Prisoners

水原渉

文字の大きさ
14 / 17

14

しおりを挟む
 アジトに戻った三人は、イルエグルと五人の諜報員を集め、戦果を報告することになった。彼らが城に潜入したところまではイルエグルが確認しており、こうして無事に戻ってきたのだから、暗殺は成功したのだろう。
 時間はすでに朝になっており、彼らがかなり長時間城に潜入していたことや、その割には騒ぎが少なかったことなど、若干の不自然さは否めなかったが、彼らの姿には交戦の跡もあり、暗殺の成功は疑いようもなかった。イルエグルはノーシュの計画など思い付きもしなかった。
「計画は成功したよ」
 ノーシュが静かに言って、諜報員たちの顔にぱっと明るいものがよぎった。
「そうか、よくやったぞ、お前たち!」
 珍しくイルエグルが嬉しそうに声を上げる。諜報員たちも手を取り合った。
 ノーシュも表情に喜びを出し、椅子から立ち上がると、笑い合っている二人の諜報員の肩に手を乗せた。サレイナはいささか緊張した面持ちで、他の二人と手を重ねる。
 そしてユウナは、出来る限り明るい笑みを浮かべて、すっとイルエグルに手を差し伸べた。イルエグルは妙にしおらしいユウナに首を傾げたが、気分が昂揚していたのでそれ以上の疑いは持たずにその手を握った。
「よくやったぞ、ユウナ」
「ええ、ありがとう。でも、計画はまだ途中なのよ」
 言い終えるや否や、ユウナはイルエグルともう一人の諜報員に“催眠”の魔法をかけた。
「な、何……?」
 イルエグルは咄嗟に抵抗するが、聖女シンシアの娘の魔力に抗えるはずもなく、あっさりと床に崩れ落ちた。
 息をついて顔を上げると、ノーシュとサレイナも安堵の表情で立っており、ブラウレスに忠誠を誓っている六人は並んで床に伏していた。
「計画は順調だな」
 ノーシュは不敵に笑いながらダガーを抜いた。
 イルエグルと諜報員をどうするかは、最後までノーシュを悩ませた問題だった。本来ならば、生かしておいて、暗殺が成功したことを彼らの口から国に報告させた方が良い。けれど、アルブランスはすぐに開戦の準備を始めるだろうし、そうなればその情報はアルブランスが動くよりも先にブラウレスに届くことになる。
 一人だけ生かし、ブラウレスまで同行させて、ノーシュか誰かがアルブランスに戻って他を抹殺することも考えたが、それも計画をより完璧に遂行するために没になった。というのは、計画の第三段階はこれで終わりではないからだ。
 ノーシュとユウナは眠っている男たちを殺害した。なるべく返り血を浴びるようにしたのは言うまでもない。
 三人はすぐに出発の準備を始めた。彼らの死体に関しては、アルブランスの人間が処理してくれることになっている。
 血まみれの黒装束を袋に詰めて外に出ると、そこにはこれからしばらく一緒に旅をすることになる一団が待っていた。アルブランスの暗殺者部隊である。先の襲撃事件でその数を減らしていたが、壊滅したわけではなかったのだ。
「まさか、一度は命を奪い合ったお前らと手を組むことになるとはな」
 苦笑したのは、リーダーのゴートである。すでに40歳を過ぎ、その腕前は一流であった。先の襲撃事件にも参加し、失敗を悟って脱出に成功した一人である。ノーシュは彼に見覚えがなかったが、ゴートは二人の戦いぶりを見ていた。
「ごめんなさい。仕方なかったのよ」
 ユウナが頭を下げると、ゴートは軽く手を振ってそれをやめさせた。
「恨んでいるわけじゃない。話は聞いたし、今は味方だ。計画が成功したら、いずれはともに酒を飲み交わす仲になるかも知れんしな」
 明るく笑うゴートを見て、ユウナは顔を綻ばせると同時に、人生の奥深さをしみじみと感じていた。
 ゴートも、ノーシュやユウナに大切な仲間を殺されたかも知れないし、スーミやヨィリーを殺したのはこのゴートかも知れない。にも関わらず、今はこうして手を握り、笑い合っているのだ。
 ユウナは一瞬スーミのことを思い出して表情を暗くしたが、すぐにそれを取り払った。
(この人たちと私たちが戦ったことに、一切の個人感情は入ってなかった。例えこの人がスーミを殺したんだとしても、恨むべきはこの人じゃない。この人は私なんかよりずっとそれをわかっているんだ)
 隣を見ると、ノーシュとサレイナも同じように、ゴートの部下と握手を交し合っていた。皆、本当に出来た人間だ。感情がないはずがないのに、それを押し殺すこともできれば、物事を割り切る術も持っている。
 ユウナは甚大な魔力を得、戦い方を覚えた今、今度はもっと精神的に強くならなければいけないと思った。

