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第三十話 デート

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 ゲームからログアウトして、自室のベッドの上で目を開け、体をゆっくりと起こした。ゲームをログアウトした後、大抵は伸びを行うのだが今日は隣に玲奈がいるので止める。僕が体を起こしたのと同時に玲奈も起き上がる。

「よっ! 玲奈!」

 僕は明るく弾んだ声で、玲奈に挨拶をする。

「こんばんは! 悠斗!」

 玲奈も僕と同じような明るさで返事を返してくれる。四時を回っているのに二人とも不思議なくらい眠気を感じていない。

「明日なんだけど、ゲームから離れてどっか行かないか?」
「いいわよ!」
「そうか! どこ行きたい?」
「どこでもいいわよ! 悠斗が考えて!」
「わ、分かった」

 僕は必死で頭を回転させ、プランを考える。親に言えばお金をくれたりするとは思うが、出来る限り迷惑をかけたくないので高校生で行ける範囲の場所にすることにした。

「よし! 名古屋港水族館に行こう!」

 しばらく考えて出した答えがこれだった。玲奈は名古屋出身なので、オッケーを出してくれるか少し心配だ。

「いいわよ!」

 玲奈がオッケーを出してくれたので、体中がほぐれるように安心する。水族館に行った後はカラオケにでも行こうかと頭の中で考えている。
 明日のデータプランが決まったので、今日は寝ることになったのだが、自室で女の子と二人、何も無いはずがない。僕と玲奈は見つめ合った後、熱いキスを行う。

「行くぞ」
「……うん……優しくしてね……」

 僕と玲奈は大人の階段を登ったのだった。

***

 次の日の午前九時に僕は目を覚ました。石臼のように体が重い。玲奈も僕が起きたのと同時に目を覚ます。玲奈は僕よりも疲労している様子だ。それはそうだろう昨日、大人の階段を登ってしまったのだから……。

「おはよう! 玲奈!」
「おはよう! 悠斗!」

 僕は玲奈と挨拶を交わす。

「朝ご飯食べ行こうか」
「そうね」

 僕と玲奈は両親がいるリビングに向かって、階段を降りて行った。

「おはよう! 悠斗! 玲奈さん!」

 お母さんが顔に喜色を浮かべている。お母さんはキッチンで朝食を作っている最中だった。お父さんは仕事に出かけているようだ。

「手伝いましょうか?」

 玲奈は機転を利かせて、お母さんにそんな提案をしていた。

「大丈夫よ! 悠斗と一緒に座って待ってて!」
「分かりました」

 玲奈は僕の隣に着席する。しばらく玲奈と話をしていると朝食がテーブルの上に並べられる。

「いただきます!」

 僕と玲奈は挨拶をして食事を始めた。お母さんはとっくに食べたみたいだ。
 お母さんは僕と玲奈の食事をしている姿をニコニコしながら見ていた。

「どうしたの?」
「いい夫婦になりそうだなと思って」
「急かすのやめて!」

 僕は恥ずかしくて真っ赤になってしまった。玲奈も恥ずかしそうに顔を赤らめている。

「ふふふ! 同じ顔しちゃって! 可愛い! どこまで行ったの?」
「それは内緒です……」
「勿体ぶらないで言っちゃいなよ!」
「絶対、嫌!」

 お母さんはズカズカと僕と玲奈のプライベートの話に踏み込んでくる。
 この後もお母さんの容赦ない攻めが続き、僕と玲奈はデートに行く前に精神的にも体力的にも疲れてしまった。
 朝食を終えた僕と玲奈は今日、出かけることをお母さんに話し、家を出て行くことになった。いいと言ったのだがお母さんは二万円を僕に渡してくれた。

「楽しんでらっしゃい!」
「おう!」

 お母さんはにっこりしながら僕たちを送り出してくれた。
 僕と玲奈は電車を使って、名古屋港水族館に向かった。名古屋港水族館に着き、入場料を払った後、水族館の中へと入って行った。
 最初のイベント、マイワシのトルネードが始まるまで一時間ほど余裕があるので、魚の写真や自撮りをしながら水槽を回る。

「何回も来たことあるけど、いつ見ても飽きないわね!」
「そうだな!」

 魚が元気に泳いでいる水槽を眺めながら、会話をする。この水族館には小さい頃によく来た記憶がある。このゆったりとした雰囲気が昔から好きだった。
 しばらく水槽を回って、マイワシのトルネードの時間が近づいてきたので、三万五千匹のマイワシがいる黒潮大水槽に急いで向かう。

「人多いわね!」
「ごめん! もう少し早く来ればよかった!」

 イベントの間、ずっと立たせるのは悪いと思っていたので玲奈に謝罪する。

「気にしてないからいいわよ! それにあそこに二つ席が空いてるから!」

 玲奈がそう言うので、指差す方向に顔を向けると二つ席が空いていた。

「座りましょ!」
「わ、分かった」

 玲奈に引っ張られながら僕は空いている席に座る。席に座ってすぐにイベントが始まった。

「これは凄いわね!」

 マイワシが黒潮大水槽の中で竜巻を作り、まるで踊っているように泳いでいる。玲奈はこの光景を見て感慨に打たれているようだ。

「まるでゲーム世界のツキナのザウルファイアみたいだな!」
「似てるかしら?」
「僕は似てると思う!」
「そうね! ならそういうことにしときましょ!」
「そういうことにしといてくれ!」

 僕と玲奈の間には和やかな雰囲気が漂う。そんな話をしながら五分が経ち、イベントが終了した。面白かったのか時間経過がすごく早く感じられる。
 
「次のイベントまでまだ時間があるから、昼食を取った後、南館の水槽を回ろう!」
「そうしましょ!」

 僕と玲奈はフードコートに行き、食事を取った後、南館の水槽を回り始めた。そしてイルカパーフォマンスの見物やシャチの公開トレーニングの見物など全てのイベントを制覇して水族館から退館した。

「楽しかった!」
 
 僕は率直な感想を述べる。高校生になってもまた行ってみたいと思ってしまうほど楽しめるとは……。
 玲奈も十分に楽しめたみたいで、満足そうに顔をほころばせていた。

「またここに来ましょ!」
「そうだな!」
 
 僕と玲奈は再びこの場所を訪れることを約束して、昨日計画していたカラオケを行うために名駅の近くにあるジョイジョイに向かった。カラオケを行う時間は五時間を予定している。
 僕と玲奈は受付で、お金を支払い指定された部屋に向かっていく。それに水族館の時や今回のカラオケでの支払いは全て僕が行っている。

「玲奈! 最初は譲るよ!」
「分かったわ! 全力で歌うわね!」
「よっ! 待ってました!」
 
 僕は拍手をして、玲奈が歌い始めるのを待った。そして前奏が終わり玲奈の歌声が部屋中に響き渡る。
 曲が終了して採点の結果が出る。玲奈は九十八点という高得点を取った。玲奈の歌声は聴いててとても心地が良く、僕はますます玲奈のことが好きになっていた。
 カラオケの五時間が終了して、僕と玲奈は東山スカイタワーのレストランで夕食を食べることになり、そこに電車で向かう。レストランはガラス張りになっており、そこから見える夜景が絶景だった。
 全てのデートプランが終了して、それぞれの家に帰宅することになった。

「今日は本当にありがとう! とても楽しかったわ!」

 玲奈はあふれんばかりの笑みを僕に向けてくれた。(この顔、本当に可愛い!)僕は玲奈の笑顔に胸を貫かれてしまった。この笑顔は当分、忘れることができないだろう。
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