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竜と旅人
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竜と旅人
とある昔の話、こことは違う世界のお話。
知性を持った竜がいました。竜は生まれてずっとひとりぼっちでした。
とても好奇心が旺盛な竜はいろいろなところに出かけてみました。
火を噴く山、広大な湖、果てしない川、果てしない川の先にあった大きな海。緑が深々とした山々、一面氷の世界、そして、自分以外の生きものに興味を持ちました。竜は大変賢く、その動物が話す言葉をすぐ覚えて、彼らと対話をしました。
多くの生きものが自分をみるとすごく怖がります。
それもそうでしょう、竜は誰よりも大きな牙を持ち、誰よりも大きな翼を持ち、誰よりもおおきな体を持っているのですから。
それでも、竜は生きものたちに話しかけました。自分と同じ姿の生きものがいない竜にとって、それはなによりも寂しいをまぎらわすことでした。
多くの生きものは、だんだんと話していくうちに、この姿の大きな生きものに警戒心を解いていきました。
そうして、竜はいろいろな動物と仲良くなっていきましたが、一つだけ気になっていることがありました。
それは、人間のことです。人間という生きものは、すべての動物たちから非常に嫌われていました。
「人間という生きものは非常に怖い生き物だ、僕たちを捕まえて食べようとしてくるからね」
「人間という生きものは、非常に怖い生きものだ、僕たちの住んでいる森の木を根こそぎ切りはらって自分たちの住処にしてしまうからね」
竜はいろいろな生きものたちから、人間の怖さを聞いていきました。でも、竜は好奇心旺盛ないきものでした。
もしかすると、自分と同じような姿の生きものかもしれない、仲間かもしれない、そう思いました。
そこで、竜は、人間の住んでいるところへあいさつに行ってみようと考えました。他の生きものたちに気付かれないように、そうっと、そうっと森を抜けだしました。
雲を通り抜け、雷を避けて、雪山を飛び越えて、何日も飛び続けて人間の住むところを探しました。
いくつもの山や森を抜けて、やっとのところで、小さな木の塊を組み立てたものが集まるところを見つけました。
そこには、他の生きものに比べて二本足で歩いてている毛の少ない生きものの影がいくつか見つかりました。
「もしや、これが人間なのでは?」
竜は興奮しました。やっと人間という生きものを見つけたからです。
さっそく建物がない開けたところに降り立ち、人間の前に立ちはだかりました。
言葉はある程度、聞きこまないと覚えられないのでまずは人間の前に立って声を発してみました。
すると、人間は「ひいいっ!!」と悲鳴を上げて一目散に竜の前から逃げ出しました。
最初は他の生きものたちも同じような反応していたから仕方がない。竜はそう考えました。でも、何回も何回も会ううちにみんな分かってくれたんだ、人間も同じように分かって仲良くしてくれるだろう、竜はそう考えて一旦、村を離れました。
次の日も同じく、人間の村にやってきて同じように話しかけてみました。人間の反応は昨日と同じく、みんな一目散に逃げてしまいました。
それでも、竜はあきらめませんでした。また、次の日村を訪れて人間に話しかけてみました。
すると、今度は人間は黒い筒のようなものを竜に向けてきました。竜はしばらくこれは何だろう?と見ていました。
すると、黒い筒からだぁんと大きな音が出て、竜の体に刺すような痛みが感じられました。
竜は、驚きました。人間はものすごいい顔で竜をにらみつけながらまた、黒い筒からだぁんと大きな音を発しました。また、竜の体に刺すような痛みが現れました。
竜は、とまどいました。人間とお話しして仲良くしたいと思っていたのに、何やら黒い筒が自分に向けられたときに自分の体に痛みが現れたからです。今まで、色んな生きものと会ってきましたが、こんなことは初めてだからです。
それでも、竜はあきらめずに、人間に話しかけてみました。
竜の話声は人間からすると獣のような声です。それが、かなりの大きな声なので人間は怖がってしまいます。
でも、竜にはそんなことはわかりません。人間とお話しをしてみたいと強く思っているのですが、人間にはそんな竜の心は伝わりません。
結局、何発かの銃弾を受けながらも、竜は人間たちには何もせずに村から離れるよう飛び立ちました。
竜は悲しくなりました。お話しして仲良くしたいと思っていたのに、怖い顔をされて、しまいには何やら黒い筒みたいなもので自分に攻撃をしてきたようだったからです。
竜は、他の生きものたちが言っているように、人間は怖い生きものなんだ、と思い人間から離れるよう山奥の大きな洞窟のなかにこもるようになりました。
それから、幾つもの時が流れたでしょう。ある日、竜は洞窟のなかでうとうととしていると、何やらがさごそと音がします。
薄目を開けてみると、人間がいました。暗闇のなかで回りが見えていないようです。がさごそと音がしているのは、袋のなかから何かものを出そうとしている音でした。
ふいに、ぽっと音がすると、火が周りを照らしました。そこで、初めて大きな竜が寝ているのを人間は発見しました。
「うわぁっ」と叫び声を上げて人間が尻もちをつきました。足が震えて腰が抜けて立てません。
「助けてくれぇ、食べないでくれぇ」と人間は震える声で話します。
竜は大きな瞳でじっと人間を見ていました。人間が何を怖がっているか分からなかったからです。
どれくらいの時間が過ぎたでしょう。人間は足の震えが収まり、顔色も真っ青から普通に戻ってきました。
人間はしばらく、竜が何もしてこないのをみると落ち着きを取り戻してきました。よく見ると竜の瞳は黒に近い青色でとても澄んでいることが分かりました。まるで、異国の夜明け前の薄明りを映す湖みたいに。
「あんたは俺を食べないのかい?」人間はそう竜にたずねました。
竜は話しかけられても、言葉の意味が分かりません。しばらくじっと人間を見ているだけでした。
そのうち人間は身振り手振りで言葉を交えながら竜に話しかけました。
竜はだんだんと人間の話す言葉が分かってきました。
