18 / 33
レベル62 逃亡者カナミ 非処女 絹のローブ 皮の靴 鈍く光るイヤリング 奴隷の烙印 ステ:安堵 憐憫 金54000JEM
医療先進国キャロワッカ編③終「虚飾国からの脱出」
しおりを挟む
医療先進国キャロワッカに行き交う人々の表情は皆、この青空のように晴れやかであった。
「病は気から」なんて言葉はよく聞くが、もし彼らがカインの洗脳催眠によって大病を治した克服したと思い込んでいるのだとしたら、酷な話だ。
「タクヤ。あたし、やっぱりこのままじゃいけないと思う。この世界にも、警察みたいな機関はあるのよね?」
『まさか、告発しようって言うのか?』
「だ、だって助けてくれたあの人、今も牢屋の中にいるのよ。あんなところにいたら、いつかは……」
いつかは……の先は、とてもじゃないが言葉にできなかった。
『さっきも言ったけど、お前ひとりが騒いだところでどうにかなる問題じゃない。それに、警察そのものもカインに洗脳催眠されていたらどうする?』
「ぁっ……」
『とにかく、こんなウソをウソで塗り固められた底気味悪いところ、身支度を整えてさっさ出るんだ』
「わ、分かった。分かったわよ……」
カナミは自分の気持ちをグッと押し殺し、ポケットに入った形見とも言えるJEM紙幣を取り出す。
その際、指先に独特のヌルッとした感覚が伝った。
『どうした?』
「こ、これ。まさか……」
血?
暗いところにいたせいでまったく気付かなかったが、なんと紙幣がところどころ赤黒い液体で染まっていたのだ。
「ぁっ、ぅぁッ……すっ、ぐすッ……」
途端に、抑えていたものがこみ上げてくる。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ」
『……っ』
カナミの気持ちを考えれば、安易に声をかけるのはためらわれた。
しかし洗脳催眠で染まったこの国で、逃亡に気付いたカインがいつ捜索の手を広めるかもわからない。
一秒だってこの場所にとどまり続けるのは危険。だから――。
『カナミ。お前の気持ちは分かるけど……』
「大丈夫。あたし、彼女の思いは決して無駄にしないわ」
首を左右に振り大きく一度だけ深呼吸をしたカナミは、次の瞬間にはもう表情を改めていた。
『本当なら俺だって、あの女の人を助けたかったさ』
「分かるよ、タクヤの言いたいこと。だからあたし、もう迷わない」
『その通りだカナミ。だって――』
せっかく自由を得られたと言うのに、一時の気の迷いに惑わされ、のこのこと捕まりに帰るなんてバカげた話。
ちっぽけな正義感は、自らの首を絞めることにもつながる……。
と、俺は危うく口にしかけたがギリギリのところで飲み込み、自分の胸の中だけにとどめておいた――。
◇◆◇
洋裁店にて、絹でできた小奇麗なローブを購入し身にまとう。
汗ばむ陽気にもかかわらず、カナミがあえて長袖を選んだのも、左腕の烙印を隠すためだろう。
支払いの際、血染めの紙幣を見た店員は案の定いぶかし気な表情を浮かべてはいたが、あれこれ詮索される前にさっさと出てきてしまった。
「ここは全体的に物価が高めのようね。ローブと靴で30000JEMか。この先もいくらかかるか分からないから、できるだけお金は節約しないと」
キャロワッカから他の土地へは定期的に乗り合い馬車が行き来しているらしい。
周りの情報を頼りに馬車乗り場へと向かうと、ちょうど出発の準備をしているところであった。
「あ、あの! この馬車はどこに行くんですか?」
「途中、集落を三……いや、一つは先月封鎖になったから、二か所通り抜けて終点はエルドラド。城下町エルドラドだ。片道二時間で運賃は一律1000JEM」
黒いコート、黒いシルクハットを深々とかぶった御者の男は、ふてぶてしい態度で答える。
「乗るのか?」
「の、乗ります」
「じゃあさっさとしろ。もう出発の時間だ」
「はい……」
そっけない言い方をする御者に一瞬眉をひそめたカナミであったが、会話の中にひとつ気になるワードがあった。
「ねぇタクヤ。エルドラドってまさか……」
『俺たちの待ち合わせ場所、だな』
「や、やっぱり! 良かった……。少なくとも、今まであたしが立ち寄ってきた場所よりも安全で治安もいいはずよね?」
『ああ。一度しっかりと体制を整えることができそうだ』
「あたし、久しぶりに噴水公園でゆっくり話がしたいなぁ」
『そうだな。しよう』
久しぶりと言っても、日数にしてはほぼ半月。
それでも彼女の言う通り、そのたった半月が果てしなく長い月日であったと感じることもできる。
未だトリニティ・ワールド・オンラインの世界から抜け出すめどは経っていないものの、共通の思い出が残る土地への帰郷は俺たちにとってとても感慨深いものがあった。
(それにしても……)
いじらしく微笑む幼馴染がこんなに近くに見えるのに、決して触れることのできない遠い距離にいるなんて。
早く不安から解放させてあげたい。楽にしてあげたい。そしてできることなら触れ、抱きしめ、俺の隠し続けていた積年の想いを伝えたい。
逸る気持ちはいつしか使命となって、自然とカナミの背中を押す。
『カナミ。もう馬車が出るみたいだぞ』
「うん。分かった」
程なく御者が手綱をパチンを鳴らせ、馬車が出発。
こうして、カインの追手が迫る前に無事、カナミは医療虚飾国キャロワッカから抜け出すことに成功したのである――。
「病は気から」なんて言葉はよく聞くが、もし彼らがカインの洗脳催眠によって大病を治した克服したと思い込んでいるのだとしたら、酷な話だ。
「タクヤ。あたし、やっぱりこのままじゃいけないと思う。この世界にも、警察みたいな機関はあるのよね?」
『まさか、告発しようって言うのか?』
「だ、だって助けてくれたあの人、今も牢屋の中にいるのよ。あんなところにいたら、いつかは……」
いつかは……の先は、とてもじゃないが言葉にできなかった。
『さっきも言ったけど、お前ひとりが騒いだところでどうにかなる問題じゃない。それに、警察そのものもカインに洗脳催眠されていたらどうする?』
「ぁっ……」
『とにかく、こんなウソをウソで塗り固められた底気味悪いところ、身支度を整えてさっさ出るんだ』
「わ、分かった。分かったわよ……」
カナミは自分の気持ちをグッと押し殺し、ポケットに入った形見とも言えるJEM紙幣を取り出す。
その際、指先に独特のヌルッとした感覚が伝った。
『どうした?』
「こ、これ。まさか……」
血?
