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人生という暗号
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15歳のときに、自分が20までに何らかの天才でないとわかったら自殺して終わりにしよう、という計画があった。
いじめという体験が自分の存在に対する罪を顕現させるのだった。
いじめがもたらす懊悩は、私の存在に対する罪という敗北の形で取り払われなければならない。
不思議なことに、自分は5歳位のときには将来なにか底しれない不幸が自分の人生には待ち受けているのではないかという恐れのようなものが根付いていた。
それはウィークエンダーという番組の中でよくあった、一家心中のような事件を見ても感じられたし、昭和の時代にはそういう悲惨なニュースがわりとあった気がする。
一度でいいから本物の日蝕を見たいと思ったあの頃、次に日蝕が起きるのは40歳になってからだという自分の遠い未来が、まだ見たことのない自然現象と同じくらい自分には想像できない謎であった。
40歳と言えばまだ父親もその年齢に達しておらず、周りに比較すべき関係がなかったので、これはある意味当たり前のようだが、それに加えて日蝕が起きる前に死んでしまったらという焦燥感のようなものもわずかながらあったと思う。
未来世界や、異国の様子など、想像できないことは何一つないと思っているくせに、自分の将来だけは思いつかないのだった。
そして自分には他の子供に当然あるはずのものがないという、人間的な欠落のようなものを常に感じていた。
未来に対する不安というものが、その欠落に根付いていた。
いじめられるという苦痛が長らく自分の人生にあったことから、その欠落はおそらく自分自身の発見というより、他人から見たときにより明らかであっただろう。
この欠落をどう埋め合わせるのか。
そのための数知れない失敗が自分の人生に対する苦痛、つまりこの年まで欠陥を埋め合わせることなしに生きてしまったことに対する罰のようなものを感じさせる。
苦痛とは、生きるという罪に対して与えられる罰のようなものだ。
そうして罪と自分の人生はいつしか不可分になり、生存のための危機が後年自分の関心分野である暗号の研究に向かわせたとしても不思議ではない。
そして最近になって、自分がアスペルガーの属性を持つという事実で、その欠落を説明できるのではないかという結論に行き着いた。
この診断は医師によって下されたわけだが、それが今では多少の救いになっているように思う。
私は環境の変化が怖かった。
適応。
それが即ち一つの混乱である。
適応こそが暗号なのであった。
その暗号が形づけられていく過程で、私は一つの解読法を模索していたことになる。
人生の不確定さに基づく暗号は、解読されなければならないのだった。
私は少年時代に、一体どのような契約を自分自身に課していたのだろうか。
もし20歳前に死んでしまえば、それは人並みの感受性のあった少年の早すぎる死として受け入れられたかも知れない。
しかし受験の失敗以来引きずってきた生存への矛盾によって、もう取り返すこともできないほど汚辱にまみれた人生になってしまったことが、子供の時の自分の自尊心にとっては許せない背信行為だった。
自分自身への裏切り行為。
そしてまさに、自分のこのような人生に対する幕引きは、予想以上に潔い行為のように思われた。
もしそうでなかったら?