かなりの時間を人間は身振り手ぶりを合わせて竜に話しかけていました。人間は竜にだんだん興味を持ってきました。
「ニンゲン、タベナイ」
竜はすこし言葉を覚えました。
人間は喜びました。竜が自分と言葉を交わすことができたことを。
それから、人間はいくつもの言葉を単語で、ときには指さしや身振り手振りで話しかけ、竜はそれを乾いた砂地が水を吸い込むようにすぐ吸収しました。
「きみは何を食べて生きているんだい?」
「タベナイ、ミズノム」
「お腹は空かないのかい?」「ワカラナイ」
「どうしてこんなところにいるの?」「ニンゲン、ボクキライ」
「人間が嫌いなの?」
「チガウ、ニンゲンコワイカオ、ボクミル」
「そうか、確かに見た目は怖いけどいいやつだよ君は」
「だって僕のこと食べないでいてくれたから」
「ボク、ミンナタベナイ、ナンデ」
「昔から竜はそう言われているんだよ、何故か」
「昔の人は竜にいやなことされたのかな?」
「ボク、シテナイ」
「うん、君はね、でも君の兄弟とか両親とか」
「キョウダイ?リョウシン?」
「君を生んだ竜のことが親、君と同じような姿の竜が兄弟だよ」
「イナイ、オナジ」
「ウマレテカラズットサガシテイル デモ ミナイ」
「そうか、不思議だな」「でも、自分と同じ生きものがいないのはさびしいよな」
「よし、僕も一緒に探してあげるよ、僕は旅人でこの世界の色んなところを見て回ったけど、君のような竜に出会ったのはこれが初めてだからね」
「もしかすると、この広い世界で君の兄弟に会えるかもしれない、だから一緒に探そうか」
「ウレシイ、アリガトウ」
こうして、旅人は竜と仲良くなり、竜の兄弟を探すことを約束しました。
とはいえ、大きな体の竜を一緒につれて歩くことは難しいでしょう。
いくら言葉を覚えてきたといっても、あの大きな姿は人々に怖い思いを抱かせるでしょう。
そこで、旅人は考えました。
まずは、自分がいろんな人に竜のことをたずねてみて、めぼしい話を聞けてから竜を連れ出そうと思い、竜にそのことを話しました。
竜はうなずきました。自分がまだ人間に怖い思いをさせてしまうことを考えて少し悲しくなりました。
でも、こうして旅人という人間の友達に巡り合えたこと、旅人が竜の為に手伝ってくれることをとてもうれしく思いました。
こうして、旅人と竜はいったんお別れしました。
旅人は王様の住んでいる都を目指して歩いていきました。都には多くの物知りがいる。きっと竜のことを知っている人がいるだろうと考えてのことでした。
何日も何日も歩き続けて王様の住む都、この国で一番大きな街にたどり着きました。
何日も歩いて疲れ果てた旅人は住む宿を決めて少し眠りました。その後、休んでいる宿の下の階ではざわざわと人々のさわがしい様子が聞こえてきした。ときはもう夕方を過ぎたころです。
この時間を旅人は待っていました。夕方を過ぎると、宿の食堂は多くの人で賑わっています。その中には、お城に勤める人もいるでしょう。旅人はお城に勤める人に話しかけました。
「そこのあなた、ちょっと聞きたいのだけど、お城に勤めている人だよね」
お城に勤める人は役人といって、特別な柄の衣装をまとっています。
「そうだが、きみは何なんだい、せっかくたのしく食事をしているのに」
「お城の賢者さんにお聞きしたいことがあるのですが、どうやったらお会いできますか?」
役人は顔をしかめました。
「なんだって突然に、賢者さまはお忙しい人だからな、なかなかお会いできないよ」
「実は竜のことで賢者様にお聞きしたいことがあるのです、私は竜と友達になりました、でも竜は自分の仲間がいなくてさびしそうにしています、だから、竜の仲間のところに連れて行ってあげたいのです」
「ほらをふくな、ばかもの、竜なんているわけないだろう」
いや、本当です、竜は人間の言葉を少しですが話すことができます」
「酔っ払いにはつきあってられないな」
そういって役人は同じテーブルの仲間たちと話し始めました」
「わかりました、竜をここにつれてくれば信じますか?」
役人たちは顔を見合わせて大笑い。
「いいだろう、竜でも巨人でも連れてくれば信じるさ」
そう言って役人たちはまた大笑いしました。旅人は自分と竜のことを馬鹿にされたと思い悔しくなりました。
「わかりました、竜を連れてきます、そのかわり皆さんは逃げたりしないでください」
そう言って顔を赤くした旅人は食堂を後にしました。
そのまま、すぐに町を出て、竜の住む洞窟に向かっていきました。
怒りで肩をいからせながら旅人は竜の住む洞窟へと急ぎ足で向かいました。
そして、竜の洞窟にたどりついたときに、街でのいきさつを竜に話しました。
竜は澄んだ瞳でじっと旅人を見ながら話しをよく聞いていました。そして
「ワカッタ、キミノイウトオリマチニイコウ」
竜は旅人の言う通りにしようと思いました。そして、旅人を乗せて、街までひとっとびに飛んでいきました。
竜は旅人を乗せて街の門のところに降り立ちました。
すると、街の門番はたいそう驚いて腰を抜かしました。
「ひいぃ、怪物が来たぁ」
門番は腰を抜かしたまま、四つん這いで街のなかへと逃げ去っていきました。
旅人はそのままずんずんと歩き宿屋の酒場に向かっていきました。
時は折よく昼食時でした。先日話しかけた役人は仲間と食堂で昼食をとっていました。
それを見つけた旅人は誇らしげな顔で役人に近づき話しかけました。
「お食事中失礼します。先日お話ししました竜を連れてきましたのでご覧ください」
役人は不機嫌になりました。食事を邪魔されたと思ったからです。
「なんだ、先日のほらふきか、今は食事中なんだ、後にしてくれないか」
そういった後、食堂の外では人々が大騒ぎをしている声が聞こえてきました
「なんだ、今日はずいぶん外がさわがしいな、いったい何があるんだ、祭りはまだまだ先だぞ」
旅人がその問いに答えました。
「私の連れてきた竜を見て人々が騒いでいるみたいです、でもご安心を、竜は優しくて人など食べませんから」
旅人は役人に誇らしげに話しました。
役人は気になって、食堂の外に出てみました。人々が大騒ぎで街の中心のほうに逃げていきます。あまりの人の多さに役人は何度も逃げまどう人々にぶつかり倒れそうになりました。
