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第五十話 毛むくじゃらなボス

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 スノーボード対決から二十分が経ち、僕とトモはようやくボス部屋の前に着いた。戦って体を温めてきたのに寒さを感じる。

「急に冷えたなぁ~!」
「本当にな! どんなボスが出てくるんだろう」

 トモは弾んだ気持ちになっているようだ。僕の予想では雪山があったことから雪男が出てくるのではないかと思っている。僕とトモは触っただけで、手が凍ってしまいそうな水色の扉を開けて中に入っていく。
 中に入っていくと雪が吹雪いており、視界が非常に悪かった。見にくい中で見えたボスの姿は全身が暖かそうな白い毛でおおわれており、ゴリラのような見た目をしていた。
 
「グォォォォォォォ!」

 ボスモンスターが叫び声をあげると吹雪いてた雪が吸収され、名前が表示された。名前は僕の予想通りで雪男だった。HPは五万と表示されていた。今まで戦ってきたどのボスモンスターよりもHPが少ない。

「直ぐに終わらせよう! トモ!」
「おう!」
 
 僕の言葉にトモはにっこりと笑いながら答える。トモも僕と同じで雪男のHPが他のボスモンスターより低いことに気づいたらしく、余裕で倒せるのではないかと思っているのだろう。
 攻撃するためには接近をしないといけないので、僕は雪男の元へ走る。雪男は僕の接近に気づいたらしく、どしどしと音を立てながら向かってくる。足音うるさい……。
 雪男が右手を握り、拳を振り落としてきたので僕はそれを星斗天雷刃で受ける。剣と拳がぶつかったことで『ギィ~ン!』という鈍い音が響く。STRを多めに振っているので耐えれるとは思ったのだが、雪男の方が高かったみたいで押しつぶされそうになる。

「……くうぅぅっ! なんて重い攻撃なんだ……」

 僕は恐ろしく真剣な表情になってしまう。少しでも気を向くと一瞬で押しつぶされてしまいそうだったからだ。しばらく雪男の拳を押し返せずにいるとトモが自分に攻撃の矛先を向けるために攻撃する。

「ファイヤーアローウ!」

 矢は雪男の頭に命中した。貫通効果はついていなかったみたいなので、矢は刺さらずに弾かれたがトモの目論見通りに雪男の攻撃の矛先はトモに移った。

「少しだけ休憩しよ……」

 僕は静かに呟く。あまり持たないとは思うので、すぐに戦闘に復帰しようと思っている。雪男はトモを目掛けて走っていき、ドロップキックを行った。

「ドロップキックだとぉぉぉ!」

 僕は驚きで目を見張る。雪男の見た目を見る限り、あんな巨体で俊敏に動けることが不思議なのだ。それに重そうな体を持ち上げるなんて想像もできなかった。トモは攻撃をしっかりと見切り回避していた。
 想像以上に俊敏に動けるので、すぐに戦闘に加わろうとするが、雪男は(こっちに来るな!)と言わんばかりに地面から巨大な雪玉を出現させて投げつけてくる。

「兜割!」
 
 心の中で(厄介な奴だな!)と文句を言って雪弾を真っ二つにする。そして後ろにいた雪男にも攻撃が当たった。

「グォォォォ!」

 雪男は悲痛の叫びをあげる。今の一撃でHPが三割ほど減る。防御力を無視して攻撃ができるのでこれくらいHPを減らすことができた。他のプレイヤーならもっと時間がかかるのだろう。三割もHPを減らされた雪男の形態が変化する。全身を氷の鎧で纏わせ手には氷の棍棒が出現した。

「このボスやっぱり、面倒くせぇぇぇ!」
「まぁ、そう言うなよ。ヒビト! 歯ごたえがあっていいじゃないか」

 いつの間にか僕に後ろに来ていたトモがそんなことを言ってくる。

「楽しそうだな」
「当たり前だ! 楽しまないでどうする」
「それもそうか! 楽しんでいこう!」

 僕はそう言うと戦闘に集中した。雪男は棍棒を頭の上で回転させ地面にたたきつけた。棍棒をたたきつけると地面から氷の針が出現し斬撃のようにまっすぐこちらに向かってくる。僕とトモは両サイドに跳び除いた。

「ファイヤーアローウ! 高速四連射!」

 トモは空中に飛んだまま弓を構えて矢を放つ。(空中に飛んだ状態で撃つなんて、見せてくれるぜ!)胸の中で呟きながら着地してすぐに接近する。
 トモが放った矢は見事に雪男の肩に命中する。威力が強すぎたのか、肩の氷が剥がれ落ちる。雪男は少しだけ怯んだように見えた。雪男に十分に接近した僕は隙を逃さないために追撃を仕掛ける。

「ファイヤーエンチャント! 雪・月・花!」

 僕は炎を呼び起こし、最高威力のスキルをぶつける。【ファイヤーエンチャント】スキルは第一回イベント前に潜った際に炎属性しか出てこないダンジョンで鬼火を狩りまくった結果、手に入れることができたものだ。この一撃で雪男の氷の鎧はすべて破壊され、HPを残り三割のところまで減らすことができた。
 丸腰になった雪男は体を丸めながらボールのように僕とトモに突っ込んでくる。雪男が地面に接触した時には氷が僕とトモに刃を向ける。雪男の攻撃には規則性はなかったもののしっかりと見れば避けれた。地面に接触してから空中に浮くまでの間に少しだけ攻撃チャンスがあったのでそこを的確に突いてき、HPを残り二割まで減らすことができた。

「やっとここまでHPを減らせた……」

 僕は呼吸を整えながら呟く。かなり動き回ったので、剣道の試合をやっているときのような疲労感を感じている。弱いと思っていたが雪男のHPをここまで減らすのにどのボスモンスターよりも時間がかかっている気がする。

「予想以上に手ごわい!」

 トモも僕みたいに疲労の色が顔に現れている様子だ。

 早々に終わらせないと……

 雪男の攻撃がやんだので少しだけ距離を取って休憩していると顔を少し赤くした雪男が手にかろうじて残っていた棍棒を捨て、足を上げ始めた。武器を捨てた時点で感づいていたがおそらく大技が来る。トモも分かっているみたいで僕に後ろに移動した。僕はすぐに氷門の鍵を手に持ちタイミングをうかがう。

「氷門の鍵よ! 頼んだ!」

 雪男が足を地面につけたタイミングで、鍵を開ける動作を行う。雪男が地面に足をつけると部屋全体の地面から氷の針が出現する。(回避不可能の技とか製作者は意地が悪いな!)と思った。僕とトモには氷門の鍵があるので大丈夫だとは思うが……。今回の氷門の鍵の効果はカウンター効果だったらしく、地面から出現した氷の針が砕け雨のごとく雪男を襲った。雪男のHPは一割を下回り零になった。

【氷山を獲得しました‼】 

「この鍵、すげぇぇ!」
「予想外の展開だったな」

 雪男の方を思わず二度見してしまう。トモも同じ感想を抱いている様子だ。鍵の能力を使ってボスを倒せるなんて誰も予想をすることができないだろう。

 何はともあれ体力が尽きる前に勝ててよかった……。

 僕とトモは休憩を眺めにとって次の階層に進むと決め、その場で腰を下ろししゃべり始めた。フウラとクウガも星形の宝石から姿を現し地面に座る。
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