戦地で病になった婚約者を助けるために、麒麟の姿になって千里の道を1日で走り、病の特効薬を届けて助けたという話だ。神話に出て来る伝説は本当の話だったんだな」

「ではこのスキルを使えばラジル王国まで1日で走れるという事ですね」

「いや待て、ランドア聖国がズルフ河を封鎖しているのにどこを走るつもりだ。道が無いぞ」

「ランドア聖国は通りません。私が10年前この国に来た道を逆に走ります。イドマンからザス王国にはトンネルを通しましたし、ターミル砂漠の巨大なワームも倒しています。ラジル王国まで障害無しで走れるでしょう」

「そんな事をしてこの国にやって来ていたのか」とサイラスは呆れたようにベリルを見た。

「クロウズも一緒に行くつもりか?」サイラスはクロウズの方に振り向いた。

「はい、私も行きたいです!」クロウズは呼吸を整えてハッキリ返事をした。

「わかった。では私はラジル国王に親書を書くから、その間におまえ達は飲食をして装備を整えよ!半刻の間に用意を済ませて城の前に集合だ」

「はい!」クロウズは元気良く返事をした。

 半刻後、城の前には準備を済ませたベリルとクロウズとチャルの姿があった。サイラスは書き上げたばかりの親書をクロウズに渡した。

「ラジル国王はおまえの母方の祖父で、母の故郷でもある。必ずドラゴンの炎から彼の国を救い、敵の謀略を潰すのだぞ!」

 サイラスの言葉にクロウズは「必ず!」と応えた。

 チャルに乗ろうとして、クロウズはふと思いつき、ベリルに尋ねた。
 
「そういえばアクゥは大丈夫でしたか?走り続けて大変だったでしょう?」

「アクゥは死んだ。俺がアクゥから下りたら安心したように息を引き取った」

「えっ、そんな…」

「泣くな!アクゥが命を賭けて走ってくれたから希望がつながった。アクゥの死を無駄にしない為にもランドア聖国が侵攻する前にラジル王国に知らせるぞ!」

 クロウズは涙を拭いて「はい!」と答えた。

「よし、チャル、お前の【千里走】を見せてくれ!母の死を無駄にするな!」

「くうううううううううっ!」とチャルが一鳴きした瞬間、チャルの姿が消えたようにサイラスには見えた。

 そして国王達は彼らが旅立ったであろう方向をいつまでも見て間に合うよう祈るのだった。


 風になったチャルは滑るように大地を走った。王妃と再会したスピカ高原、イドマン王国、そして魔法使いが力を合わせて掘ったザス・イドマントンネル。
夜が明けて、まばゆく昇ってくる太陽に向かってチャルはターミル砂漠を疾走する。邪魔をする巨大生物のワームはもういない。
そしてチャルが生まれたアザード大森林。チャルは己が生まれた場所を覚えているだろうか?
大森林を抜けた先には、ベリルが冒険者になって腕を磨いたチレンチェ王国である。そしてギルに騙されて馬を売る羽目になったミルドレン王国。
 
 そして疾走するチャルとベリル、クロウズの目の前に、大きく広がる懐かしのズルフ河の川面が見えてきた。


  
 

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