 ノーシュの計画の第三段階は、アルブランスとブラウレスの間にある、ブラウレスの二つの見張り塔を抑えることだった。通常、戦いの際はこの見張り塔から狼煙を上げて、ブラウレスの城に知らせることになっている。
 ノーシュはこの見張り塔の情報をほとんど持ち合わせておらず、それが心配の種になっていたが、アルブランスはこれに関する驚くほど詳細な情報を持っていた。
「俺自身、何度か偵察に入ってるからな。制圧しようと思えばいつだってできるさ」
 事前にゴートはそう笑っていたが、事実彼らは鮮やかな仕事ぶりで見張り塔の一つを占拠した。もちろん、狼煙を上げさせることも、見張りの兵士を逃がすこともなかった。
 計画は速やかに実行されなければならない。
 彼らは数人を塔に残すと、すぐに次の塔へ向けて出発した。そして、ブラウレスの街まで馬を駆って一日という距離にある塔に達すると、今度は魔法使い主導でこれを制圧した。
「俺たちにできることはここまでだ」
 塔の頂上から遥か彼方のブラウレスの城を見つめながら、ゴートが低い声で言った。
 ノーシュは静かに頷き、必ず城門を開けることを約束した。
 これからゴート率いる暗殺者部隊は、一部を報告のためにアルブランスに返し、残りはここでブラウレスの動向を見守ることになっている。ノーシュたちが城に戻れば、ブラウレスは確認のために密偵を派遣するだろう。これを撃退するのがゴートの役目だ。
 アルブランスは、決して大軍を率いてブラウレスを落とすつもりはなかった。城門さえ開けば少数でも勝てる。その少数精鋭部隊がブラウレスに着くまでに存在を気付かれないようにする。ゴートは命に換えてもこの使命を果たすつもりだった。
 ノーシュたち三人は馬にまたがり、一度だけ見張り塔を振り返った。ここから先、彼らとは一切の連絡を取ることができない。万が一城門を開けても、アルブランスの軍隊が来なかったら。万が一その前にタンズィに気付かれてしまったら。
 緊張に高鳴る鼓動を抑えられず、ユウナが硬い表情でいると、サレイナが明るい笑顔で言った。
「もう引き返せないのよ、ユウナ。どう転がっても、やるしかないのよ」
「わかってるわ。サレイナは怖くないの?」
 サレイナは少しだけ瞳を落としてから、その質問には直接答えずにこう言った。
「死ぬとしても助かったとしても、私たちはずっと一緒だからね。約束よ?」
 決意の眼差しで見つめられて、ユウナは力強く頷いた。
 流れる川は、海に着くか干上がるしかないのだ。
「じゃあ、いよいよ計画最終段階だな」
 ノーシュの低い声に、二人は真剣な瞳で頷いた。
 前方にブラウレス城の高い城壁が見えてきた。