役人は人々の逃げる方向とは反対に向かって歩いていきました。やがて、街の出入り口の門にたどり着きました。その時、役人は目を見張りました。
これまでみてきた動物よりもはるかに大きな姿、翼が生えているが、鳥というには、けわしい顔をしていてとかげに近い顔立ちをしている。四つん這いに座っている手から鋭そうな爪が生えている。
竜は、役人に気付き目を向けました。すると、役人はひどくおののき竜のほうからくるりと向きを変え一目散に逃げました。
旅人は逃げてくる役人に話しかけようとしましたが、役人は真っ青な顔で旅人を突き飛ばして一目散に街の中心に逃げていきました。
旅人はがっかりしました。せっかく役人の言う通りに竜を連れてきたのに肝心の役人は逃げてしまいました。
しかたがない、と思い竜に少しだけ待っててもらうよう話しかけました。そして再びお城に行って直接賢者さまに竜のことを話そうと思いました。
今度はみんな見たんだから信じてくれるだろう。
旅人はお城の受付口に向かい、受付役人に話しかけました。自分は竜の友達だ、竜のことについてお城の賢者様にお話ししたい、と。
しばらくお城の受付口で待っていると、、頑丈な鎧に身を包んだ兵士が二人、旅人の近くに来てこう言いました。
「あなたが竜をつれてきた旅人か」
「そうですが、そのことで賢者様にお会いしてお話ししたいのですが」
旅人の言葉を聞いた兵士は怖い顔で旅人押さえつけ縄できつくしばりました。そして、罪を犯した人が入る牢屋へと押しやられました。
旅人は訳が分かりません、竜のことでこの世のいろんな事にくわしい賢者様に話を聞こうとしただけなのに、どうして牢屋に入れられてしまうのだろうか
不安と怒りが混じった気持ちのまま牢屋のなかに座り込んでいた旅人は何人かの足音が近づいてくるのを聞きました。
足音が近づいてくる方向に顔を向けてみると、豪華な衣装と冠をつけたひげを長くたくわえた人物が従者を連れて旅人の牢屋の前に立っています。
「お前がこの街に竜を連れてきたものか」
そう問いただす目は冷たくあたかも重い罪をおかした罪人をみるような目でした。
旅人はその眼を見てすこし怖くなりましたが、応えました。
「そうです、竜は僕の友人です、あなたは誰ですか」
「私はこの街の王に使える賢者だ」
賢者は冷たく言い放ちました。
旅人は念願の賢者に会えたことですこし気が晴れてきました。ただ、どうして罪人のような仕打ちをうけるのか分かりません。
「賢者様、お願いです、竜は心が優しくさびしがりです。竜の親や兄弟に会ってみたいと話していました。竜の仲間がどこにいるかご存じではないですか」
賢者は旅人の言うことなどみじんも信用していませんでした。
「古来、竜は災厄をもたらす生きもの、神と人間の敵だ、そのような恐ろしいものの存在などこの世にはあってはならぬ」
賢者は厳しい言葉を旅人に言いました。それでも旅人は竜のことを思い言い返しました。
「そんなことはありません、最初はわたしも怖がりましたが、だんだんと話しかけていくうちに私たちの言葉を覚えて仲良くなりました。竜は誤解されています、私たち人間を食べようとなどしません、ただ、仲良くしたいと言っていました」
「馬鹿な、そんなことあるものか、古来より神の敵である竜はずる賢く神とそのしもべたる人間に悪さをしてきたと言い伝えられている」
「昔はそうかもしれませんが、あの竜はそんなことしません、信じてください」
「そんなことを言うお前も竜のしもべとして心を操られているのだろう」
「明日の朝、騎士団を連れて竜の討伐に向かうことにした」
「お前は竜に操られているのだろうから、竜をしとめるまでは悪事を行わないよう牢屋にいなさい」
そう言って賢者は従者とともに牢屋から離れていきました。
賢者が従者をひきつれて牢屋から離れたあと、旅人は涙をこぼしました。どうしてなにも悪いことをしていないのにやられなくてはいけないんだ、ただ友達が欲しかったさびしがりやの竜、あの大きな姿でみんなに恐れられるけど本当は賢いやつなんだと。
ひとしきり泣いた後、旅人は牢屋を出るための方法を考えました。一刻も早く竜にこのことを知らせなければ。ここを出て早く竜に知らせないと。逃げてと伝えないと。旅人はあせりました
力のかぎり牢屋の鉄格子を叩いたり、ひっぱったりしました。思いっきり壁や鉄格子に体当たりをしてみました。しかし頑丈な牢屋はびくともしません。
今度は旅人は目いっぱいの大声で叫びました。
「お願いだ!ここから出してくれ!」
何度も何度も力の限り、声が枯れるまで叫びましたが、牢屋の番人は聞く耳を持ちません。旅人の叫びはむなしく牢屋に響き渡るだけでした。
その間に、賢者は王様に竜のことを話しました。王様は賢者の言い様にたいそうおびえて早速賢者に竜を征伐するよう命じました。
がちゃがちゃと重い音を立てて甲冑を着込んだ騎士たちが街の門に大勢かけつけました。
騎士たちは門の外の草原に座り込んでいる竜を取り囲み、先頭に立つ騎士がこう言いました。
「人々に害をなす神の敵、竜よ、いまこそわれら騎士団が征伐してくれる!」
そう宣言し仲間に向かって突撃の号令すると騎士たちは竜に向かって剣や槍を構えて突進していきました。
いきなり騎士たちに切りつけられた竜は驚きました。自分に向かって話しかけてきたと思ったら今度は鋭いもので自分を傷つけてきます。
たまらず竜は空の上に飛び立ち、洞窟に向かって戻りました。
竜は困惑しました。旅人が自分の仲間を探してくれると言って、街にでたあと、出てきた人間たちは怖い顔で自分をひどく傷つけてきます。どうしてなんだろう、どうしてなんだろう・・。
竜は洞窟に帰り、傷ついた身体を休ませようとひと眠りしました。
それから、どのくらい時間が経ったでしょう。洞窟の入り口のほうから人間の声と甲高い硬いものが触れ合う音が聞こえてきます。声と音はだんだんと近づいてきます。
幾つもの炎のあかりが洞窟を照らしました。そのあかりを持った人間たちが大勢います。手に手に鋭く光るものを持ちながら。
「いたぞ、竜だ、ここに潜んでいたぞ」
先頭の人間が大声で叫びました。それに続いて後ろの人間たちも大声で声を張り上げています。
竜は怖くなりました。人間たちが自分の住んでいるところまで来て、とても友好的とは思えない声を張りあげています。