暗いところにいたせいでまったく気付かなかったが、なんと紙幣がところどころ赤黒い液体で染まっていたのだ。
「ぁっ、ぅぁッ……すっ、ぐすッ……」
途端に、抑えていたものがこみ上げてくる。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ」
『……っ』
カナミの気持ちを考えれば、安易に声をかけるのはためらわれた。
しかし洗脳催眠で染まったこの国で、逃亡に気付いたカインがいつ捜索の手を広めるかもわからない。
一秒だってこの場所にとどまり続けるのは危険。だから――。
『カナミ。お前の気持ちは分かるけど……』
「大丈夫。あたし、彼女の思いは決して無駄にしないわ」
首を左右に振り大きく一度だけ深呼吸をしたカナミは、次の瞬間にはもう表情を改めていた。
『本当なら俺だって、あの女の人を助けたかったさ』
「分かるよ、タクヤの言いたいこと。だからあたし、もう迷わない」
『その通りだカナミ。だって――』
せっかく自由を得られたと言うのに、一時の気の迷いに惑わされ、のこのこと捕まりに帰るなんてバカげた話。
ちっぽけな正義感は、自らの首を絞めることにもつながる……。
と、俺は危うく口にしかけたがギリギリのところで飲み込み、自分の胸の中だけにとどめておいた――。
◇◆◇
洋裁店にて、絹でできた小奇麗なローブを購入し身にまとう。
汗ばむ陽気にもかかわらず、カナミがあえて長袖を選んだのも、左腕の烙印を隠すためだろう。
支払いの際、血染めの紙幣を見た店員は案の定いぶかし気な表情を浮かべてはいたが、あれこれ詮索される前にさっさと出てきてしまった。
「ここは全体的に物価が高めのようね。ローブと靴で30000JEMか。この先もいくらかかるか分からないから、できるだけお金は節約しないと」
キャロワッカから他の土地へは定期的に乗り合い馬車が行き来しているらしい。
周りの情報を頼りに馬車乗り場へと向かうと、ちょうど出発の準備をしているところであった。
「あ、あの! この馬車はどこに行くんですか?」
「途中、集落を三……いや、一つは先月封鎖になったから、二か所通り抜けて終点はエルドラド。城下町エルドラドだ。片道二時間で運賃は一律1000JEM」
黒いコート、黒いシルクハットを深々とかぶった御者の男は、ふてぶてしい態度で答える。
「乗るのか?」
「の、乗ります」
「じゃあさっさとしろ。もう出発の時間だ」
「はい……」
そっけない言い方をする御者に一瞬眉をひそめたカナミであったが、会話の中にひとつ気になるワードがあった。
「ねぇタクヤ。エルドラドってまさか……」
『俺たちの待ち合わせ場所、だな』
「や、やっぱり! 良かった……。少なくとも、今まであたしが立ち寄ってきた場所よりも安全で治安もいいはずよね?」
『ああ。一度しっかりと体制を整えることができそうだ』
「あたし、久しぶりに噴水公園でゆっくり話がしたいなぁ」
『そうだな。しよう』
久しぶりと言っても、日数にしてはほぼ半月。
それでも彼女の言う通り、そのたった半月が果てしなく長い月日であったと感じることもできる。
未だトリニティ・ワールド・オンラインの世界から抜け出すめどは経っていないものの、共通の思い出が残る土地への帰郷は俺たちにとってとても感慨深いものがあった。
(それにしても……)
いじらしく微笑む幼馴染がこんなに近くに見えるのに、決して触れることのできない遠い距離にいるなんて。
早く不安から解放させてあげたい。楽にしてあげたい。そしてできることなら触れ、抱きしめ、俺の隠し続けていた積年の想いを伝えたい。
逸る気持ちはいつしか使命となって、自然とカナミの背中を押す。
『カナミ。もう馬車が出るみたいだぞ』
「うん。分かった」
程なく御者が手綱をパチンを鳴らせ、馬車が出発。
こうして、カインの追手が迫る前に無事、カナミは医療虚飾国キャロワッカから抜け出すことに成功したのである――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる