血塗れダンジョン攻略

甘党羊

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漏れ出る

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「ん......ふぁぁぁ。っと、身体の調子は......うん、ヤバいくらい良いな」

 目が覚めた匠は上半身を起こして肩を回したりしながら体調をチェックし始めた。
 呪いに侵食された......というか、全身呑み込まれて漬け込まれた割には全く違和感も倦怠感もなく、寧ろ絶好調といっていいくらいのコンディションになっていた。今ならあのクソ腕ゾンビに被弾無しで勝てそうと思ってしまう程だった。

「よっこい......ッ!?!? ......はぁ!??」

 問題無し! と結論付け、立ち上がる為に地面に手を付いた、その時......手からタールのような液体が滲み出して地面を濡らした。
 タールのような液体は見覚えのあるモノだった。詳しく言えばつい先程呑み込まれた、アレ。

「えぇぇ......し、絞れば全部出し尽くせるかな......」

 雑巾よろしく自分の身体を絞って染み込んだ呪いを排出しようなどと狂った事をノータイムで考えつく、狂人がそこには居た。

「よーーーく見てみると......うわぁ......薄ぅく、なんかよくわからない模様が両腕にあるよぉ......え、コレってまさか呪いが定着して刺青っぽく浮き出てきたって事?」

 背中にびっちりと刺青チックな呪痕が入っているのだが、背中という部位は意識して見るなどしないと普通に生きていては見ることのない部位なので気付くことは無かった。
 日本人というのは刺青文化にはとても疎い。刺青があるだけで公共施設使用が制限されたり、仮令反社会的勢力との関わりが無くても反社会的勢力に見られたりする為、外国のスポーツ選手を見るか極道映画を見るかでしかお目に掛かる事は無いだろう。
 そんな人種だけは元だけど日本人な匠も勿論、刺青文化には浸透していなかった。なので、薄くではあるが入ってしまった刺青チックな何かにとても困惑してしまっている。

「うわぁ......これもう完全に悪だわ。正義の味方に憧れがあるわけじゃないけど......この見た目はちょっとアレすぎ......ッッ!?
 アハハハハハハッ!! ......はぁ......そうだ、俺はもう人じゃなかった。なんでこんな事で一喜一憂してたんだろ......別に何の問題も無いじゃん」

 誰に見せる訳でもなく、淡々とこのダンジョンを攻略して外に出て......クソゴミ産業廃棄物を撲殺するのが目標なんだから気にするだけ無駄だった。寧ろ、手札は有れば有るだけクソカス産業廃棄物クソ野郎に絶望を与えられる。ならば今は呪いサーバーな両腕になれた事を喜ぶべきなのである。

「......うん、クソみたいに弱い呪いな訳ないし、丁度いいじゃん。それに比べれば刺青っぽい何かが入った腕なんで些事だ」

 呪いでアホみたいに悪かった体調までも良くしてくれたんだ。たかが腕によく見なきゃわからない落書きされたくらい文句を言う事ではない。

「さぁて......進むか」

 持ち直した匠は荷物を纏めて収納へぶち込み、服を装着して奥へと進んで行った。その足取りはとても軽かった。



 ◆◆◆◆◆



「漏れ出す混沌......ねぇ......」

 オイル漏れのように気付いたら垂れてくる呪いのような何か。いつの間にか生えていたSAN値が試されるアレのような名前のスキルに戦慄する。ぶっちゃけこんなの要らない......と思うんだけど、これがまぁなんていうか......すっげぇ使えるからやるせない。

「MIGYAAAAAAAAAAA」

 目の前でグズグズになって崩れていくスケルトンがとても哀れで仕方ない。コイツら多分結構強いのに。

 いつもの先手必勝金砕棒をスマートに避けて俺に切りかかろうとしていたスケルトン君に漏れてた呪いオイルが振り切った腕から飛んで、一滴二滴頭蓋骨に引っかかったんですよ。そしたらね、ヒトが超強火で熱し続けた油を頭から被った感じになって苦しみだした次の瞬間、骨が腐った生肉のようにグズグズに。めっちゃ可哀想な状態なう。

「......なんかごめん」

 それでも死なない可哀想なスケルトンを金砕棒で叩き潰して殺した。結構な数をぶち殺してきたけど、その数ある中で一番、虚しい殺しだった。

 そのエリアに居たスケルトン全てに呪いオイルピュッピュッを試したが、結果は全て同じ有り様になった。
 その次のエリアに居たゴーストも溶けた。ゴーストはそのまま成仏して魔石になった。
 その次のエリアのミイラも同様。アンデッド系統は肉有り肉無しに関わらず、一撃で行動不能になった。ヤバいよね、コレ。

「ただなぁ......任意で出せないのが厄介」

 勝手に出てきて勝手に止まる。さすがSAN値をゴリゴリ削るアレに似た名前のスキルですよ......扱い難くて仕方ないけど超有用......はぁ。
 すんなりと行かないまでも、難なく敵をグズグズにして殺しレベルを四つ上げてこの階層を終わらせた。