竜は怖さを噛み殺しながら懸命に声を出しました。
「ニンゲン、ボクコワクナイヨ」
怖がらなくてもいい、そう人間たちに言い聞かせたつもりでした。ですが、
「我々を恐れないとは、やはり邪悪な神の敵、竜よ討伐してくれる」
そういうや否や先頭の人間は、剣を振りかざし竜に襲いかかりました。それに続いて後ろの人間たちも剣や槍を構えて竜に突進していきました。
興奮する人間の雄たけびが洞窟内に響き渡り竜を取り囲みました。
街のほうでは、旅人はどうしていたかというと、牢屋の中で幾日も過ごしていました。最初は牢屋から出るために、何でもやれることはやりました。
しかし、頑丈な牢屋は壊せるわけがありません。次に牢屋の門番に話しかけ、説得をしようとしていましたが、門番は街での竜の噂を聞いているため、この男は竜を従える悪いやつだと考えているようでしたので、旅人の説得は門番には効きませんでした。
あらゆる方法を考えてみましたが、牢屋を出る方法が無く途方に暮れて幾日も過ごしていました。
今頃竜はどうしているかな、見た目が怖いけど本当はさびしがりやで、好奇心旺盛な、心が優しい竜。ほんの数日でしたが、旅人は竜のことが大好きでした。
牢屋で幾日過ぎたのか分からなくなるくらい、ある日門番が旅人の牢屋の前に立ちました。
「賢者様がお呼びだ、出なさい」
門番は無表情で旅人に言い放ちました。
旅人はあっけにとられましたが、すぐに気を取り直しました。そして、心に希望が芽生えました。もしかしたら、竜はみんなを説得してくれたのだろう。
門番に連れられて旅人は賢者の仕事部屋に通されました。賢者は机に向かってなにやら書類を書いています。ちら、と横目で旅人を見てすぐに机の書類に目を向けながら言いました。
「お前はもう牢屋を出ていいぞ、竜は討伐されたから」
旅人は言葉を失いました。賢者様はどういう意味でそのことを伝えたのでしょう。
「竜が討伐されたのですか・・・・」
賢者はわずらわしく横目で旅人をちらりと見て、また机の書類に目を落としました。
「そうだ、我が国の勇敢なる騎士たちの大いなる犠牲をもって神と我が王に災いをもたらす竜は討伐された、お前も邪悪なる竜の支配から解放されたのだ、もうどこへなりとも行きなさい」
旅人は茫然としました。目の前が真っ暗になり、あやうく倒れそうになりましたが何とか体を持ちこたえさせて賢者の仕事部屋から出ていきました。
旅人は信じられませんでした。ですが、城を出ると、人々は、祝福のお祭りを催しています。
旅人は騒がしい街中を急いで駆け抜け、街を出ました。
そのまま、竜の住む洞窟へと一目散に駆けていきます。
そんなの嘘だ、竜は賢いから死んだふりをして騎士たちをやり過ごしたんだろう、それか騎士たちを僕と同じように話しかけて説得し、嘘の報告をするようにしたんだろう、今もあの洞窟ですやすやと寝ているに違いない、僕の帰りを待っているだろうな、竜はさびしがりやだから帰ってまたいろいろ話をしなくちゃ、
頭のなかでいろいろな事がごちゃごちゃと混ざっています。それでも旅人は足を止めません。ひたすら竜の無事な姿を確認したいと思いながら。
息が切れて呼吸が苦しくなりました、脇腹もずっとずきずきと痛んでいます、それでも旅人は夜も昼も関係なくひたすら竜のいる洞窟へと向かいました。
疲れと空腹で途中で旅人は気を失ってしまい倒れてしましました。それでも旅人は少しだけ休んで水を飲み、また再び急ぎ足で洞窟へと向かいました。
幾日も幾日もかけ続け、とうとう竜の洞窟にたどり着きました。
息は切れてしゃべる事も出来ないくらいに疲れています。
足もずっとかけ通しでがくがくと震えています。
それでも旅人はお構いありません。ただただ竜のことが心配でここまで急いで駆けつけました。
洞窟のなかは暗く静かです。
竜は寝ているんだろうな、そう旅人は思いましたが、汗がとまりません。これは急いで駆けてきただけのものではないことを旅人は感じています。嫌な予感、気持ち悪い雰囲気が旅人を包んでいました。
「おーい、僕だよ、帰って来たよ!」
旅人は力を振り絞り洞窟の奥に向かった声を張りあげました。
自分の声が洞窟の奥から帰ってきます。それ以外の物音はしません。
「竜―!寝ているのかい?僕が帰って来たよー!」
大きく声を張りあげましたが、またも帰ってくるのは自分の声だけでした。
旅人は顔が真っ青になりました、気持ちの悪いものがお腹の中から口に向かって逆流しそうでした。
旅人は竜がいつも寝ているところへ向かって走りました。口から酸っぱいものがこみ上げてききましたが、我慢して飲み込みました。
そして、洞窟の奥の開けた場所にたどり着きました。いつも竜が体を休めているところです。旅人はたいまつを付け灯りをともしました。そこから見える光景に旅人はがくんと膝から崩れ落ちました。
洞窟のなかは、壊れた甲冑と折れた剣や槍、無数のたいまつの跡、そして血だらけになって息絶えた竜の大きな姿がありました。
旅人は声にならない泣き声をあげました。幾日も走ってきて汗も出ないくらい疲れ果てているにも関わらず、両の瞳からは滝のような涙が流れだしました。
旅人は竜の横たわっているところに近づき、竜の顔をぎゅうと抱きしめてただひたすら泣いていました。
どのくらいの時間が経ったでしょう。涙が枯れ果てたころ、旅人は立ち上がりました。そして竜に声をかけました。
「ごめんね、きみの兄弟をさがすことができなくて、そして君が友達になりたがっていた人間がこんなにも残虐で無知で怖い存在だったことを君に教えてあげられなくて」
旅人は竜の瞳の上をなでました。
「いままでさびしい思いをしてきただろうけど、これからは僕がずっといっしょにいるから」
「まだまだ話し足りないことがいっぱいあったから、これからはそれをゆっくり話していくね、僕は世界のいろいろなところを旅してきたんだ、話す種はいっぱいあるよ」
旅人は竜に向かって話しかけました。さて、これからどうしよう、まずは竜のお墓を作って、花を植えよう、そして、竜との短いけれど楽しかった日々を日記に綴ろう。
その日記は誰かに見てもらえるようここに残していこう。いつか誰かがこの洞窟を訪れたとき、この日記をみた人間に竜のことを知っていてほしい。
