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第三十一話 第一回イベント開始と賭け事

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 デートをしてから六日が経ち、イベントの日がやってきた。
 今回のイベントに参加するのは僕とツキナとトモの三人だ。リリとアサガオはモニターがある大きな広場で観戦をしてくれるみたいだ。
 初めて行われるイベントだけあって、大勢のプレイヤーが参加するみたいだ。おそらく三千人以上いる。イベントに参加するプレイヤーたちは噴水広場に集まっている。

「人多いわね! 予想はしてたけど!」
「初めてのイベントだからな!」

 僕はツキナと会話をしているとテンション高めなトモが話しかけてくる。

「イベント中、鉢合わせたら全力勝負な!」
「おう!」
「もちろんよ!」

 もちろん、イベント中に鉢合わせたらツキナであっても手加減するつもりはない。
 三日前のメールでイベントの詳細は伝わっている。このイベントはバトルロワイヤル形式で、より多くのポイントを取ったものが優勝するという簡単なルールだ。
 一人のプレイヤーを倒すと一ポイント入る仕組みになっており、一回死んだプレイヤーは戦闘には復帰はできず、リリとアサガオがいる観戦ルームに送られるらしい。
 ポイントを多く持っているプレイヤーを倒すとそのプレイヤーが持っている分のポイントを全てゲットできる仕様もあるので最後はきっと潰し合いになる。
 イベントの優勝者には幻獣、九尾の狐がプレゼントされる。
 幻獣はステータスが全体的に高く設定されており、プレイヤーのステータスを飛躍的に上昇させる特殊スキルも備わっているらしい。そのため稀にしかお目にかかれない。
 そんな幻獣が報酬になっているので、多くのプレイヤーが参加したのだろう。一位になれなくても三位以内なら何かしらの報酬はあるらしい。

「皆様! イベントにご参加ありがとうございます!」

 十メートル上空から女性の声が聞こえてきた。プレイヤーたちは一斉に上空の女性を見上げた。上空にはゲームの初期設定を行うときに担当してくれたメイド服の女性がいた。久しぶりに見た気がする。

「これからイベントを始めます! 十秒後にここにいるプレイヤーの皆様は専用ステージに転送されます! 一位を目指して頑張ってください!」

 女性はそれだけ告げ消えていき、女性がさっきまで居た場所に大きくカウントが表示される。

「よっしゃぁぁぁ! 頑張るぞ!」

 周りのプレイヤーが気合いを入れた声をあげる。僕はイベントが開始するまで集中力を高める。
 カウントの数字が一つずつ減って行き、ゼロになった。噴水広場にいるプレイヤーたちは一斉に光に包まれ、専用ステージに転送された。

***

 僕たちが専用ステージに転送されたのと同刻、モニターがある広場でリリとアサガオはイベントを観戦していた。観戦だけを楽しむプレイヤーも大勢いる。このモニターは戦闘シーンだけを映し出すものなので、見ていても全然飽きないのだ。

「あっ! あそこにお兄ちゃんがいるよ!」

 リリにおんぶされているアサガオがモニターを指差しながら言葉を発した。アサガオはなんだか嬉しそうだ。
 
「本当だね! あいかわらず奇襲が上手いこと……」

 トモが不意をついて、六百メートル以上離れた位置から他のプレイヤーを迅速に倒している姿を見て、感心してしまう。
 本音をストレートに言ってくるので、むかつく時もあるのだが、こういうところはやっぱりかっこいい。
 ヒビトたちが転送されたフィールドは縦と横の長さが十キロメートル以上あり、森や砂漠。それから街など色々な場所が存在している。まるで隔離された二つ目の世界だ。

「お姉ちゃん! やっぱりお兄ちゃん、凄いね!」
「そうだね!」

 アサガオは目を輝かせている。リリはアサガオの表情を見て、ぎゅっと抱きしめたいくらいあどけなさを感じ、反射的に微笑んでしまう。
 アサガオと会ってから三日くらい積極的に交流を続けた結果、トモと同じような扱いになったのだ。ヒビトとツキナにアサガオはまだ敬語で接している。

斧使いの男性
「ねぇ、ねぇ! 知ってたか? 今回のイベントに《強者の集い》の中から三人がこのイベントに参加してるみたいだぜ!」

弓使いの女性
「知ってる、知ってる! 誰が一番強いと思う?」

片手剣使いの男性
「それはもちろん! ツキナさんでしょ!」

両手剣使いの男性
「同じく! ツキナさんに一票!」

杖使いの女性
「私はヒビトくんだと思うよ!」

槍使いの女性
「私はトモくんに一票!」

 周囲のプレイヤーたちがリリたちのパーティーの話で盛り上がり上がっていた。一角鯨討伐戦が終わった後、なぜか分からないがパーティーに《強者の集い》と言う名前がついていていた。さらに名前も知られてしまってるようだ。

短剣使いの男性
「誰が優勝するか賭けようぜ!」

斧使いの女性
「賛成! 私は《龍帝》のリュウガに賭けるわね!」

杖使いの男性
「俺はツキナちゃんに賭ける!」

槍使いの男性
「《龍帝》と言ったらリュウキでしょ!」

片手剣使いの女性
「私は《戦国兄弟》のムサシで!」

弓使いの男性
「なら僕は《戦国兄弟》のコジロウ!」

杖使いの女性
「私はヒビトくんに賭けるわ!」

槍使いの女性
「私はトモくん!」

 挙がった名前はどれもトップランカーばかりだ。ヒビトとトモの名前が挙がるのは意外だった。しかしヒビトとトモに賭けているプレイヤーは全員女性だ。

「ほんと、あの二人は顔が良すぎるんだから……」

 リリは少しやきもちを妬いてしまう。表情の変化を感じ取ったのかアサガオが心配そうな顔でリリに話しかけてくれた。

「お姉ちゃん! どうしたの?」
「な、何でもないよ……心配かけちゃったね……ごめんね……」
「ならいいの!」

 アサガオに心配されてしまうなんて、何をやっているんだか……。
 リリは気持ちを落ち着かせてアサガオと一緒に再びモニターを見る。

短剣使いの男性
「よし! みんな決まったな! どれくらい賭けるか決めようぜ!」

槍使いの男性
「いいぜ! 予想が当たった人にゴールドを分配する形式でいいよな?」

斧使いの女性
「いいわよ!」

槍使いの女性
「賛成!」

杖使いの男性
「俺も二言なし!」

 三十人のプレイヤーたちは賭け金を短剣使いの男性に預けて、モニターの方に視線を向けた。短剣使いの男性がネコババするとは誰も思っていないようだ。どれだけ信頼されているのだろうか……。
 三十人のプレイヤー以外にも色々な場所で賭け事が行われている。ついには優勝候補のプレイヤーをピックアップして、予想を行う予想屋のプレイヤーも現れた。この観戦ルームはちょっとしたお祭り騒ぎになっている。第一回目のイベントなので、みんな楽しみにしていたのだろう。
 リリは賭け事があまり好きではないので、参加はしない。それにリリとアサガオが《強者の集い》のメンバーだと分かるとヒビトとトモを押している女性プレイヤーに何か言われるに違いない。リリは出来るだけ目立たないようにモニターを見ている。
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