 ◆◇原初ノ迷宮第七十五層◇◆


 一面黄金色をした薄暮の草原という素晴らしい景色が広がる階層に心弾んだのは一瞬......何故一瞬なのかって? 虫がいっぱい居たんだよ。
 このダンジョンで虫系のモンスターにいい思い出は無い。というか、殺意が高すぎるのにしか遭ってない気がして嫌悪感しかない。

 花の蜜を吸ったり、樹液を吸ったり、果実を食べたりする虫だったら何も思わない。だけど此処に居るのはそんな生易しい虫モンスターじゃない。

 目に付くのはスズメバチ、オニヤンマ、カマキリ、トノサマバッタ。癒し枠としてホタルを一摘み。多分その他にも肉食系や嫌らし系が隠れてると思う。
 ダンジョンの一階層をフルに使っての昆虫大戦争という蠱毒にも似た食物連鎖をしていた虫モンスター達の楽園の中生き残っているヤツらなのだから、弱かったり楽に倒せたりする筈がないから気持ちが沈んでいく。

「アレら相手に服なんて着てても意味ないよなぁ」

 武器以外の物全てを【中位収納】の中に仕舞ってから虫の待つ草原に向けて匠は歩を進めていった。本来なら蜂駆除業者のように隙間の無い服を着て相対するのが正解なのだが、匠の防御と虫の力の前ではそんな物は無意味であり装備するだけ無駄だった。
 歩きながら深い深い深呼吸を繰り返して覚悟を決めて駆け出した匠は、呪いオイルをたっぷり蓄えた右腕で金砕棒を振り宙に浮く蜂を叩きつつ呪いオイルを飛ばし、空いている左腕で火炎放射を行い虫を草原ごと焼き払う鬼畜の所業を敢行した。

 最初から情け容赦の無い行い。なぜなら匠が死ぬ可能性のある戦いだったからである。ヒヨコを使えば安全に広範囲を殲滅出来たのだが......ヒヨコは燃費が悪すぎる事と、階層が広すぎて二~三匹打っても階層の半分と少ししか燃やせず時間経過でリポップされてしまうから諦め、階層中を駆け巡りながら階段を探して行った方が攻略が早いからだ。経験値もこの階層の虫を全て殺さなければ得られない事も影響している。

「気持ち悪いなクソがっ!!!」

 突如現れた乱入者に、争っていた虫モンスターはダンジョンモンスターの本懐を思い出して即座に乱入者にいる方へ群がり始めた。先程まで争っていた虫同士とは思えない一体感を持って匠へと虫の波が、全方位から襲い掛かっていく。

 圧倒的な数の暴力に加えて個の暴力も強い多種多様な虫の群れに晒される匠は苦戦を強いられる。
 カエシの付いた毒針をぶっ刺し己の肉ごとソレを切り離して離れていく蜂や、鉤爪のような極悪な顎で腕を挟み抉り取るようにして肉を掻っ攫っていくトノサマバッタ、鋭さ特化ではなく肉への引っ掛かりを重視したノコギリ状の鎌で歪な切り傷を残すと共に体制を崩してもいくカマキリなど、一筋縄ではいかない過酷な環境の中を生き残る為に独自の進化を辿った厄介な虫モンスター達。

 そんな脅威の虫モンスターだが所詮虫であり脆い。
 匠の膂力の前では一撃与えられれば死ぬ虫だったが、虫故のその体重の軽さで匠の振るう金砕棒が巻き起こす風圧で軌道上に居ない虫モンスターは吹き飛ばされ致命傷を回避する為に数が殺せず、吹き飛ばしてもダメージは薄いので直ぐに立ち直り再び襲いかかってくる。これには匠も苛立ってしまう。
 悪手になる可能性も否定出来ないが、今は目の前の脅威をどうにかしないと次がどうこう言えない為に火炎放射を即座に止めて金砕棒に炎を纏わせ、空いた左手にナイフを装備し、ソレに触手を生やしてバラ鞭状へ変化させる。

「範囲攻撃を増やせばどうにかなるか......? あ゛ぁ鬱陶しいッッ!! とりあえず数を減らさないとだなぁっっ!!」

 顔面に張り付こうとするホタルを必死に避け、耳元でブンブン五月蝿いアシナガバチを炎の金砕棒で振り払う。熱波でダメージを負ったり掠った炎に羽根を焼かれたりとボトボト落ちていくのを無感情に見送る。
 それでも虫の波は退かず、媚ず、顧みず、わらわらと群がるのを止めない。

「......チッ、キリがないッ!! てかなんだよクソッ!! 呪いオイルはアンデッド特攻なのかよ!! 虫にも効けや!!」

 これまで見る余裕が無くて効果の程がわからなかったが、目の前で呪いオイルを浴びたクマバチはグズグズにならなかった。しかし見る限り動きは鈍っているから生き物がコレを食らえば俺が食らった時同様の効果があると思われる。

「あぁぁっ!! もっと蛇口から出る水みたいにドバッと出やがれ!!」

 叫びながらホースで水を撒くようなイメージで出ろと念じるが出ない。当たればデカいが性能がピーキーで扱い難い......全く......面倒臭い。

「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァァァァッ!!」

 それでも金砕棒と触手を振るうしかない。

 虫の波は未だ引かない。
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