もし君が竜に出会ったら、どうかおそれないで、心を開いてほしいと。
とある昔の話、こことは違う世界のお話。
知性を持った竜がいました。竜は生まれてずっとひとりぼっちでした。
とても好奇心が旺盛な竜はいろいろなところに出かけてみました。
火を噴く山、広大な湖、果てしない川、果てしない川の先にあった大きな海。緑が深々とした山々、一面氷の世界、そして、自分以外の生きものに興味を持ちました。竜は大変賢く、その動物が話す言葉をすぐ覚えて、彼らと対話をしました。
多くの生きものが自分をみるとすごく怖がります。
それもそうでしょう、竜は誰よりも大きな牙を持ち、誰よりも大きな翼を持ち、誰よりもおおきな体を持っているのですから。
それでも、竜は生きものたちに話しかけました。自分と同じ姿の生きものがいない竜にとって、それはなによりも寂しいをまぎらわすことでした。
多くの生きものは、だんだんと話していくうちに、この姿の大きな生きものに警戒心を解いていきました。
そうして、竜はいろいろな動物と仲良くなっていきましたが、一つだけ気になっていることがありました。
それは、人間のことです。人間という生きものは、すべての動物たちから非常に嫌われていました。
「人間という生きものは非常に怖い生き物だ、僕たちを捕まえて食べようとしてくるからね」
「人間という生きものは、非常に怖い生きものだ、僕たちの住んでいる森の木を根こそぎ切りはらって自分たちの住処にしてしまうからね」
竜はいろいろな生きものたちから、人間の怖さを聞いていきました。でも、竜は好奇心旺盛ないきものでした。
もしかすると、自分と同じような姿の生きものかもしれない、仲間かもしれない、そう思いました。
そこで、竜は、人間の住んでいるところへあいさつに行ってみようと考えました。他の生きものたちに気付かれないように、そうっと、そうっと森を抜けだしました。
雲を通り抜け、雷を避けて、雪山を飛び越えて、何日も飛び続けて人間の住むところを探しました。
いくつもの山や森を抜けて、やっとのところで、小さな木の塊を組み立てたものが集まるところを見つけました。
そこには、他の生きものに比べて二本足で歩いてている毛の少ない生きものの影がいくつか見つかりました。
「もしや、これが人間なのでは?」
竜は興奮しました。やっと人間という生きものを見つけたからです。
さっそく建物がない開けたところに降り立ち、人間の前に立ちはだかりました。
言葉はある程度、聞きこまないと覚えられないのでまずは人間の前に立って声を発してみました。
すると、人間は「ひいいっ!!」と悲鳴を上げて一目散に竜の前から逃げ出しました。
最初は他の生きものたちも同じような反応していたから仕方がない。竜はそう考えました。でも、何回も何回も会ううちにみんな分かってくれたんだ、人間も同じように分かって仲良くしてくれるだろう、竜はそう考えて一旦、村を離れました。
次の日も同じく、人間の村にやってきて同じように話しかけてみました。人間の反応は昨日と同じく、みんな一目散に逃げてしまいました。
それでも、竜はあきらめませんでした。また、次の日村を訪れて人間に話しかけてみました。
すると、今度は人間は黒い筒のようなものを竜に向けてきました。竜はしばらくこれは何だろう?と見ていました。
すると、黒い筒からだぁんと大きな音が出て、竜の体に刺すような痛みが感じられました。
竜は、驚きました。人間はものすごいい顔で竜をにらみつけながらまた、黒い筒からだぁんと大きな音を発しました。また、竜の体に刺すような痛みが現れました。
竜は、とまどいました。人間とお話しして仲良くしたいと思っていたのに、何やら黒い筒が自分に向けられたときに自分の体に痛みが現れたからです。今まで、色んな生きものと会ってきましたが、こんなことは初めてだからです。
それでも、竜はあきらめずに、人間に話しかけてみました。
竜の話声は人間からすると獣のような声です。それが、かなりの大きな声なので人間は怖がってしまいます。
でも、竜にはそんなことはわかりません。人間とお話しをしてみたいと強く思っているのですが、人間にはそんな竜の心は伝わりません。
結局、何発かの銃弾を受けながらも、竜は人間たちには何もせずに村から離れるよう飛び立ちました。
竜は悲しくなりました。お話しして仲良くしたいと思っていたのに、怖い顔をされて、しまいには何やら黒い筒みたいなもので自分に攻撃をしてきたようだったからです。
竜は、他の生きものたちが言っているように、人間は怖い生きものなんだ、と思い人間から離れるよう山奥の大きな洞窟のなかにこもるようになりました。
それから、幾つもの時が流れたでしょう。ある日、竜は洞窟のなかでうとうととしていると、何やらがさごそと音がします。
薄目を開けてみると、人間がいました。暗闇のなかで回りが見えていないようです。がさごそと音がしているのは、袋のなかから何かものを出そうとしている音でした。
ふいに、ぽっと音がすると、火が周りを照らしました。そこで、初めて大きな竜が寝ているのを人間は発見しました。
「うわぁっ」と叫び声を上げて人間が尻もちをつきました。足が震えて腰が抜けて立てません。
「助けてくれぇ、食べないでくれぇ」と人間は震える声で話します。
竜は大きな瞳でじっと人間を見ていました。人間が何を怖がっているか分からなかったからです。
どれくらいの時間が過ぎたでしょう。人間は足の震えが収まり、顔色も真っ青から普通に戻ってきました。
人間はしばらく、竜が何もしてこないのをみると落ち着きを取り戻してきました。よく見ると竜の瞳は黒に近い青色でとても澄んでいることが分かりました。まるで、異国の夜明け前の薄明りを映す湖みたいに。
「あんたは俺を食べないのかい?」人間はそう竜にたずねました。
竜は話しかけられても、言葉の意味が分かりません。しばらくじっと人間を見ているだけでした。
そのうち人間は身振り手振りで言葉を交えながら竜に話しかけました。
竜はだんだんと人間の話す言葉が分かってきました。
かなりの時間を人間は身振り手ぶりを合わせて竜に話しかけていました。人間は竜にだんだん興味を持ってきました。
「ニンゲン、タベナイ」
竜はすこし言葉を覚えました。
