ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

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番外編 インバウンド(7)

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※(6)からそのまま繋がっています。

  *  *  *

「さあ、動物を狩りに行こう!」
 食事を終えると、涼夏が元気に拳を振り上げた。係の人がいたら飛んで来そうな台詞だ。紅葉狩りと同じで、本当に狩るわけではない。
 まずはフードコートの向かいにいる、エゾヒグマである。エゾヒグマは北海道に棲息するクマで、北海道でクマが出たと言ったら、基本的にはこのエゾヒグマを指す。たぶん。名前から勝手にそう判断した。
「でかいな。勝てる見込みがない」
 黒い巨体で悠然と佇んでいるクマを見ながら、涼夏が降参だと腕を組んだ。クマ舎には他にマレーグマも飼育されているが、エゾヒグマを見た後だと、4人がかりなら勝てそうな気がした。実際には無理だろうけど。
「マレーグマはマレーシアに棲息している」
 急に奈都が得意げにそう言ったが、それは名前から想像できる。いや、今のはマレーシアのカニである設定から来た発言と捉えるべきだろう。
「カニは食べられる」
「クマはカニは食べない。知らないけど」
 私も知らないが、何となく食べない気はする。そのまま食べると口の中が痛そうだ。
 ホッキョクグマを横目に見て歩き、大人気のコアラ舎をスルーしてタヌキの里にやって来る。何度か見ているはずだが、まったく記憶にない程度には、私はタヌキに興味がない。1頭しかいないかと思ったら、思ったより多頭飼いでテンションが上がった。
「私の想像したタヌキよりは、キツネの顔をしてる」
「どっちもイヌだからな。タヌキもキツネもイヌだ」
 涼夏が写真を撮りながらそう言った。何の説明も見ずに言っているが、声の力強さからすると知っているのだろう。絢音はあまり動物に興味がないので、涼夏の方が詳しそうだ。
 ちなみに、日本でタヌキと言えばホンドダヌキを指すようなので、私のタヌキのイメージは随分他の何かに引っ張られている。
「タヌキって、もっと丸っこいイメージだった」
「イラストだとパンダみがあるな」
「パンダはネコ? イヌ? パンダ?」
「パンダはネコでもイヌでもパンダでもなく、クマだ」
 涼夏がやはり知っているようにそう断言した。奈都が「パンダじゃない……」と呟いて、絢音がくすくすと笑った。
 それから大体同じ区域にいるニホンリス、ホンドザル、ニホンカモシカ、ツシマヤマネコを見学して、ふれあい広場でヤギとたわむれた。もちろん絢音は近付かないので、撮影係だ。
「ヤギはヤギだね。アカカンガルーとかインドサイとかホンドタヌキとか、そういう固有の名前が書かれてない」
 絢音がスマホで公式サイトの動物一覧を見ながら言った。他にもコアラやライオン、カバなどもシンプルに種族名が書かれているそうだ。
 気になったので私も調べてみると、確かにインドサイはサイ科で種がインドサイだが、ヤギは種がヤギだった。ライオンも同じだ。アカカンガルーはカンガルー科で種がアカカンガルー。つまり、サイトには種が掲載されていると考えられる。
「ヤギはヤギなんだなぁ」
 涼夏がヤギをもふもふしながら言った。普段はあまりそういうそぶりを見せないが、結構動物好きだし、知識も豊富だ。
「ヒトは種がヒトだって。奈都を檻に入れて、『ヒト』って書いて展示したい」
「チサと一緒に入って、『ヒトのつがい』って書いてもらおう」
 奈都がヤギとツーショット写真を撮りながら、私の言葉をさらっといなした。メス同士でもつがいと呼べるのかはわからないが、動物界にも多様性の波が来ている可能性はある。
「昔はヒツジもいたみたい。っていうか、結構頻繁に入れ替わってる」
 ふれあいにはまったく興味がなさそうに、絢音がスマホと睨めっこしながら言った。もう少しヤギに興味を持って欲しいが、得手不得手はあるので無理強いはよくない。
「入れ替わるっていうのは、つまりお亡くなりになってるってことだな」
 涼夏が手を合わせると、絢音が楽しそうに言った。
「ホンドギツネは逃げたって」
「まるで動物だな」
「インバウンドに嬉しいホンドシリーズだったのにね」
 二人がケラケラと笑った。奈都が何か言いたそうに私を見たので、そっと目を逸らせた。いつもの演目なので温かく見守って欲しい。
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