 ブラウレスに戻ると、タンズィは真っ先にイルエグルの不在を訝しみ、それについて言及した。ノーシュはすぐに用意していた作り話を話した。
 それは、三人は暗殺には成功したが、アルブランスの暗殺者に追われ、アジトで戦闘になったというものである。もちろん、信憑性を増すために、暗殺に成功した人数は国が掲げたリストよりずっと少ないものになっていた。
 タンズィはしばらく細い目でノーシュを見つめていたが、彼がいつもの無表情でいたので、やがて二人の少女に視線を移した。
 サレイナは内心の焦りを隠し切れずに、思わずびくっと肩を震わせて俯いた。けれど、彼女は元々気の弱い娘であり、タンズィに睨まれただけで怯えることはよくあった。だからタンズィもサレイナの反応を大して気にかけず、心の底まで見透かすようにユウナを見つめた。
 ユウナは苦労して帰ってきた部下に対して、労いの言葉をかけるどころか、まず怪しむことから始めるタンズィに腹が立ったが、その怒りは無理矢理押し殺した。もうじきすべてが終わるのだ、我慢しなくてはいけない。
 結果として、その我慢がいけなかった。
 タンズィは何も言わずに彼らを城に連れて行くと、重臣の集まった部屋で詳細な報告をさせた。ノーシュはタンズィに話した内容よりさらに詳細を話し、重臣の質問にも答えた。
 彼らの質問と言えば、城の構造はどうだったかとか、殺した相手の顔はどうだったかと言ったもので、それは明らかに成功を疑っているものばかりだった。
 ノーシュはそれに淡々と答えていたが、ユウナは思わず拳を握って怒りに肩を震わせていた。
(この人たちは、命をかけて戦った私たちを疑うだけなの?)
 いつものユウナならば、相手が誰であろうとそれを言葉に出していただろう。けれど、実際は戦っていないのである。だからユウナは怒りを噛み殺して黙っていた。
 報告を終えると、三人はタンズィに連れられて施設への道を歩いていた。
 やがて施設の壁が見えてくると、不意にタンズィが足を止めてユウナを振り返った。
「ユウナ、今日は珍しく静かだったな」
「え……?」
 思わず顔を上げ、ユウナは驚いた表情になる。心臓が早鐘のように打った。
「べ、別にそんなことないわ。たくさん人を殺して、疲れたのよ。仲間だって殺されたし、私が黙っていたら、そんなにおかしい?」
 反論する声が上擦っていたのを、ユウナ自身気が付いていた。もちろん、タンズィもである。
「おかしいな。それに、疲れているようには見えなかったぞ? 俺には、言い返したいのを我慢しているようにしか見えなかった」
「が、我慢はいけないことじゃないでしょ? あんなところで偉い人たちに歯向かったら、またあんたに怒られるじゃない! 私、嫌よ? そんなことで子供たちを殺されるなんて!」
 タンズィがサレイナを見ると、少女は哀れなほど身体を強張らせて首を振った。
「サレイナ、お前はずっとユウナと一緒にいたのか?」
「え、ええ、もちろんです。ノーシュともずっと一緒にいました。ううん、一度だけユウナと二人で城を偵察に行きましたけど、ユウナとは離れませんでした」
「夜は? 夜中は? 寝ているときは? お前はユウナと手をつないで寝ていたのか? “催眠”の魔法をかけられなかったという保証はあるか? ノーシュ、お前もだ」
「そ、そんな! タンズィ、あんた、どうして私を疑うの!? 私みたいなブラウレスを出たことのない孤児院育ちが、一体アルブランスで何ができるって言うの!」
 ユウナは泣きそうになって叫んだ。もしも嘘が発覚したらすべての計画が終わってしまう。自分を信じてくれたヨハゼフも裏切ることになるし、サレイナや子供たちの命もないだろう。
 タンズィは細い目をしたまま答えた。
「お前が、自分の父親のことを知らない保証がない」
 その言葉に、ユウナははっとなった。彼女の父オムラン・アドレイルは、アルブランス国王ヨハゼフの親友なのである。それに、シンシア・ファーリンはアルブランスのために働いた人間であるし、もしもユウナの素性がわかれば、彼女はアルブランスで歓迎される人間なのだ。タンズィはそれを熟知している。
 実際にユウナは歓迎された。ノーシュの計画が上手く運んだのも、ユウナの血筋のおかげであると言って過言ではない。ユウナはすぐに知らないことを主張しようとしたが、少女の動揺に気付かないほどタンズィは愚かではなかった。
「やはり、お前はオムラン・アドレイルを知っていたな。そして、ノーシュにもサレイナにも内緒で何か企てた」
「違う! 私は何もしてない! 何も知らない!」
「ノーシュ! 後でこいつを縛って特別室に連れて来い。自白させる」
「そ、そんな!」
 ユウナはついに泣き出した。
「本当に私は何もしてないの! 信じて、信じてよ!」
 もちろん、少女の哀願など通じる相手ではない。ユウナを睨み付けるタンズィの顔にいつもの残忍な笑みはなく、心から国のために少女を拷問にかけようとしているのは明白だった。
 ユウナは一瞬、いっそここでタンズィを殺してしまったらどうかと思った。けれど、タンズィは瞬殺できる相手ではないし、騒ぎになればもはや自分の命も子供たちの命もこれまでだ。そればかりか、計画も台無しになり、アルブランスにも甚大な被害を与える。
「私は、何もしてない……。ノーシュ、サレイナ、助けて……」
 ユウナは膝をつき、声を上げて泣いた。サレイナはそんなユウナの身体を抱きしめ、一緒になって泣いたが、ノーシュは相変わらずの無表情で二人を見下ろしていた。
「サレイナ、お前も来い」
 タンズィは一言そう言うと、そのまま城の方へ戻っていった。子供たちを連れてくるのかも知れない。
「どうして、こんなことに……」
 唇を噛んだノーシュの声が、静かに風に流れて消えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...