人間は喜びました。竜が自分と言葉を交わすことができたことを。
それから、人間はいくつもの言葉を単語で、ときには指さしや身振り手振りで話しかけ、竜はそれを乾いた砂地が水を吸い込むようにすぐ吸収しました。
「きみは何を食べて生きているんだい?」
「タベナイ、ミズノム」
「お腹は空かないのかい?」「ワカラナイ」
「どうしてこんなところにいるの?」「ニンゲン、ボクキライ」
「人間が嫌いなの?」
「チガウ、ニンゲンコワイカオ、ボクミル」
「そうか、確かに見た目は怖いけどいいやつだよ君は」
「だって僕のこと食べないでいてくれたから」
「ボク、ミンナタベナイ、ナンデ」
「昔から竜はそう言われているんだよ、何故か」
「昔の人は竜にいやなことされたのかな?」
「ボク、シテナイ」
「うん、君はね、でも君の兄弟とか両親とか」
「キョウダイ?リョウシン?」
「君を生んだ竜のことが親、君と同じような姿の竜が兄弟だよ」
「イナイ、オナジ」
「ウマレテカラズットサガシテイル デモ ミナイ」
「そうか、不思議だな」「でも、自分と同じ生きものがいないのはさびしいよな」
「よし、僕も一緒に探してあげるよ、僕は旅人でこの世界の色んなところを見て回ったけど、君のような竜に出会ったのはこれが初めてだからね」
「もしかすると、この広い世界で君の兄弟に会えるかもしれない、だから一緒に探そうか」
「ウレシイ、アリガトウ」
こうして、旅人は竜と仲良くなり、竜の兄弟を探すことを約束しました。
とはいえ、大きな体の竜を一緒につれて歩くことは難しいでしょう。
いくら言葉を覚えてきたといっても、あの大きな姿は人々に怖い思いを抱かせるでしょう。
そこで、旅人は考えました。
まずは、自分がいろんな人に竜のことをたずねてみて、めぼしい話を聞けてから竜を連れ出そうと思い、竜にそのことを話しました。
竜はうなずきました。自分がまだ人間に怖い思いをさせてしまうことを考えて少し悲しくなりました。
でも、こうして旅人という人間の友達に巡り合えたこと、旅人が竜の為に手伝ってくれることをとてもうれしく思いました。
こうして、旅人と竜はいったんお別れしました。
旅人は王様の住んでいる都を目指して歩いていきました。都には多くの物知りがいる。きっと竜のことを知っている人がいるだろうと考えてのことでした。
何日も何日も歩き続けて王様の住む都、この国で一番大きな街にたどり着きました。
何日も歩いて疲れ果てた旅人は住む宿を決めて少し眠りました。その後、休んでいる宿の下の階ではざわざわと人々のさわがしい様子が聞こえてきした。ときはもう夕方を過ぎたころです。
この時間を旅人は待っていました。夕方を過ぎると、宿の食堂は多くの人で賑わっています。その中には、お城に勤める人もいるでしょう。旅人はお城に勤める人に話しかけました。
「そこのあなた、ちょっと聞きたいのだけど、お城に勤めている人だよね」
お城に勤める人は役人といって、特別な柄の衣装をまとっています。
「そうだが、きみは何なんだい、せっかくたのしく食事をしているのに」
「お城の賢者さんにお聞きしたいことがあるのですが、どうやったらお会いできますか?」
役人は顔をしかめました。
「なんだって突然に、賢者さまはお忙しい人だからな、なかなかお会いできないよ」
「実は竜のことで賢者様にお聞きしたいことがあるのです、私は竜と友達になりました、でも竜は自分の仲間がいなくてさびしそうにしています、だから、竜の仲間のところに連れて行ってあげたいのです」
「ほらをふくな、ばかもの、竜なんているわけないだろう」
いや、本当です、竜は人間の言葉を少しですが話すことができます」
「酔っ払いにはつきあってられないな」
そういって役人は同じテーブルの仲間たちと話し始めました」
「わかりました、竜をここにつれてくれば信じますか?」
役人たちは顔を見合わせて大笑い。
「いいだろう、竜でも巨人でも連れてくれば信じるさ」
そう言って役人たちはまた大笑いしました。旅人は自分と竜のことを馬鹿にされたと思い悔しくなりました。
「わかりました、竜を連れてきます、そのかわり皆さんは逃げたりしないでください」
そう言って顔を赤くした旅人は食堂を後にしました。
そのまま、すぐに町を出て、竜の住む洞窟に向かっていきました。
怒りで肩をいからせながら旅人は竜の住む洞窟へと急ぎ足で向かいました。
そして、竜の洞窟にたどりついたときに、街でのいきさつを竜に話しました。
竜は澄んだ瞳でじっと旅人を見ながら話しをよく聞いていました。そして
「ワカッタ、キミノイウトオリマチニイコウ」
竜は旅人の言う通りにしようと思いました。そして、旅人を乗せて、街までひとっとびに飛んでいきました。
竜は旅人を乗せて街の門のところに降り立ちました。
すると、街の門番はたいそう驚いて腰を抜かしました。
「ひいぃ、怪物が来たぁ」
門番は腰を抜かしたまま、四つん這いで街のなかへと逃げ去っていきました。
旅人はそのままずんずんと歩き宿屋の酒場に向かっていきました。
時は折よく昼食時でした。先日話しかけた役人は仲間と食堂で昼食をとっていました。
それを見つけた旅人は誇らしげな顔で役人に近づき話しかけました。
「お食事中失礼します。先日お話ししました竜を連れてきましたのでご覧ください」
役人は不機嫌になりました。食事を邪魔されたと思ったからです。
「なんだ、先日のほらふきか、今は食事中なんだ、後にしてくれないか」
そういった後、食堂の外では人々が大騒ぎをしている声が聞こえてきました
「なんだ、今日はずいぶん外がさわがしいな、いったい何があるんだ、祭りはまだまだ先だぞ」
旅人がその問いに答えました。
「私の連れてきた竜を見て人々が騒いでいるみたいです、でもご安心を、竜は優しくて人など食べませんから」
旅人は役人に誇らしげに話しました。
役人は気になって、食堂の外に出てみました。人々が大騒ぎで街の中心のほうに逃げていきます。あまりの人の多さに役人は何度も逃げまどう人々にぶつかり倒れそうになりました。
役人は人々の逃げる方向とは反対に向かって歩いていきました。やがて、街の出入り口の門にたどり着きました。その時、役人は目を見張りました。
