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第二十二話 ダンジョン攻略開始

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 天魔島に上陸してみるとそこは深い森が広がっている場所だった。天魔島全体がダンジョンになっており、五十人ほどいるプレイヤーは同じクエストを受けて天魔浄玉を手に入れるためにここに来たのだろう。
 リリ曰く、天魔浄玉には階級と言うものが存在しており、階級によって天魔浄玉を守護しているボスの難易度が変動する設定らしい。僕たちが狙うのはもちろん最高難易度のものだ。
 天魔浄玉は一回のクルーズで限られた数しか手に入らないので、争奪戦みたいなものである。奪うのもよし、協力するのもよしだ。
 そして天魔浄玉を手に入れて船に戻ることができれば奪われる心配はなくなる。最後にここでHP がゼロになれば、天魔島で復活することはなく、街に戻ることになるらしい。

「いくよ!」
「おー!」

 リリのかけ声に僕たちは反応をして森の中へと入っていく。
 森の中に入って最初に出会したのは、ガイスト族のモンスター四体だった。

「こいつらに攻撃、当たるのか?」

 僕は実体を持たないモンスターが目の前に現れたので、ツキナに疑問をした。

「物理攻撃は効かないわね!」
「僕と相性、最悪じゃん!」

 ツキナの回答を聞いて、悪態をつかずにはいられなかった。

「私に任せて!」

 リリはそう言うと両手に何らかの爆弾を四つ出現させる。

「閃光爆弾‼」

 リリは手に出現させた爆弾をガイスト族のモンスターに投げつける。爆弾は四体のガイスト族のモンスターの近くで爆発して目が霞むほどまぶしい光を放った。光に包まれたガイスト族のモンスター四体は消滅した。 

「今の何?」

 リリが謎のアイテムを使ったので、僕は質問する。

「今のアイテムは、閃光爆弾と言って、ガイスト族のモンスターの弱点の光属性アイテムを使って、独自で作成したもの」
「そうなのか……! すごいな!」

 独自で作ったということは、このゲームに一つしか存在しないものと言う事なので感心してしまう。一体何個、独自で製作したアイテムを持っているのかが楽しみだ。
 
「これをみんなに配っとくね!」

 リリは両手にまたアイテムを出現させて僕たちに手渡しで配ってくれた。

「これは流光薬と言ってすべての攻撃を十分間だけ光属性に変える薬! ガイスト系のモンスターが出てきたらこれを飲んで!」

 僕たちはリリに感謝の気持ちを伝えて、受け取った。
 これでガイスト族のモンスターが出てきても攻撃を当てれるようになった。リリは天魔島のクエストを受ける前に相当下調べをしたらしく、準備万端のようだ。そこまでして欲しがるものは何なのか余計に気になってしまう……。
 その後もガイスト族のモンスターがたくさん出てきたが、リリがくれた【流光薬】のおかげで苦戦することなく倒すことができた。それにまだ他のプレイヤーに遭遇していない。
 
「最上位の天魔浄玉がある洞窟見つからないなぁ……」

 親切なことに洞窟の前に難易度が表示されており、洞窟は見つかるのだが全てが低難易度の洞窟ばっかりで最高難易度の洞窟はなかなか見つからないので、僕はついつい本音を漏らしてしまった。

「しょうがないだろ! 簡単に見つかってしまったら面白くないだろ!」
「それもそうだけど……」

 トモにもっともらしいことを言われてしまった。確かに簡単に見つかってしまったら面白くないし、達成感がなくなってしまうと思う。

「うぁぁぁ! 助けて!」
「勝てる分けねぇだろ! こんなのいると聞いてないぞぉ!」

 最高難易度の洞窟を見つけるために歩いていると、どこからかは分からないが他のプレイヤーの襲われた動物のような悲鳴が聞こえてきた。僕たちは声のする方に歩いて行き、木の影からそっと覗いてみる。
 
「なんだ? あのモンスター!」

 ライオンの特徴を持つ人間が他のプレイヤーを次々に倒している。僕はあのモンスターがなんなのか気になったので、質問を投げかける。

「あれは獣人族のモンスターね!」

 僕の疑問に答えてくれたのはツキナだった。

「獣人族?」
「名前の通り、獣の特徴をもつ人間のことよ!」
「なるほど……なら、あのプレイヤーたちいい装備を持ってるのに何で苦戦しているんだ?」

 いい装備をしているプレイヤー方も足も出ないなんて、一体どんな能力を持っているか気になったのでツキナに質問を続ける。
 
「獣人族は基本的に攻撃力がかなり高いモンスターで、そして一部の獣人族モンスターには貫通攻撃という能力がついているから防具の強さはあまり関係ないのよ!」
「なるほど、なら貫通攻撃を持っている獣人族を複数体、倒せばスキル手に入るかもな!」
「行ってくるのね!」
「おう! 助けるのとついでに倒してくるわ! ここで待ってて!」
「分かったわ! いってらっしゃい!」

 ツキナは僕が負けるとは微塵も思っていないみたいで、明るく弾んだ声で送り出してくれた。妻みたい……。
 僕は木の影からライオンの特徴を持った獣人族に向かって走っていき対峙した。

「何だ? お前は?」

 一人の男性プレイヤーが僕に話しかけてきた。

「君たちを助けるヒーローです!」
「はい?」

 僕の発言を聞いたプレイヤーたちは(なんだ、このプレイヤーは!)みたいな表情で僕を見てくる。

「冗談だよ! ただ苦戦しているみたいだったから助けに来ただけ!」
「それはありがたいけど、倒せるのか?」
「まぁ、見てて!」

 僕はそれだけを言い残し、ライオンの特徴を持つ獣人族に向かって歩いていく。
 
「お前一人で俺に勝てると思ってるのか!」
「喋れるのかお前!」

 ライオンの特徴を持つ獣人族がいきなり喋りだしたので、ついつい突っ込んでしまう。

「当たり前だ! プレイヤーだからな!」
「はぁ?」

 驚愕の事実を知ってしまったので、目を丸くする。後ろにいたプレイヤーも全員僕と同じような表情をしている。

「どっからどう見てもモンスターじゃん!」
「ガッハッハ! よく言われるわ! だが俺はプレイヤーだ! ライオンが好きだからこの格好のアバター装備を着てるだけだ! かっこいいだろ!」

 ライオンのアバター装備を着たプレイヤーが胸を張ってそんなことを言ってくるので、僕は冷たい視線を向けて言った。

「いいえ、全然かっこよくないです」
「なんだと! このアバターのかっこよさが分からないやつは死ねぇ!」

 ライオンのアバター装備を着たプレイヤーは激しい怒りのこもった大声を出しながら、僕に大剣を振り下ろしてきた。

「帯電‼」

 僕はこのスキルを発動して、攻撃を避けずにわざと受けた。

「か、体が動かないだと!」

 僕に触れてしまったライオンのアバター装備を着たプレイヤーは麻痺状態になった。僕はにやりと笑いながら、ライオンのアバター装備を着たプレイヤーから情報を聞き出す作業に入る。
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