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第五十八話 第三ウェーブと第四ウェーブ

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 ツキナの身長の倍まで成長した三体のモンスターは植物特有のしなやかな腕を振り回しながら攻撃してくる。

「シールド!」

 ツキナはアサガオとリリを包み込むようにシールドを張る。三体同時に攻撃してきたので範囲が広く、回避不可能と判断したのだ。
 攻撃力が強いからなのか、一発当たるたびに少しずつ後退していく。

「何て威力なの!」

 ツキナは押される中、顔を歪めてしまう。このままではシールドが壊されてしまうかもしれない。

「ツキリン! 攻撃は任せて!」
「ツキナさん! 任せてください!」

 リリとアサガオの頼もしい言葉が聞こえてきた。

「任せるわね!」

 ツキナは守りに集中しているので、攻撃をする余裕は全く無いのだ。そればっかりはリリのアサガオに任せるしかない。

「起爆クナイ‼︎」

 アサガオは三本のクナイをモンスターの胴体に投擲する。突き刺さったクナイは大爆発を起こし、モンスター達を後退させた。

「吹っ飛べー!」

 リリは両手にはめた大砲のようなものから風の球を発生させ、モンスター達をさらに後退させた。【空気砲】とでも言っておこうか。
 ダメージは入っている様子はないがノックバック効果があるようで、十メートルくらい後退させた。あれもヒビトとトモがダンジョンから取ってきたもので作ったのだろう。
 モンスターが後退したことで、攻撃が止んだ。ツキナはすぐにシールドを解除して追撃を仕掛ける。

「水の舞! スクリュー!」

 ツキナの後ろに三本の水の柱が出現し、まるで生きているかのように水が渦を描きながらモンスターに突撃していく。この攻撃でモンスター達のHPは二割近く減る。
 水属性やられ効果として防御力低下がついているので、これだけのダメージを与えることができたのだろう。

「ツキナのスキルはあいかわらず、高威力ね!」

 リリはモンスターのHPの減少具合を見てそんなことを言ってくる。

「そう? これでもヒビトには勝てないけど……」
「ヒビトは別格だからしょうがないよ」
「それでもこの中で一番火力がでるのがツキナさんなので頼りにしています!」
「ありがとう!」

 そんな話をしているとダウンから立ち直ったモンスター達が起き上がって、こちらに向かってくる。
 
「畳み掛けるわよ!」
「おー!」

 リリとアサガオは声を合わせて、掛け声を出した後にモンスター達に接近する。
 モンスターは頭の花から麻痺粉や毒粉を発生させて、攻撃してくる。それをリリとアサガオはしっかりと回避した後、攻撃する。

「分身! 風撃!」

 アサガオは十人の分身と同時に右手に持っている短剣を水平に振り、モンスター達を同時に斬って通り過ぎて止まる。通り過ぎて、すぐに風がモンスター達に追撃をする。

「そーれっ!」

 リリは第一ウェーブの時に使った【拡散爆弾】を再び使う。一つの爆弾から複数の爆弾が出てきて、モンスター達を襲う。

「今だよ! ツキリン!」
「今です! ツキナさん!」 

 モンスターを怯ませた後、リリとアサガオは同時にツキナの方を見て叫ぶ。(攻撃のチャンスを作ってくれてありがとう!)と感謝をし、超広範囲魔法を放つ。

「雷の舞! ライトニングウェーブ!」

 ツキナを中心に雷が波のように発生し、ダンジョンの地面を覆い尽くす。
 これに当たったモンスターはあっけなく消滅した。こんなに連携がうまく行くとなかなか気持ちい。

「さすがツキリン!」
「最後の攻撃、凄かったです!」
「ありがとう! でもリリとアサガオちゃんがチャンスを作ってくれたからできたことよ!」
「ありがとう! ツキリン!」
「そう言ってもらえると嬉しいです!」

 ツキナ達が笑い合っていると、また狼の鳴き声が聞こえる。

「アオ———ン……!」

 さっきとは違って少し苦しそうな鳴き声をしている。どうしたのだろうか……。そんなことを思っているとまたモンスター達が合体を始める。さっきまでは三体だったが、今回は一匹になる。
 鋭い牙が生え、触れただけで怪我をしそうなトゲが全身を包み込んでいた。人喰い花とでも言っておこうか……。大きさも五メートルくらいになっている。

「大きいわね!」
「だね! 牙も生えちゃって、もう植物と言えないね!」
「あのトゲ痛そうですね……!」

 モンスターの容姿を見るや否やそんな感想が漏れる。
 トゲに触れたら何らかの状態異常がありそうな上に、鋭い牙を持っているので食べられたら致命傷を受けるに違いない。気を付けて戦わなくては……。

「慎重に行くわよ!」
「オッケー!」
「了解です!」

 ツキナはリリとアサガオに注意を促し、先制攻撃を仕掛ける。

「炎の舞! フレイムラーミナ!」

 多数の炎の刃を作り出し、モンスターに向けて放つ。

「シャァァァァァ!」

 モンスターは甲高い鳴き声を出しながら、トゲをミサイルのように打ち出し迎撃してくる。

「あれ、飛ばせるの⁉︎」

 ツキナはびっくりして目が丸くなってしまう。トゲの投擲が可能だと言うことは、リリとアサガオを守りつつ、戦うことが懸命だ。(また大変になるわね……)と心の中で呟きつつ、実行に移すことにする。
 リリとアサガオがモンスターに接近を始めると再びトゲをミサイルのように発射してくる。
 ツキナはすぐにリリとアサガオの周りを囲うようにシールドを張る。ツキナから距離があるので、シールドの強度は下がってしまうがリリとアサガオなら何とかするだろう。
 
「これでもくらえ!」

 リリは接近している最中に手に実体化していた銃からレーザーを発射する。
 おそらくあのレーザーは水圧カッターの原理を利用していると思われる。あんなものを見せられるとさすがはリリと思うしかない。リリの放ったレーザーはモンスターの片腕を切り飛ばした。

「シャァァァァァ!」

 モンスターは痛そうに悲鳴を上げている。だが二秒も経たないうちに腕が再生してしまった。

「うっそー!」

 リリは少しショックを受けてしまったようだ。それもそのはずで時間をかけて作ったものなのに再生と言う能力があるせいで、ダメージをあまり与えることができなかったのだ。ツキナもこの状況になったらショックを受けてしまうと思う。
 アサガオはトゲの攻撃を軽やかに避けながらモンスターに接近していく。シールドも一応、張ってあるのだが強度が下がっているのを感じたらしい。

「分身! 水撃!」

 十分にモンスターに接近した後、いつも通りに【分身】で数を増やしつつ、モンスターの色々な箇所を斬り刻んだ。斬ったところからは水が発生し、追撃が行われる。

「これでもダメですか……」

 アサガオはため息のように言う。色々な箇所を斬り刻まれたのにすぐに再生してしまうので、さほどダメージが入っていない。
 こういう敵は何処か格になっている場所があるので、ツキナはリリとアサガオが攻撃している最中にモンスターをじっくりと観察した。
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