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第七十八話 サバイバル迷路 二

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 小屋から出てから、一時間くらい経った。特に何も起きることはなく無事に進めていたが、ここに来て複数の足跡が聞こえてくる。
 僕達は近くの岩陰に隠れて、やり過ごすことにする。防具は無くなっていないものの、武器は使い慣れているものではないので、これが最善の策だ。
 岩陰から足音のする方をこっそりと覗いてみるとそこにはライオンの群れが居た。百獣の王との戦闘はこの装備では全く勝てる気がしない。バレたくないところだ。足音がゆっくりとこちらに近づいてくる。

「グォォォォ!」

 ライオンのオスが吠える。オスが吠えた事で近くにいたメスが一斉にこっちに向かってくる。

「ですよね~! みんな全力で逃げろ! 逃げるが勝ちだ!」

 こうなると予想はしていたのだが、食べられるのだけは勘弁だ。僕達は全力で三十メートル前方にある一軒家を目指す。
 入り口はライオンが入れないくらいの大きさなので、何とかなるだろう。と言うか何とかなって欲しい。
 僕達は振り返らずに走る。そしてドアの前に到着した。僕はすぐにドアを開け中に逃げ込む。みんなも後に続く。最後に入ったトモがドアを閉める。
 「ドーン」と言うライオンが激突した音が聞こえた。ライオンはドアをこじ開けようとしていたが、中に入ることができないと思ったのか攻撃をやめる。そして一軒家の外で旋回している。完全に囲まれてしまった。

「んん、これは困ったなぁ……」

 困った顔のまま愛想笑いを浮かべた。みんなも同じような表情をしている。無事に逃げ込めたのは良かったものの、脱出することができない状況になってしまったのだ。
 この一軒家を一通り見回すとグラップリングフックが置いてあった。どこで使うのか、全く分からないが……。そして机には〔獅子の背中に乗って進んでください〕と書かれている紙が置いてあった。グラップリングフックの使いどころは分かったのでよかったのだが、危険に自ら飛び込んでいくことになってしまったのだ。

「グラップル使ったことないのに無茶だろ!」
「そうですよね~。相手がライオンですし……」

 僕とアサガオは言う。手につける型のグラップリングフックらしいゲームやアニメでしか使い方を見たことが無い。使い方は一緒なのだろうか。とりあえず僕達はグラップリングフックを手に取り付ける。

「この一軒家、屋上に出られるみたいだから上にいきましょ!」

 ツキナがそんな提案をしてくるので、僕達は屋上に向かう。屋上から動くライオンの背中に向かってグラップリングフックを発射するパターンだと思う。
 遠距離武器を使う人達には問題はないと思うが、近距離武器を使う僕を含めた四人は上手く当てられるか心配だ。
 すでに一軒家はライオンに取り囲まれてしまっているので、この方法を取るしかない。無事に成功することを願いながら、ライオンの背中にグラップリングフックを発射した。
 僕達が発射したグラップリングフックはライオンの背中に見事に命中した。命中した事に驚いたライオンは暴れだす。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

 遠心力で吹っ飛ばされそうになった僕達は悲鳴を上げながら必死にグラップリングフックを引く。
 ライオンからグラップラーフックが外れたらすぐに餌食になってしまう。(絶対に外れるなよ)と強く願っている。
 グラップリングフックは外れる事はなく無事にライオンの背中に着地することができた。僕は胸を撫で下ろす。
 僕達が着地してすぐにライオンは何かに操られているかのように同じ方向に走り出す。

「楽しいー!」

 トモが叫び声を上げる。トモの気持ちもよく分かる。顔を吹き抜ける風が心地よい涼しさを演出しているからだ。ライオンが走り出してから五分、前方にヌーの群れが現れる。

「なるほど……こういう事ですか~」

 ムサシが呟く。ライオンは走り出す前に何らかの方法でヌーの群れがいることを感知したらしい。
 ライオンはヌーに襲いかかっていく。このままアクションをとらないと僕達が巻き添えをくらってしまう。

「あそこの大木にグラップリングフックを引っ掛けてライオンから降りよう!」 
 
 僕はライオンとヌーが戦闘していない場所を見つけ出し、みんなに提案する。ライオンとヌーが戦闘をしている間に逃げようと思ったからだ。
 「オッケー!」、「了解!」と言う返事が返ってきたので、僕達はグラップリングフックを大木に引っ掛けライオンから一斉に降りる。その時に左矢印。真左に進んでくださいという意味だと思うが、ヌーが陣形を組んだ事で目印が浮き上がっていたのだ。
 たまたまヌーのほうを見たのでよかったものの、運が悪ければ見逃してしまうメッセージ。(うまく作るね~)というのが正直な感想である。僕達は無事に大木に着地した。そして隙を見て地面に降りる。

「このまま真っ直ぐ進むぞ!」

 僕はヌーが教えてくれた方向を指差して言う。

「何で、進む場所が分かるの?」

 リリは不思議そうな顔をして僕に言ってくる。

「ヌーがメッセージを残していてくれたんだよ!」
「そうだったの⁉︎ 全く気付かなかった……」
 
 リリは苦笑いを浮かべている。メッセージに気付いたのは七人の中で僕とトモとムサシの三人だけだ。本当に分かりにくいメッセージだった。僕達は指示された通りの方向に向かって歩いていく。
 歩き始めてから数分、前方に大きな洞窟が見えてきた入り口は扉でしっかりと塞がれているようだ。

「多分、目的の場所はあそこだな!」
「きっとそうですよ! そらよりもお腹が空いてきました」

 僕が洞窟を指差しながら言うとコジロウが反応してくれた。それにコジロウの言った通りにお腹が空いてきた。ついでに喉も渇いている。
 すぐに僕は空腹ゲージと水分ゲージを確認する。すると共に半分以下になっていた。どうやらこの二つのゲージが減ると現実世界と同じような感覚になるらしい。

「洞窟に入る前にあそこの家で休憩しよう!」

 僕は提案する。定期的に休憩を取っていかないと肝心な時に動けないということが起こりうるかもしれない。
 今から大変そうな場所に行こうとしているので、ここで休憩を取ろうと考えた。みんなも同じ考えに至ったようで、すぐに了承する。
 僕達は家の中に入って焼いた肉を食べたり、水分を飲んだりして休憩を取った。洞窟にはどんな罠が仕掛けられているのだろうか……。
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