ほのぼの学園百合小説 キタコミ!

水原渉

文字の大きさ
340 / 387

番外編 フォトコンテスト(3)

しおりを挟む
 それからバスを使って神社やお寺、公園や池をいくつか回った。中には気の早いカモがいたりもしたが、それこそスマホのカメラでは太刀打ちできない。
「結局、広角でその場所を大きく撮って、さりげなく私たちが入るくらいしか出来ないな」
 休憩に入ったカフェで、涼夏がカメラロールに指を滑らせながら、無念そうに息を吐いた。公園では遊具ではしゃいだ写真も撮ったが、被写体が子供ならまだしも、高校生では遊具を占拠している邪魔な大人にしか映らない。
「十分楽しいけど、受賞となるとどうかな」
 奈都が同じように写真を見ながら言った。隣から覗き込むと、明らかにコンテストとは関係ない、みんなのアップの写真が並んでいた。まあ、4人で同じ写真ばかり撮っていても仕方ないので、こういう写真も有り難い。
 ケーキとドリンクが並べられると、いつものように映える写真を撮った。ケーキはとても美味しくて、ぶっちゃけ今日一番おすすめのスポットはこのカフェなのだが、それはフォトコンテストとは関係ない。涼夏がSNSにアップしたので、それでよしとしよう。
 1時間くらいくつろいでカフェを出ると、淡い青空が広がっていた。元々晴れが優勢ではあったが、ここに来て雲が一掃された。とは言え、もうじき日の沈む時間である。少し風も出てきた。
「夕日が見れそうだし、河原で芸術的な夕日の写真を撮ろう」
 私がそう提案すると、涼夏に「相変わらず夕日大好きだな」と笑われた。今のは私の好みとは関係ない提案だったが、夕日が好きなのは間違いない。
 適当なバスに乗って天城川の近くで降りる。バスの中で目指す緑地の距離を調べてみたが、800メートルはまったく問題なかった。
 ちなみに、河川敷の緑地からは、橋はもちろん、特徴的な護床工も見られるらしい。護床工というものをまったく知らなかったので絢音に聞いてみたが、さすがにわからないと言われた。
「人生で初めて聞くね。読み方もわかんない」
 そう言いながら、絢音がスマホで検索する。どうやら河川の洗掘を防止する目的で置かれるものらしいが、洗掘もまた生まれて初めて聞く言葉だった。川の流れによって土砂が洗い流されることだそうだ。
 画像検索してみたら、川に置かれた無数の白いコンクリートブロックが表示された。今後どこかでこのような構造物を見かけたら、護床工だと当たり前のように口にしよう。
 これから向かう護床工は、そういうブロックではなく、都市景観大賞も受賞した美しいものらしい。超穴場スポットで、フォトコンテストにぴったりだ。
「この護床工で入賞を目指そう。目標、一日乗車券2枚!」
 涼夏が頑張ろうとガッツポーズした。随分控えめだが、妥当な目標である。ちなみに最優秀賞は、電子マネー5千円分だが、ちょっと私たちの写真では厳しそうだ。
 バスを降りて住宅地を抜け、大きな団地を眺めながら堤防の階段を登ると、そこには緑が広がっていた。そして、緑以外には何もなかった。一応コンクリート製と思われるベンチはあるが、手入れされている形跡はない。
「野趣に富んだ緑地だな」
 涼夏が呆れたように肩をすくめると、絢音がくすくすと笑った。芝生と呼んでいいのか、草地の向こうに木々が生い茂っており、その向こうに3段になった細長い半円形の護床工が見える。役割は同じなのだろうが、コンクリートブロックとは明らかに一線を画した建造物だ。
 とりあえず、川沿いの道を散歩している写真を撮ったり、爽やかな音を立てる護床工を撮ったり、少し歩いて橋や橋からの風景を撮っている内に西の空が赤くなってきた。
 この場所にはすでに飽きてはいたが、ここよりも夕日が綺麗に見える場所が近くにあるとも思えないので、もう少し滞在して赤く染まる空や川を撮影した。もちろん私たちも入ったし、フォトコンテストには関係ない写真も撮った。
 街灯に照らされた薄暗い道を歩きながらバス停に向かう。区役所が近いこともあって、バスは時間を調べる必要がない程度には本数がある。
「結局10ヶ所くらい回ったな」
 涼夏がカメラロールを指で弾きながら言った。朝から回っている割には少ないが、バスを使っているので仕方ない。改めて見てみると本当にただ写しただけだが、人が入っているので観光地感は出ている。
「あんまり同じようなのいっぱい送ってもしょうがないから、また後日みんなで選別しよう」
 涼夏の号令に、異存はないと頷いた。今日はもう、電車に乗って解散である。お金があればファミレスでも行って感想を語り合いたいところだが、一日乗車券も買ったし、何よりカフェで千円以上使った。これ以上の余裕はない。
「今日は天城区再発見の旅だったね」
 バスに乗ってそう切り出すと、涼夏が大きく頷いた。
「人生で天城区についてこんなに考えたのは初めてだ」
「それが目的のコンテストだった気もするね」
 そう言って絢音が笑う。当初、応募された写真で天城区の魅力を知ってもらうイベントだと考えたが、市民にバスを使って天城区を回ってもらうイベントだったように思える。実際、一日乗車券を4枚も買ったし、交通局もほくほくだろう。また来たくなるようなスポットがあったかと聞かれると微妙だが、冬は鳥がたくさん飛んでくるそうだし、野鳥が見たくなったら来るかもしれない。
「さらば、天城区」
 残念ながら、普通に生活しているとまったく来ることのない場所にある。そういう区は他にもたくさんあるので、またこうしてみんなで回れたら嬉しい。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

ツルギの剣

Narrative Works
青春
 室戸岬沖に建設された海上研究都市、深水島。  舞台はそこに立つ女子校、深水女子高等学校から始まる。  ある日、深水女子高等学校の野球部に超野球少女が入部した。  『阿倍野真希』と呼ばれる少女は、ささいなことから本を抱えた少女と野球勝負をすることになった。  勝負は真希が勝つものと思われていたが、勝利したのは本の少女。  名前を『深水剣』と言った。  そして深水剣もまた、超野球少女だった。  少女が血と汗を流して戦う、超能力野球バトル百合小説、開幕。 ※この作品は複数のサイトにて投稿しています。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

処理中です...