これまでみてきた動物よりもはるかに大きな姿、翼が生えているが、鳥というには、けわしい顔をしていてとかげに近い顔立ちをしている。四つん這いに座っている手から鋭そうな爪が生えている。
竜は、役人に気付き目を向けました。すると、役人はひどくおののき竜のほうからくるりと向きを変え一目散に逃げました。
旅人は逃げてくる役人に話しかけようとしましたが、役人は真っ青な顔で旅人を突き飛ばして一目散に街の中心に逃げていきました。
旅人はがっかりしました。せっかく役人の言う通りに竜を連れてきたのに肝心の役人は逃げてしまいました。
しかたがない、と思い竜に少しだけ待っててもらうよう話しかけました。そして再びお城に行って直接賢者さまに竜のことを話そうと思いました。
今度はみんな見たんだから信じてくれるだろう。
旅人はお城の受付口に向かい、受付役人に話しかけました。自分は竜の友達だ、竜のことについてお城の賢者様にお話ししたい、と。
しばらくお城の受付口で待っていると、、頑丈な鎧に身を包んだ兵士が二人、旅人の近くに来てこう言いました。
「あなたが竜をつれてきた旅人か」
「そうですが、そのことで賢者様にお会いしてお話ししたいのですが」
旅人の言葉を聞いた兵士は怖い顔で旅人押さえつけ縄できつくしばりました。そして、罪を犯した人が入る牢屋へと押しやられました。
旅人は訳が分かりません、竜のことでこの世のいろんな事にくわしい賢者様に話を聞こうとしただけなのに、どうして牢屋に入れられてしまうのだろうか
不安と怒りが混じった気持ちのまま牢屋のなかに座り込んでいた旅人は何人かの足音が近づいてくるのを聞きました。
足音が近づいてくる方向に顔を向けてみると、豪華な衣装と冠をつけたひげを長くたくわえた人物が従者を連れて旅人の牢屋の前に立っています。
「お前がこの街に竜を連れてきたものか」
そう問いただす目は冷たくあたかも重い罪をおかした罪人をみるような目でした。
旅人はその眼を見てすこし怖くなりましたが、応えました。
「そうです、竜は僕の友人です、あなたは誰ですか」
「私はこの街の王に使える賢者だ」
賢者は冷たく言い放ちました。
旅人は念願の賢者に会えたことですこし気が晴れてきました。ただ、どうして罪人のような仕打ちをうけるのか分かりません。
「賢者様、お願いです、竜は心が優しくさびしがりです。竜の親や兄弟に会ってみたいと話していました。竜の仲間がどこにいるかご存じではないですか」
賢者は旅人の言うことなどみじんも信用していませんでした。
「古来、竜は災厄をもたらす生きもの、神と人間の敵だ、そのような恐ろしいものの存在などこの世にはあってはならぬ」
賢者は厳しい言葉を旅人に言いました。それでも旅人は竜のことを思い言い返しました。
「そんなことはありません、最初はわたしも怖がりましたが、だんだんと話しかけていくうちに私たちの言葉を覚えて仲良くなりました。竜は誤解されています、私たち人間を食べようとなどしません、ただ、仲良くしたいと言っていました」
「馬鹿な、そんなことあるものか、古来より神の敵である竜はずる賢く神とそのしもべたる人間に悪さをしてきたと言い伝えられている」
「昔はそうかもしれませんが、あの竜はそんなことしません、信じてください」
「そんなことを言うお前も竜のしもべとして心を操られているのだろう」
「明日の朝、騎士団を連れて竜の討伐に向かうことにした」
「お前は竜に操られているのだろうから、竜をしとめるまでは悪事を行わないよう牢屋にいなさい」
そう言って賢者は従者とともに牢屋から離れていきました。
賢者が従者をひきつれて牢屋から離れたあと、旅人は涙をこぼしました。どうしてなにも悪いことをしていないのにやられなくてはいけないんだ、ただ友達が欲しかったさびしがりやの竜、あの大きな姿でみんなに恐れられるけど本当は賢いやつなんだと。
ひとしきり泣いた後、旅人は牢屋を出るための方法を考えました。一刻も早く竜にこのことを知らせなければ。ここを出て早く竜に知らせないと。逃げてと伝えないと。旅人はあせりました
力のかぎり牢屋の鉄格子を叩いたり、ひっぱったりしました。思いっきり壁や鉄格子に体当たりをしてみました。しかし頑丈な牢屋はびくともしません。
今度は旅人は目いっぱいの大声で叫びました。
「お願いだ!ここから出してくれ!」
何度も何度も力の限り、声が枯れるまで叫びましたが、牢屋の番人は聞く耳を持ちません。旅人の叫びはむなしく牢屋に響き渡るだけでした。
その間に、賢者は王様に竜のことを話しました。王様は賢者の言い様にたいそうおびえて早速賢者に竜を征伐するよう命じました。
がちゃがちゃと重い音を立てて甲冑を着込んだ騎士たちが街の門に大勢かけつけました。
騎士たちは門の外の草原に座り込んでいる竜を取り囲み、先頭に立つ騎士がこう言いました。
「人々に害をなす神の敵、竜よ、いまこそわれら騎士団が征伐してくれる!」
そう宣言し仲間に向かって突撃の号令すると騎士たちは竜に向かって剣や槍を構えて突進していきました。
いきなり騎士たちに切りつけられた竜は驚きました。自分に向かって話しかけてきたと思ったら今度は鋭いもので自分を傷つけてきます。
たまらず竜は空の上に飛び立ち、洞窟に向かって戻りました。
竜は困惑しました。旅人が自分の仲間を探してくれると言って、街にでたあと、出てきた人間たちは怖い顔で自分をひどく傷つけてきます。どうしてなんだろう、どうしてなんだろう・・。
竜は洞窟に帰り、傷ついた身体を休ませようとひと眠りしました。
それから、どのくらい時間が経ったでしょう。洞窟の入り口のほうから人間の声と甲高い硬いものが触れ合う音が聞こえてきます。声と音はだんだんと近づいてきます。
幾つもの炎のあかりが洞窟を照らしました。そのあかりを持った人間たちが大勢います。手に手に鋭く光るものを持ちながら。
「いたぞ、竜だ、ここに潜んでいたぞ」
先頭の人間が大声で叫びました。それに続いて後ろの人間たちも大声で声を張り上げています。
竜は怖くなりました。人間たちが自分の住んでいるところまで来て、とても友好的とは思えない声を張りあげています。
竜は怖さを噛み殺しながら懸命に声を出しました。
「ニンゲン、ボクコワクナイヨ」
怖がらなくてもいい、そう人間たちに言い聞かせたつもりでした。ですが、