そのような不安を煽る想像はできなかった。
欠陥人間が生きながらえるためには才能を必要としていた。
才能はまさに、この不安に対する特効薬であった。
才能こそは生きることに対する殆ど唯一の免罪符であった。
だから解読法がなければ、その解決を死んで償わねばならなかったのだ。
謎と秘密の間にある1つの違いがあるとすれば、謎とは存在すら明らかでない概念であるのに対して、秘密とは存在していることは確実なのに、その値がわからないもののことを言うのだろう。
こうしてこの2つの基盤に基づく暗号が、私の中には交錯するようになった。
人生というものは意思のようであるとしても、謎のようなものであるとしたほうが心地がいいかも知れなかった。
人生の不安は、自分の社会に対する不適応の予感によって支えられていた。
未来に対する不確定と相まって、生存の罪というものは自分の中に生まれながら刻印された宿命のようなものだったのだ。
私がもし少年期のような精神的な潔癖症を維持できたら、もっと死に対して真剣だっただろう。
私の堕落した精神は、自分の存在を罰せられた状態のまま、善人が同時に悪人でもあるような矛盾した状態においたのだ。
占い師が自分のことを占えないように、計画性というものがない私は自分の未来を占えない。
いじめという体験が自分の存在に対する罪を顕現させるのだった。
いじめがもたらす懊悩は、私の存在に対する罪という敗北の形で取り払われなければならない。
不思議なことに、自分は5歳位のときには将来なにか底しれない不幸が自分の人生には待ち受けているのではないかという恐れのようなものが根付いていた。
それはウィークエンダーという番組の中でよくあった、一家心中のような事件を見ても感じられたし、昭和の時代にはそういう悲惨なニュースがわりとあった気がする。
一度でいいから本物の日蝕を見たいと思ったあの頃、次に日蝕が起きるのは40歳になってからだという自分の遠い未来が、まだ見たことのない自然現象と同じくらい自分には想像できない謎であった。
40歳と言えばまだ父親もその年齢に達しておらず、周りに比較すべき関係がなかったので、これはある意味当たり前のようだが、それに加えて日蝕が起きる前に死んでしまったらという焦燥感のようなものもわずかながらあったと思う。
未来世界や、異国の様子など、想像できないことは何一つないと思っているくせに、自分の将来だけは思いつかないのだった。
そして自分には他の子供に当然あるはずのものがないという、人間的な欠落のようなものを常に感じていた。
未来に対する不安というものが、その欠落に根付いていた。
いじめられるという苦痛が長らく自分の人生にあったことから、その欠落はおそらく自分自身の発見というより、他人から見たときにより明らかであっただろう。
この欠落をどう埋め合わせるのか。
そのための数知れない失敗が自分の人生に対する苦痛、つまりこの年まで欠陥を埋め合わせることなしに生きてしまったことに対する罰のようなものを感じさせる。
苦痛とは、生きるという罪に対して与えられる罰のようなものだ。
そうして罪と自分の人生はいつしか不可分になり、生存のための危機が後年自分の関心分野である暗号の研究に向かわせたとしても不思議ではない。
そして最近になって、自分がアスペルガーの属性を持つという事実で、その欠落を説明できるのではないかという結論に行き着いた。
この診断は医師によって下されたわけだが、それが今では多少の救いになっているように思う。
私は環境の変化が怖かった。
適応。
それが即ち一つの混乱である。
適応こそが暗号なのであった。
その暗号が形づけられていく過程で、私は一つの解読法を模索していたことになる。
人生の不確定さに基づく暗号は、解読されなければならないのだった。
私は少年時代に、一体どのような契約を自分自身に課していたのだろうか。
もし20歳前に死んでしまえば、それは人並みの感受性のあった少年の早すぎる死として受け入れられたかも知れない。
しかし受験の失敗以来引きずってきた生存への矛盾によって、もう取り返すこともできないほど汚辱にまみれた人生になってしまったことが、子供の時の自分の自尊心にとっては許せない背信行為だった。
自分自身への裏切り行為。
そしてまさに、自分のこのような人生に対する幕引きは、予想以上に潔い行為のように思われた。
もしそうでなかったら?
そのような不安を煽る想像はできなかった。
欠陥人間が生きながらえるためには才能を必要としていた。
才能はまさに、この不安に対する特効薬であった。
才能こそは生きることに対する殆ど唯一の免罪符であった。
だから解読法がなければ、その解決を死んで償わねばならなかったのだ。
謎と秘密の間にある1つの違いがあるとすれば、謎とは存在すら明らかでない概念であるのに対して、秘密とは存在していることは確実なのに、その値がわからないもののことを言うのだろう。
こうしてこの2つの基盤に基づく暗号が、私の中には交錯するようになった。
人生というものは意思のようであるとしても、謎のようなものであるとしたほうが心地がいいかも知れなかった。
人生の不安は、自分の社会に対する不適応の予感によって支えられていた。
未来に対する不確定と相まって、生存の罪というものは自分の中に生まれながら刻印された宿命のようなものだったのだ。
私がもし少年期のような精神的な潔癖症を維持できたら、もっと死に対して真剣だっただろう。
私の堕落した精神は、自分の存在を罰せられた状態のまま、善人が同時に悪人でもあるような矛盾した状態においたのだ。
占い師が自分のことを占えないように、計画性というものがない私は自分の未来を占えない。
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