血塗れダンジョン攻略

甘党羊

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満身創痍

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 ベリアルタランチュラ
 レベル:6
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 棍棒を投げつけ、予備の棍棒をズボンの隙間に捩じ込むと同時に大蜘蛛のステータスをチェックする。

 すると、悪魔の名を冠する物騒な名前が見えたと同時に、レベルの低さに驚愕する。
 ここで多少頭が冷え、燃えるような怒りは鳴りを潜めた。だが、怒っている事にはかわりはない。

「アハハハッ!  産まれたてなのか?  弱いはずはないんだろうけど......レベル低すぎない?  このダンジョンの仕組みがよくわからないから油断はしないよ。死ね」

 荷物を入り口に投げ捨て、片手に金砕棒、片手に肉食ナイフを装備して棍棒を追いかけ走り出す。糸が仕掛けられていても棍棒がどうにかしてくれる。その後ろを着いていけば即死はない。

 ナイフを装備したのは糸を警戒して、金砕棒はメインウェポンという点と、突起が糸に有効かもしれないという点を加味した結果こうなった。

「アハハハハァ!!」

 高速で飛んでくる棍棒を紙一重で右に避けて躱したタランチュラ。食事を邪魔された事でタランチュラの殺気が膨れ上がる。

 この大蜘蛛を相手にする上で注意する点は二つ。

 一つ、見えない糸

 一つ、毒

 強さは問題視しない。このダンジョンで出会う敵全てが格上だったので、今更と思っている。そんな事よりも蜘蛛糸とタランチュラの毒に注意を払わなければ拘束された末に食い殺されてしまうだろう。

「アァァァッ!!」

 金砕棒を持つ手側に避けたので、金砕棒で攻撃を仕掛ける。

 超高速で迫り来る棍棒を、紙一重だったが避けたので、敏捷の値は自分と似た数値と認定して立ち回ることを決める。

 先ずは突きを繰り出して様子見。振りかぶっての一撃は避けられた場合に一気に形勢が不利になる。

 バックステップで躱してくれれば確実に当てる事が出来るが......さて、どうなるだろう。


 ん!?  タランチュラの周囲にキラリと光る細い物が見える......やはり糸を用意していたのか......

 蜘蛛の糸は燃えやすいと聞いた事がある。

 雁字搦めにされて抜け出せなくなった場合は人体発火のように魔法を使えばなんとかなるか。毒はきっと状態異常耐性が仕事してくれるから即死は無いと思いたい。

 ......なんだろう。そこまで心配しなくてもいい気がしてきた。


「......キィィ」

 イラついたような音を発しながらバックステップで避けるタランチュラ。

 狙い通りの行動に、思わず口元が歪んでいくのがわかった。ポーカーフェイスの方がいいのだろうけど、笑うのは抑えられない。

「ハハハァッ!!」

 突き出した腕を捻り、コークスクリューブローのように撃ち込む。

 だが、これでもリーチは足りない。タランチュラには届かない。

 ならばどうするか......関節を外せばいい。昔の漫画でそんな技があったのを見た事がある。自分は怪我を恐れる必要がなく、体は脆い。だからこそ出来る芸当だ。

「......ッ!  ギギィ!」

 関節や筋繊維が嫌な音を立てながら腕を伸ばしていく。予想外のリーチにタランチュラが驚き、回避を急ぐ。

 バツンッ!

 突き出した勢いと捻り、金砕棒の重みによって右手が捻り切れて飛んでいく。
 それもタランチュラには予想外だったらしく、一瞬ヤツの身体が硬直――


 回避の遅れたタランチュラは、金砕棒に左側面の脚を三本撃ち抜かれて喪い、バランスを崩して跳んだ先に倒れ込んだ。


 当初の予定では前脚を一~二本奪い、関節の抜けた腕は蛇腹剣のように戻る予定だった。
 バランスの取れない身体になり、自分に対する警戒心を一層強めたタランチュラ、メインウェポンを失いリーチの短いナイフと、新しく生えてきた腕に予備の棍棒をセットする。

 タランチュラは残った脚でどう戦うか......それを考えている様子。立ち方や動き方のチェックをしている。

 タランチュラが今まで通りに動けない今が好機と見て、距離を詰めていく。

「アハハッ......強者は強者らしくドーンと構えてればいいのに......面倒だなぁ」

 自分の得意なレンジを保ちながらこちらを牽制してきてやりにくい。アウトファイターとインファイターは相性が良くない。アウトファイター目線では相性が良い相手だと考えるのだろうけど......


 尻の方がピクピクと動いているので、相手は糸を吐き出して罠を設置しているように見える。決めつけはよくないが、そういう事だろう。

 それならば......

 大蜘蛛と相対してから持つだけで一度も使っていなかった食肉ナイフを握る手に力を込める。それに加えて戦闘には殆ど使用していなかった魔法を併せていく。

 大体イメージでなんとかなってきた。あの時の大爆発が良い例といえる。

 ぶっつけ本番になるが......ダメならダメでまた爆発させればいい。あのゾンビよりも回復力は上なのは解っている。

「ギギギギギ」

 こちらが集中しようとした隙を突き、不快な音と共にタランチュラが動く――


 上手くバランスが取れないであろう欠けた脚で天井スレスレまで跳躍したタランチュラ。

「アハハッ、それくらいならカウンター合わせて終わりだけど......どうせ何か企んでいるんでしょ」

 このまま馬鹿正直に落下してくる事は無いと確信し、魔法を発動させていく。

 目指すのは、刃が燃えるナイフ。

 RPGやファンタジーなアニメでお馴染みのアレだ。どうせ上手く出来ないのだから、暴発する事も視野に入れ、MPの80%を注ぎ込んだ。

「ギチチッ」

 こちらの思惑とは別に、そのまま馬鹿正直に落下してくるタランチュラ。


 ――あと一秒でこちらの間合い

 どんなイレギュラーな行動が来ても、ノーダメージで乗り切ってやる。

「ふぅぅ......」

 深く息を吐き、いつでも魔法が発動できる状態をキープしながら相手の動きを注視。

 さぁ、どう来る――




 相手は手負いで、こちらには空間把握もあり、敏捷も勝っている。
 頭が冷えていて、冷静になっていると思い込んでいたのも悪かったかもしれない。


 タランチュラが広範囲に毒々しい紫色の液体を吐き出す。一点集中か散弾タイプではなく、ただただ散布するように広範囲に吐き出した。

 それの対処をどうしようかと悩みつつも、タランチュラも毒液も近付いてくる......

「死なば諸共......なのか。でも......ッ!!」

 毒液に気を取られすぎていた自分に突き刺さる三つの衝撃。カウンターを食らわせようと思っていたタランチュラは落下してきていない。

 脇腹に刺さったモノを抜き、苦し紛れにタランチュラに向けて投げる。

 自分に刺さっていたのはヤツの脚

 その脚をタランチュラは余裕で避けて笑い、こちらには紫の雨が降り注いだ――

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