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第三十四話 暴れる雷龍と観戦ルームに帰還

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 トモは高台から丈夫そうな黄色の鎧を全身に身につけ、黄色の槍を振り回している男性が視界に入ったので弓を射る。  
 男性プレイヤーは圧倒的な強さで他のプレイヤーをボコボコにしていた。そのためポイントをたくさん持っているのではないかと思った。だが不意打ちは成功せず矢が斬られてしまった。

「くそ!」

 トモの顔に悔恨の色が現れる。トモは場所を察知されないように頭を下げて身を隠す。

「雷龍奥義! 建御雷神《タケミカヅチ》!」

 しばらく身を隠していると男性プレイヤーの声が聞こえてきた。

「嘘だろ! 完全に気配を消してるはずなのに!」

 トモは不安にさいなまれながら高台から顔を出してみた。すると男性プレイヤーが体を回転させながらこちらの飛んで来ている光景が目に入った。そして男性プレイヤーを覆うように雷龍が出現している。

「なんで雷龍がいるんだよ!」

 トモの心臓が驚きで激しく動悸する。トモは階段を駆け下りて高台から離れる決断をした。
 男性プレイヤーが高台ごとトモを倒そうとしていると思ったからだ。

「やばい、やばい、やばい!」

 トモは全力疾走で階段を駆け下りていく。こんなに全力で走ったのは何年ぶりだろう……。
 トモが高台から出たのと同時に雷龍が高台に激突する。高台はけたたましい破裂音をたてながら崩れていく。

「ちっ! やり損ねたか!」

 男性プレイヤーは吐き捨てるように言葉を発する。トモは(なんだ! この戦闘狂のプレイヤーは!)と心の中で文句を言う。

「お前だな! この俺様を不意打ちしようとしたのは!」
「そうだけど! 何が悪い!」
「悪くないさ! むしろ褒めてやるよ!」

 トモは男性プレイヤーの言動を見て、(偉そうな奴だな!)と不快感を覚える。

「てめーも運が悪かったな! この《龍帝》のリュウキ様に当たるなんてよぉ!」

 リュウキは自信ありげに言ってくる。リュウガとは正反対の性格だ。どうやってまとめてるのだろうか……。

「簡単には負けない!」

 トモはリュウキの戦闘を見た時、敵わないと思ったので勝つことは一斉、考えずに楽しむことを選んだ。

「いいね! いいね! てめーはやっぱりおもしれぇ!」
「喜んでもらえてないよりだ!」
「行くぜ! 雷突《らいとつ》!」

 リュウキは信じられないくらいのスピードでトモに突き攻撃をしてくる。
 トモは突き攻撃を左に回避するが、避けきれずに腰の辺りが擦れる。

「くっ……!」

 擦れただけで、トモのHP0.5割も減少する。まともに受けていたらどれだけ減ってしまうのだろうか……。

「ほ、ほう! 俺様の雷龍モードの攻撃を避けるとはな! てめー最高だぜ!」
「そりゃどうも!」

 あまり嬉しくないのだが、リュウキに気に入られてしまったみたいだ。トモは一応、感謝の言葉を返す。
 遠距離攻撃を使うトモは近距離戦闘が得意ではないので、出来る限り距離を取りたい。そのためトモは建物に隠れながら攻撃する戦法をとるためにリュウキから逃げる。

「おい! てめー待てよ!」
「断る!」

 トモはそう言い残して、近くにあった建物の中に入る。

「無駄、無駄! はっきり見えるぜ! 雷突!」

 リュウキはトモが入った建物を破壊した。トモはそれを予想していたので、建物が壊れる前に向かいの建物の壁を駆け上がり空中に飛んでいた。

「待ってたぜ! リュウキ!」

 トモは微笑を口角に浮かべ、弓を構えて狙いを定める。

「貫通矢《ピュアスアローウ》高速十連射!」

 狩人シリーズの【高速連射】スキルを解放するために一角鯨の討伐を終えてからずっと寝る間を惜しんで、一人でダンジョンに潜り一万匹以上のモンスターを倒した。(あの時はキツかったな!)トモはそんなことを思い出していた。

「てめー! やりやがったなぁ!」

 リュウキは動きを止めて、矢を斬り落としていく。
 高速で矢を打ち出したので、いくら速くても全ては斬り落とさなかったようだ。この事から【雷龍モード】も無敵ではないことが分かった。十本のうち、三本の矢がリュウキに擦り傷を負わせた。
 トモはリュウキが矢を斬り落としている間に次の建物の中に入っていく。
 この方法でリュウキをずっと攻撃していたので、街が半壊してしまっている。(どれだけ壊すんだこいつは!)トモはこの光景を見て呆れるほかなかった。

「ちょまかと、ちょこまかと! めんどくせぇ!」

 リュウキは憤懣《ふんまん》をぶつけていた。リュウキは槍を回転させ始め、雷を集め出した。トモは不安で落ち着かない気分を掻き立てられていた。

「放雷!」

 リュウキの背後に雷龍が出現し、口を開けると槍から雷のブレスが発射された。

「おい、おい、おい! ありえないだろ!」

 トモは慌てふためく。
 リュウキは街の建物ごとトモを消し飛ばそうと考えたみたいで、体を回転させながら建物を壊していく。
 トモは反射的にジャンプしてブレスを避けるが、これがリュウキの罠だと気付かなかった。

「雷龍奥義! 建御雷神《タケミカヅチ》!」

 黒い噴煙の中から、リュウキが体を回転させながら突撃してきた。ジャンプしているトモには回避することは不可能だった。
 
「楽しかったぜぇ! 最後に名前を聞いてやる!」
「トモだ! 次はお前を倒す!」
「そうか、そうか! 楽しみに待ってるぜぇ!」

 トモはリュウキと笑い合った後、槍の攻撃をまともに受けた。トモは十メートル以上吹っ飛ばされ、消滅した。

***
 
 戦いに敗れたトモはリリとアサガオがいる観戦ルームに送られていた。観戦ルームに送られてすぐにリリとアサガオを探した。
 しばらくキョロキョロしているとリリの姿を発見することができた。リリは目立たないようにモニターを凝視している様子だ。トモはすぐにリリの元に向かい、背後から両肩を叩こうとした。

「あっ! お兄ちゃんだ!」

 リリを驚かしてやろうと思っていたのにアサガオにばれてしまった。

「トモ! お帰り!」
「ただいま! やられた、やられた! 《龍帝》のリュウキ、強かった!」

 トモは明るく弾んだ声で答える。少しは悔しいと思っていたがこうなるのは分かっていたので気持ちを切り替えていた。

「しょうがないよ! トップギルドの幹部さんだから!」
「そうなのか?」
「そうよ! あれだけダメージを与えたことが凄い!」

 リュウキは《龍帝》の幹部プレイヤーだったらしい。一角鯨討伐戦の時にリュウガの強さを目の当たりにしているので納得だ。

「俺! やっぱり凄いな!」
「凄い、凄い!」

 トモの言葉にアサガオがはつらつとしたこえでとした声で答えてくれた。この笑顔もすごく可愛い。

「自分で言ったらおしまいだね!」

 トモとリリ、アサガオの間に和やかな雰囲気が漂う。大きい声で喋っていたので、周囲のプレイヤーから視線が集まってしまった。

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