「我々を恐れないとは、やはり邪悪な神の敵、竜よ討伐してくれる」
そういうや否や先頭の人間は、剣を振りかざし竜に襲いかかりました。それに続いて後ろの人間たちも剣や槍を構えて竜に突進していきました。
興奮する人間の雄たけびが洞窟内に響き渡り竜を取り囲みました。
街のほうでは、旅人はどうしていたかというと、牢屋の中で幾日も過ごしていました。最初は牢屋から出るために、何でもやれることはやりました。
しかし、頑丈な牢屋は壊せるわけがありません。次に牢屋の門番に話しかけ、説得をしようとしていましたが、門番は街での竜の噂を聞いているため、この男は竜を従える悪いやつだと考えているようでしたので、旅人の説得は門番には効きませんでした。
あらゆる方法を考えてみましたが、牢屋を出る方法が無く途方に暮れて幾日も過ごしていました。
今頃竜はどうしているかな、見た目が怖いけど本当はさびしがりやで、好奇心旺盛な、心が優しい竜。ほんの数日でしたが、旅人は竜のことが大好きでした。
牢屋で幾日過ぎたのか分からなくなるくらい、ある日門番が旅人の牢屋の前に立ちました。
「賢者様がお呼びだ、出なさい」
門番は無表情で旅人に言い放ちました。
旅人はあっけにとられましたが、すぐに気を取り直しました。そして、心に希望が芽生えました。もしかしたら、竜はみんなを説得してくれたのだろう。
門番に連れられて旅人は賢者の仕事部屋に通されました。賢者は机に向かってなにやら書類を書いています。ちら、と横目で旅人を見てすぐに机の書類に目を向けながら言いました。
「お前はもう牢屋を出ていいぞ、竜は討伐されたから」
旅人は言葉を失いました。賢者様はどういう意味でそのことを伝えたのでしょう。
「竜が討伐されたのですか・・・・」
賢者はわずらわしく横目で旅人をちらりと見て、また机の書類に目を落としました。
「そうだ、我が国の勇敢なる騎士たちの大いなる犠牲をもって神と我が王に災いをもたらす竜は討伐された、お前も邪悪なる竜の支配から解放されたのだ、もうどこへなりとも行きなさい」
旅人は茫然としました。目の前が真っ暗になり、あやうく倒れそうになりましたが何とか体を持ちこたえさせて賢者の仕事部屋から出ていきました。
旅人は信じられませんでした。ですが、城を出ると、人々は、祝福のお祭りを催しています。
旅人は騒がしい街中を急いで駆け抜け、街を出ました。
そのまま、竜の住む洞窟へと一目散に駆けていきます。
そんなの嘘だ、竜は賢いから死んだふりをして騎士たちをやり過ごしたんだろう、それか騎士たちを僕と同じように話しかけて説得し、嘘の報告をするようにしたんだろう、今もあの洞窟ですやすやと寝ているに違いない、僕の帰りを待っているだろうな、竜はさびしがりやだから帰ってまたいろいろ話をしなくちゃ、
頭のなかでいろいろな事がごちゃごちゃと混ざっています。それでも旅人は足を止めません。ひたすら竜の無事な姿を確認したいと思いながら。
息が切れて呼吸が苦しくなりました、脇腹もずっとずきずきと痛んでいます、それでも旅人は夜も昼も関係なくひたすら竜のいる洞窟へと向かいました。
疲れと空腹で途中で旅人は気を失ってしまい倒れてしましました。それでも旅人は少しだけ休んで水を飲み、また再び急ぎ足で洞窟へと向かいました。
幾日も幾日もかけ続け、とうとう竜の洞窟にたどり着きました。
息は切れてしゃべる事も出来ないくらいに疲れています。
足もずっとかけ通しでがくがくと震えています。
それでも旅人はお構いありません。ただただ竜のことが心配でここまで急いで駆けつけました。
洞窟のなかは暗く静かです。
竜は寝ているんだろうな、そう旅人は思いましたが、汗がとまりません。これは急いで駆けてきただけのものではないことを旅人は感じています。嫌な予感、気持ち悪い雰囲気が旅人を包んでいました。
「おーい、僕だよ、帰って来たよ!」
旅人は力を振り絞り洞窟の奥に向かった声を張りあげました。
自分の声が洞窟の奥から帰ってきます。それ以外の物音はしません。
「竜―!寝ているのかい?僕が帰って来たよー!」
大きく声を張りあげましたが、またも帰ってくるのは自分の声だけでした。
旅人は顔が真っ青になりました、気持ちの悪いものがお腹の中から口に向かって逆流しそうでした。
旅人は竜がいつも寝ているところへ向かって走りました。口から酸っぱいものがこみ上げてききましたが、我慢して飲み込みました。
そして、洞窟の奥の開けた場所にたどり着きました。いつも竜が体を休めているところです。旅人はたいまつを付け灯りをともしました。そこから見える光景に旅人はがくんと膝から崩れ落ちました。
洞窟のなかは、壊れた甲冑と折れた剣や槍、無数のたいまつの跡、そして血だらけになって息絶えた竜の大きな姿がありました。
旅人は声にならない泣き声をあげました。幾日も走ってきて汗も出ないくらい疲れ果てているにも関わらず、両の瞳からは滝のような涙が流れだしました。
旅人は竜の横たわっているところに近づき、竜の顔をぎゅうと抱きしめてただひたすら泣いていました。
どのくらいの時間が経ったでしょう。涙が枯れ果てたころ、旅人は立ち上がりました。そして竜に声をかけました。
「ごめんね、きみの兄弟をさがすことができなくて、そして君が友達になりたがっていた人間がこんなにも残虐で無知で怖い存在だったことを君に教えてあげられなくて」
旅人は竜の瞳の上をなでました。
「いままでさびしい思いをしてきただろうけど、これからは僕がずっといっしょにいるから」
「まだまだ話し足りないことがいっぱいあったから、これからはそれをゆっくり話していくね、僕は世界のいろいろなところを旅してきたんだ、話す種はいっぱいあるよ」
旅人は竜に向かって話しかけました。さて、これからどうしよう、まずは竜のお墓を作って、花を植えよう、そして、竜との短いけれど楽しかった日々を日記に綴ろう。
その日記は誰かに見てもらえるようここに残していこう。いつか誰かがこの洞窟を訪れたとき、この日記をみた人間に竜のことを知っていてほしい。
もし君が竜に出会ったら、どうかおそれないで、心を開いてほしいと。
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