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第四十五話 風の間と空中レース

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 階段を登り終えると心地の良い風が吹いていた。時々、突風が吹き抜ける。

「今回は風属性のモンスターが出てきそうだな!」
「そうだな! 早速、攻略しようと言いたいところだけどその前にさっき手に入れた水没スキルがどういうものか確認しようぜ!」
「オッケー!」

 今回は僕がリンクメニューを操作する。トモは僕のリンクメニューを覗き込む。

【水没、半径三メートル以内にいるモンスターやプレイヤーを水没させる。一日一回のみ使用可能。 獲得条件、クラーケンをノーダメージで倒す】

「ダメージ受けてないっけ?」
「変なこと言うなよ! 全て水属性の攻撃だったからダメージ受けてないぞ!」
「そうだっけ? ごめん、ごめん」

 僕は集中し過ぎていて、ダメージを受けたかどうかも確認できていなかったようだ。

 よく考えてみれば回避を一回もしていない気がする……。

「今回も採掘対決するのか?」
「もちろんだ!」
「ですよねぇ~」
「早速やろーぜ!」
「はい、はい。分かったよ」

 僕とトモは第四回採掘対決を始める。今回も【風無効】のスキルを手に入れつつ、採掘を進める。今回の結果は僅差で僕が勝利した。

「いぇーい! 今回は僕の勝ちだ!」
「くそぉーっ! あと少しで勝てたのに!」

 僕がドヤ顔で言うとトモは本当に悔しそうな表情をしていた。そこにお手玉をしたモンスターが現れる。

「あいつで気晴らしだ!」

 トモはそう言うとお手玉をしているモンスターに走って近づいていく。

「出てくるタイミング良すぎるでしょ!」

 誰も聞いている人はいないので、独り言になってしまった。数分後、トモは嬉しそうな顔をしていた。おそらくは無事にスキルを手に入れることができたのだろう。

「お手玉の風バージョンを手に入れたみたいだな!」
「おう! あと三属性で主属性は制覇だ!」
「おめでとう! 頑張れ!」
「言われなくても!」

 トモの口調からやる気を感じた。楽しそうでなによりだ。僕とトモが出てくるモンスターを倒しながら歩いているとカラス人間のようなモンスターがぽつんと立っていた。近づいたら何かのイベントが始まると思われる。

「また何か変な勝負をさせられそうだ……」
「きっとそうだな。避けてくか?」

 トモは面倒くさそうな表情をしていた僕に気を使ってくれたようだ。道が二つに分かれているので避けることも可能なのだ。

「気を使わせてごめん! 勝負をやろう!」

 楽しく攻略をしているのにともに気を使わせてしまったことに対して申し訳なく思った。それにこのダンジョンの製作者の性格を考えると勝負に参加した方が良い。そう思った理由はボス戦の時に役立つアイテムが手に入ることを一つ前の階層で学んだからだ。

「オッケー! それじゃあ、行くぞ!」
「おう!」

 僕とトモはカラス人間がいる道を選択して進んでいく。近づいてみると、カラス人間は翼を広げて飛翔する。そして上空で旋回を始めた。

「今回は空中レースかな?」

 僕は上空に顔を向け、うっとりと呟く。

 空を飛ぶスキルは手に入れていないので、今回は諦めるしかないか……。

 僕は額に軽く手を当てて小さいため息をつく。

「ここは俺に任せろ!」

 トモは自信を漲らせた顔で言ってくる。

「どうするの? まさかあれを……」
「そのまさかだよ!」

 トモは幻獣のみが使える特殊スキルを使用しようとしているようだ。
 幻獣の特殊スキルはお互いに信頼し合っていることが絶対条件になっており、信頼し合っているかどうかは確認する方法が現時点ではない。それに信頼し合っていないと大きな隙ができるというデメリットもある。

「分かったよ。トモが特殊スキルを発動している間、背後を守ってやる!」
「頼む! 多分時間はかからないと思うが……!」
「その自信はどっから出てくるんだ!」
「勘だ!」
「勘ですか……」

 トモの自信に不安を抱きながら僕は背後を守備する。上空で旋回しているカラス人間は攻撃してくる気配がない。

「いくぞ! クウガ!」
「グリフィィ!」

 トモとクウガのやる気は十分なようだ。

「ブレンディング‼︎」

 トモが叫ぶと目に沁みるほどの強烈な光が発生する。背後にいても眩しく感じる。
 僕は手をかざしながらどれくらいの時間で特殊スキルを発動できるのかを数える。
 数え始めてから二秒が経ち、次第に光がおさまっていく。そして中から出てきたのは背中にクウガの羽をはやし、ナチュラルブラウン色の髪が緑色に変化しており、髪が立っているトモだった。さらに両腕には鋭い刃が付いていた。
 クウガの姿はどこにもないので、成功したのだろう。幻獣のみが使える特殊スキルは融合能力で融合したプレイヤーの能力を飛躍的に引き上げることができるのだ。それに幻獣によって武器も違うらしい。

「トモ、かっこいい!」
「ありがとう! すげぇ、力が漲ってくる! ささっと終わらせて来るわ!」
「いってらっしゃい!」
「行ってくる!」

 トモはそう言うとものすごい勢いで上空に飛んで行った。

***

 トモはカラス人間と同じ高さまで上昇した。ゲーム世界で空を自由に飛び回れるなんて夢みたいだ。これも全てクウガのおかげなので、後で豪華な食事でも与えよう。

「カラス人間さん! いつでもいいぜ!」

 反応は返ってこないと思うが気合を入れるために宣言する。
 カラス人間はトモの方を一回向くと横に並ぶ。トモとカラス人間が横に並ぶと目の前にカウントが表示された。三、二、一と数が減っていく。
 そしてカウントが零になったので、同時にスタートを切る。体感感覚でしかないが、時速百キロくらいで飛んでいる。そんなスピードで飛んでいるのにもかかわらずカラス人間と差が全く開かない。今はトモが少しだけリードしている。

「カラス人間、早いな! もっとスピード上げないと」

 トモは急降下を行い時速三百五十キロまでスピードを上げ正面を向く。クウガがもっとスピードを上げれると意思疎通で教えてくれたので、加速したのだ。これがトップスピードだ。
 このスピードにはさすがのカラス人間もついて来れなかったみたいでトモの圧勝で空中レースは幕を閉じた。

【空門の鍵を手に入れました‼︎】

 トモはヒビトの元に戻っていく。

***

 僕の目の前に着地するとトモはすぐに融合を解除した。クウガは定位置に戻っている。

「お疲れ! トモ!」
「おう! めっちゃ、楽しかったわ!」

 トモは疲れている様子はなく、満足そうに顏をほころばせていた。

「それは良かったな!」
「マジで最高! 癖になりそうだ!」
「程々にな! クウガも疲れるだろうから」
「分かってる、分かってる」
 
 トモの軽い返事に本当に分かっているのか心配になってしまう。融合は幻獣の方が多くMPを消費するので、乱用はできないのだ。使えるのは一日二回くらいだと思う。幻獣によっては一回の可能性もある。

「ボス戦の時に役立つアイテムも手に入れたし、進もう!」
「いいよ!」

 僕とトモはボス部屋を目指して奥へと進んでいく。
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